超アウェーな現状を受け止めたうえでの「広告の未来」とは?

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「広告」も間違いなく「情報」だった

前回のコラムでは、書籍『明日のプランニング』(講談社現代新書) の中で、さとなおさんが書いている一節「広告の99%は伝わらないという圧倒的絶望」について考えてみました。

この話についてあわせて考えるべきなのが、このコラムのタイトルにもなっている「アンバサダー視点」、つまりは顧客視点やユーザー視点で考えた場合の広告の位置付けの変化だと感じます。

マスマーケティング時代においては、企業と顧客の力関係を比べた場合、企業側が圧倒的に有利な立場にいたと言うことができます。

顧客が製品やサービスの情報を得るための情報源はテレビや新聞、雑誌、ラジオなどのマスメディア、あとは書籍やリアルのクチコミが中心でした。当然、マスメディアで取り上げられる情報量には限りがありますし、書籍は有料です。さらにリアルのクチコミはその商品やサービスについて詳しい人に会って話を聞くためには非常に高いハードルがあり、本当に必要な情報をすぐに得られるケースは少なかったと言えます。

そういう環境においては、マス広告も顧客にとっては重要な情報源の一つとしてしっかり機能していたわけです。

私自身、子供の頃に新しい商品やサービスを知るのはテレビCMが中心でしたし、学校での同級生との話題の中にもテレビの話題がかなりの比重を占めていた世代です。テレビCMをトイレタイムと揶揄する向きもありましたが、この時代のテレビCMは明らかに重宝されていたと言っても過言ではないと思います。

自分の経験で今でも良く覚えているのが、なけなしの小遣いを使ってパソコンゲームを購入していたときの自分にとっての広告の位置づけ。パソコンゲーム雑誌『ログイン』などを買いあさっては、記事で取り上げられていないゲームの細かい情報を探すべく、雑誌に掲載された広告の画面写真や小さい文字を端から端まで読んで、一番面白いゲームはどれなのかを熟考していたのをよく覚えています。

当時は「広告」も間違いなく「情報」として重宝されていたわけです。

マスマーケティング時代は、こうしたマス広告の影響力もあり、全てがこうした大量生産大量消費に最適化されていきます。

テレビCMなどのマス広告を大量に投下する製品は、売上も上がりやすいわけですから、小売りも店頭の販売スペースを大量に確保することになります。マス広告によって売上をあげることができるわけですから、細かい種類の商品を多数作るよりも、できるだけ大勢が買ってくれる商品を少数に絞って生産する方が、企業からするとはるかに効率的です。当然、多くの企業がメガヒットを目指して大型商品に注力することになるわけです。

「マスマーケット」に対して、「マスプロダクション」した製品を、「マス広告」を通じて売り込む。マスマーケティング時代は、企業活動全体がこの「マス」というキーワードに最適化されていた時代と言えるでしょう。

ただ、この流れが、現在ではインターネットの普及や、顧客の嗜好の多様化によって大きく代わってきているのは皆さんもご承知の通り。

さとなおさんの言葉を借りると、特に「広告」にとって超アゲンストであり超アウェーな状況になってきているのです。

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ここで注目していただきたいのが、このマスマーケティング時代の一連の最適化の構造が、実は今の時代の「顧客視点」で考えると真逆になってしまうことが多いという点です。

広告の未来における二つの流れ

そもそも、一人ひとりの顧客は決して「マスマーケット」としての大衆ではなく、さまざまな趣味趣向を持った多様な人間です。

そういう意味では、一人ひとり自分に最適な多様な製品やサービスを求めており、「マスプロダクション」による大量生産の商品は、実は一人ひとりのニーズや趣向と必ずしも完璧に合っているわけではありません。。

当然マス広告によるメッセージも、それが本当に刺さる人と刺さらない人が多様に存在しているわけです。日清食品 カップヌードルのテレビCM「OBAKA’S UNIVERSITY」が一部の人には喜ばれ、一部の人からはクレームの対象になったのが象徴的な出来事と言えます。

顧客の趣味趣向が多様化している以上、1種類で日本全国1億人に感動される商品やサービスの開発が難しいのと同様、1つのテレビCMで日本全国1億人の賛同を得ることは非常に難しい行為なわけです。

そうなると、同じテレビCMも一部の人には引き続き情報源であっても、他の一部の人にはノイズになることになります。
 
さらに悪いことに、ネットの普及で顧客の情報収集能力が上がった結果、広告経由で情報をもらわなくても情報がいつでも入手できる時代が到来しています。

売り込み的な宣伝メッセージは、顧客にとって、家事で忙しい時に必要のない製品を訪問して売り込んでくる空気を読まないセールスマンのような印象を受ける時代になってしまったのです。

実はマスマーケティングという手法は、一人一人の顧客視点で考えると、顧客視点ではなくあくまで企業側、売り手側の視点で最適な手法であって、顧客視点では最適な手法ではなかったというわけです。

現在のネット広告の未来は、この前提を受け止めると、二つの流れが重要になってくるのが分かります。

一つは、広告を「マス」ではなく細かくターゲティングして表示を出し分ける流れです。個人個人の興味のある内容の広告を細かく出し分けることができれば、自分に関係ないマス広告に比べると、ノイズ感は薄まるはずです。

もう一つの流れは、広告を従来のマス広告的な企業目線での宣伝メッセージではなく、もう一度「情報」や「コンテンツ」に戻そうという流れです。企業がペイドメディア一辺倒のマスマーケティング時代に対して、オウンドメディアやアーンドメディアの組み合わせにも注力するようになっているのも、この流れと言えますし、ペイドメディアにおける象徴的なトレンドと言えるのが「ネイティブアド」化でしょう。

広告自体が、空気を読まないセールスマンではなく、情報を教えてくれる存在に戻ることができれば、ノイズ扱いされずに済むはずです。

マスマーケティング全盛の時代に比べ、インターネット時代、ソーシャルメディア時代は一人一人の顧客と企業の力関係がフラットになった時代と言えます。

「広告」というものを、マスに大量に情報を届ける行為と考えるのではなく、改めて本当の意味の顧客視点で、どういう「広告」であれば顧客は喜んでくれるのかを考えれば、新しい「広告」の可能性が見えてくるように思います。

※このコラムは、宣伝会議Advertimesに寄稿したものの転載です。

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2016年9月27日


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