マーケティングの4Pは知っていても、4Cを知らない人が多いのはなぜだろう?

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これまで私が担当してきたコラムでは「アンバサダープログラム」を運営している企業の担当者の方へのインタビューを続けてきました。今回は、その前提となる考えをご紹介できればと思います。テーマは、「4P」「4C」「顧客志向」です。

4Pがマーケティングを“見える化”した

マーケティングの教科書に必ず出てくるのが、いわゆる「4P」です。マーケティングにあまり詳しくない人のために解説すると、4Pとはジェローム・マッカーシー(Jerome McCarthy)が1960年に書籍『ベーシック・マーケティング』で提唱した概念で、企業のマーケティングを考えるための有名なフレームです。

具体的には、Product(製品)、Price(価格)、Place(流通)、Promotion(プロモーション)のことで、それらのすべてがPで始まることから、4つの頭文字をとって4Pと呼ばれています。

この概念は簡潔でわかりやすいため、現在にいたるまで広く浸透しています。企業がマーケティングで行うべき内容はさまざまな領域に及び、その全てを見渡すのが難しいなかで、その要素をこの4つに集約させたことは大発見であり、マッカーシーの功績と言えるでしょう。つまり、4Pとはマーケティングという複雑なシステムを「見える化」したキーワードという言い方ができそうです。

個人的な思い出になりますが、私は4Pを初めて知ったときに中学校で習った「フレミングの左手の法則」を思い出しました。そうです、電流の向きと磁界の向きの2つの関係をわかりやすくした法則です。

当時、私は左手を使ったあの独特のカタチを、クラスの仲間たちに向けて得意げにつくっていました。あのカタチを作ることで、電磁誘電に関する物理の真理を自分の手中に収めたような錯覚を覚えていたのだと思います。なんという短絡的な満足でしょうか。

ただ、私たちは世の中に存在する難しくてわかりづらい仕組みを、シンプルに説明されたときに、その鮮やかに感銘を覚えるのも事実です。「4P」という言葉の響きにも、そうした鮮やかさがあるのだと思います。

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4Pの特徴を一言で言えば、企業が自社でコントロールできる施策だという点です。さらに、このフレームの活用は、自社の状況や社会、競合との関係からそれぞれの施策を考え、かつ最適な組み合わせを行うことを意味します。

その最適な組み合わせが、教科書に出てくる「マーケティング・ミックス」です。4つのPの施策を練り上げることで全体的な戦略性を高め、市場で勝負をかけようというわけです。

しかし、問題はここからです。

確かに、4Pのフレームワークはわかりやすく体系化されています。しかし、社会環境は時代とともに変化します。4Pが提唱された50年以上前と現在とでは、生活者の暮らしも市場環境も全く違うわけです。

マーケティングも時代に合わせて変化していくべきです。そこで、4Pは「それだけ考えればうまくいく」という魔法の杖ではなく、マーケティングを分析するための枠組みと考える方がいいでしょう。

あまり知られていない「4C」とは何か?

「4C」という概念をご存知でしょうか。「4P」ほどは、知られていないようです。

マーケティングを学んでいる大学生と話をしていても4Pの話はよく出てきますが、4Cについては知らないことがほとんどです。しかし、この4Cこそ、近年のマーケティングで実際に行われていることに近い概念だと私は思います。

4Cはロバート・ロータボーンが1993年に提唱した概念です。このユニークな点は、4Pを企業という売り込む側からみた「売り手・企業視点」と捉え、これからは消費者側からの「消費者・顧客視点」が大事だと言ったのです。つまり、4Pを消費者・顧客視点から見た価値に置き換えて再定義しているのです。

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これは本当によく考えられた概念だと思います。4Pを顧客側からみると、「製品」は「顧客が抱える課題の解決」であり、「価格」は「顧客が支払う費用」であり、「流通」は「顧客にとっての購買利便性」であり、「プロモーション」は「顧客へのコミュニケーション」である、というわけです。

この概念を使って“顧客にどんな価値が提供できるのだろう”と考えると、さまざまなヒントや解決の糸口が見つかります。さらに、企業が行うさまざまな施策についても納得できる解釈が可能です。

またしても個人的な話で恐縮ですが、私は4Cについても印象深い思い出があります。それは随分昔のこと、当時勤めていた広告会社の先輩からのちょっとしたクイズでした。その先輩のマーケターは私に次のようなクイズを投げかけてきました。

「最近、四角いペットボトルの飲料が発売されたけど、どうしてか知ってる?」

そうです、今ではさまざまな種類のペットボトルが普及していますが、当時は丸い形状のものしかなかったのです。答えはもうおわかりですよね。「冷蔵庫のポケットにぴったり収まるように」です。

当時、私はこれが4Pでいう「product」が4Cの「Customer Solution」に変わった瞬間だと妙に納得したものです。つまり、顧客の利便性への配慮がなければ四角いペットボトルは生まれないからです。そして、4Cとは顧客である自分にとっての「便利」や「簡単」、「使いやすさ」を考えることで見えてくるのだなと思ったのでした。

マーケティングは生きている

この連載ではファンや顧客を大切にした、アンバサダープログラムを運営している企業の担当者へのインタビューを続けています。そこで感じることは「柔軟性」です。何かを維持したり、守ったり、固定化させたりするのではなく、状況に合わせて柔軟に対応しています。

さらに大事なことは、取り組み自体をどんどん進化させていく姿勢です。そうした姿勢があるからこそ、時代に呼応したマーケティングが実施できているのではないでしょうか。

マーケティングのフレームは1993年の時点で4Cが提唱されましたが、さらにその概念は「IMC(統合マーケティングコミュニケーション)」へ進化していきます。そして、日本におけるIMC研究の第一人者である小林保彦先生の研究成果へとつながります。小林先生は私が尊敬し、多くのことを学ばせてもらった先生なのですが、その話はまた今度とさせてもらいます。

ここで大事なのは、マーケティングは生きているということです。物理の公式や数学の方程式は不変であることが求められますが、マーケティングは時代や暮らしとともに変化していくことが、むしろ大事なのだと思います。つまり、変化することで人の暮らしと並走できるというわけです。

そして、近年のソーシャルメディアの発展はじめ、メディアや情報発信のあり方が変化を迎えた今のマーケティングのカタチが「アンバサダープログラム」と言えるのではないでしょうか。企業と顧客が一緒にマーケティングを進化させていく時代の感覚をこれからもお伝えしていきます。

※このコラムは、宣伝会議Advertimesに寄稿したものの転載です。

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2016年8月29日


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