みなさんは「消費者、生活者、顧客、ユーザー」のどの言葉を使っていますか?
久々のコラム復活です。私のコラムではこれまで、アンバサダープログラムに取り組んでいる企業担当者の方々へインタビューを行い、取り組みの理由や成果、課題などをお聞きすることを続けてきました。アンバサダーを重視した取り組みとは一体どういうものなのか、今までのマーケティングを、企業にとって一番の応援団であるアンバサダーの視点から見直し、そのメカニズムを明らかにしてきました。
そしてその考え方をまとめた『顧客視点の企業戦略-アンバサダープログラム的思考-』という書籍を宣伝会議から出版いたします。そこで出版記念として、今までのインタビューではお伝えきれなかった内容について、しばらくコラムを書かせていただくことになりました。よろしくお願いします。
ファン重視とは、既存顧客を重視すること
「企業やブランドのファン」を重視するアンバサダープログラムには、今までのマーケティングでは見過ごされてきたいくつかの重要な側面があります。その一つに「既存顧客重視」が挙げられます。
「企業やブランドのファン」とは、そもそも該当商品やサービスを使っている人、つまり「既存顧客」であり、アンバサダープログラムの本質は「既存顧客を大事にしよう」という点にあるのです。何をいまさら、と思われがちですが、これはとても大事な視点です。もちろん「顧客主義」「顧客重視」「顧客の体験を重視する」など、顧客重視に関して異論を挟む人はいないでしょう。ビジネスや商いにとって顧客、すなわちお客さまを大切にしないことは考えられません。いわば商売の基本中の基本だと思います。
では、マーケティングや広告の仕事をするうえで、既存顧客をどれだけ重視しているのか、といえば、少し疑問が残るのではないでしょうか。なぜなら、多くの場合、無意識に「新規顧客」の獲得を目指すマス・マーケティングありきで広告コミュニケーションに取り組んでいる場合が多いからです。商いの基本はお客さま重視であり、お客さまに対しておもてなしをしたり、喜んでいただいたりすることです。
いつも来ていただき、買ってくれるお客さまが近くにいるのに、現在のマーケティングや広告、その予算はまだお客さまではない方々に向けられているのです。これは大きな矛盾ではないでしょうか。
あなたはどの言葉を使っていますか?
いつも使っている言葉は重要です。言葉の使い方一つで、その業界が置かれている立ち位置や、その人の考え方がわかったりします。
例えば、みなさんは普段、「顧客」という言葉を使っているでしょうか。もちろん顧客という言い方は堅いので、なかなか会話には出てこないかもしれません。しかし、顧客を重視するのであれば、普段の仕事の会話に「顧客」あるいはそれに類する言葉、例えば「お客さま」、「今買ってくれている人たち」と言った言葉がたびたび出てきてもおかしくはないはずです。しかし実際は少ないのではないでしょうか。
マーケティングや広告業界でよく使われる単語に、「消費者」「生活者」「顧客」「ユーザー」という言葉があります。みなさんは、それらをどのように使い分けていますか?あまりに一般的な用語なので、意味の違いを意識していない人が多いかもしれませんが…。そこでクイズです。それらの言葉の違いを考えて下の表を埋めてみませんか。
goo辞書の小学館提供の『デジタル大辞泉』の解説を見てみると下記のように解説されていました。
マーケティングや広告の教科書によく出てくるのは、「消費者」(コンシューマー/consumer)という単語です。これは、馴染みのある単語です。しかし、この言葉の欠点は、私たち人間を「商品やサービスを消費する存在」としてのみ捉えている点です。
「消費者」は、私たちのある一面を捉えていますが、私たちのすべてではありません。私たちはモノやサービスを消費するだけでなく、音楽を聴いたり、人と話をしたり、映画を見たり、怒ったり、悲しい気持ちになったり、ペットと遊んだりする人間であり、実際に生きて暮らしている存在です。
そうした私たち人間の全体を捉えようという視点から、いつしか広告業界では、「生活者」という言い方が一般的になってきました。つまり、「今回の商品を生活者にどうアプローチするかが課題だ」とか、「今の生活者に届けるためには、もっとこうしなければいけない」などと言った使われ方です。
最近では「ユーザー」という言葉も一般的になりました。これはインターネットが普及してから急激に使われ始めた印象があります。これは「利用している」という意味に使われる場合が多いようです。つまり、世の中の商品やサービスのあり方が拡張して、実際に購入して消費するだけではなくなったという状況が背景にあると考えられます。
最後に「顧客」です。顧客とは実際に購入している人たちです。つまり「消費者」が、該当商品やサービスをまだ購入していない広く世の中の人一般を指すのに対して、「顧客」はすでに購入して使っている人たちを指す言葉です。『デジタル大辞泉』によると、さらに一歩進めて「ひいきにしてくれる客。得意客。」と解説されています。
この、ひいき客、あるいはお得意さまとは、言い替えれば「ファン」です。つまり、マス広告ができるだけ多くの「消費者」、あるいは「生活者」にアプローチして、できるだけ多くの「新規顧客」を獲得しようとするのに対して、アンバサダープログラムでは、実際に買ってくれているお客さま、つまり「顧客」=「ファン」を重視するのです。これは新規顧客の獲得を軽視しているわけではありません。「既存顧客」を通じて「新規顧客」にアプローチする方法でもあるのです。
『顧客視点の企業戦略-アンバサダープログラム的思考-』は、既存顧客を重視するアプローチに関する本です。これはいわば今までのマス・マーケティングとは真逆の考え方であり、今の時代に求められている、マス・マーケティングと対を成す考え方の指南書でありガイドなのです。
さて、あなたは普段、マーケティングや広告の仕事をするうえで、「顧客」に近しい言葉をどれだけ使っているでしょうか。
※このコラムは、宣伝会議Advertimesに寄稿したものの転載です。