広告がブロックされてしまう時代に、広告主の姿勢はどう変わるべきか

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無視できなくなってきたアドブロック問題

前回のコラムでは、マスマーケティング時代に比べて明らかに広告がアウェーな時代において、広告はどう変わっていくべきなのかという話について考えてみました。

この話の延長として問題になってくるのが、「広告」が変わらなければいけない以上、「広告主」の姿勢も変わらなければいけなくなるという点です。そこで今回は、「ad:tech tokyo 2016」で「広告がブロックされる時代の新しいコミュニケーションの形とは」というパネルディスカッションのモデレーターをさせていただいた際の議論を、一つのヒントとしてご紹介したいと思います。

このパネルディスカッションではタイトル通り、アドブロックのようなツールが使われ始めている今日において、企業はどのようにコミュニケーションを考えるべきなのか、ということをメインテーマにしました。

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「アドブロック」は、海外のネット広告業界を中心に非常に物議を醸しているテーマです。昨年の段階で、世界で2.7兆円規模の損失が出ているという試算も出ていましたが、すでに海外の一部の国では20代の若者世代でアドブロックのツール利用者が50%を超えているところも出てきているようで、大きな問題になっています。

広告ブロックで2.7兆円損失 モバイル向けも利用拡大の兆し

幸い日本においては、まだその利用率は多く見積もっても10%程度だそうですので大きな影響はでていないようですが、このアドブロックの議論を考える際に重要なのが、ユーザーにとって明確に、いわゆるネットのバナー広告がノイズになってしまっているという現実です。

本来論で言えば、ウェブ上のニュースサイトなどを無料で閲覧できるのは、そのニュースサイトが広告による収入で運営されているからです。そのサイトを、アドブロックツールを入れた状態で閲覧することは、メディアからすると言葉を選ばずに言えば、泥棒のような行為で恥ずべき行為のはず。にもかかわらず、海外でこれほどまでにアドブロックが利用され市民権を得てしまっているのは、ネット上の広告がある意味スパム扱いされ始めており、ネット広告をブロックするという行為が正当化されやすい雰囲気にあるからだと言えます。

一方で、ネイティブアド企業として有名なSharethrough社が、ネットのバナー広告はほとんどのユーザーが無視するようになっているという調査結果も出していました。

ネイティブアドはテレビCMに代わる新たな認知獲得の手段になるか

つまり、ユーザーがネット広告を、物理的にも意識的にもブロックしてしまう時代に突入しているのは明確なわけです。

ただ、当然企業側としては、広告がブロックされるからといって手をこまねいているわけにはいきません。では、どうするのか?という点で、パネリストの方が紹介されていた活動をご紹介しましょう。

広告をコンテンツ化することで脱ノイズ

パネリストには、ヤマト運輸の広報戦略部長である阿部和彦さん、日本ケロッグのマーケティング部グループマネージャーである五味田里美さん、そしてスバルでネクストストーリー推進室の担当部長をされている岡田貴浩さんの3名の方に登壇していただきました。(なお、筆者が勤めるアジャイルメディア・ネットワークでは、ヤマト運輸のクロネコヤマト アンバサダー及び、日本ケロッグのオールブランアンバサダーの支援をしています。)

3人のパネリストの方々に共通しているのは、広告もPRも両方関わった経験があり、従来の広告だけに依存しないユーザーとのコミュニケーションを模索されているという点です。

その中でも、ヤマト運輸の阿部さんと、ケロッグの五味田さんの2人に共通しているのは、マスもデジタルもPRも統合的に考えなければいけない立場であるという点。

日本ではテレビの力が強いですから両社ともテレビCMを初めとしたマス施策は当然実施しています。ただ、マス施策だけでは届かない人たちや、マス施策では伝えきれれないことを伝えることの挑戦としてお二人とも取り組んでいるのが、いわゆるコンテンツとしてのネット動画です。

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例えばヤマト運輸では、宅急便コンパクトを開始するにあたり、当然テレビCMも展開していますが、こんなネット動画にも挑戦され話題になりました。

テレビCMがCGも使って作り込むのに対し、こちらのネット動画は2分弱の動画のために8時間以上の撮影を行って、CGを使わないリアルな動作を撮影するのにこだわったそうです。

一方でケロッグでは、フルーツグラノラのプロモーションとして、こちらもテレビCMも実施していますが、YouTube上ではこんな動画に挑戦されています。

<動画は期限切れのため削除しました。>

テレビCMでは商品の特徴やおいしさをアピールすることが中心なのに対し、こちらのYouTube動画ではお笑いコンビ・オードリーの春日と子どもたちが登場するダンス体操動画を配信。

どちらも明らかに、テレビCMとネット動画で真逆のアプローチと言えるでしょう。

テレビCMであれば番組の間に自動的に放送されるため、ある程度企業側の宣伝色が強いメッセージでも多くの人に見てもらえますが、ネット動画では「コンテンツ」であることが重要になります。広告としてブロックされる動画ではなく、コンテンツとして楽しんでもらえる動画であるかどうかが非常に重要になると言えるでしょう。

動画がコンテンツとして面白ければ、それをネイティブアド的に配信すれば、広告を意識的にブロックする人たちもコンテンツとして楽しんでくれる可能性があるわけです。

参考:ケロッグ、ユニークなダンス動画で子どもたちに朝食の習慣化を促す

一方、3人の中で異色なのが、スバルネクストストーリー推進室という広告ではできないことを行うのが役割という専門部署で、既存顧客とのコミュニケーションに取り組んでいる岡田さんです。

広告がブロックされる時代のもう一つの選択肢

例えばスバルでは栃木県の実験センターで2000人のファンとファンミーティングを開催しているそうです。

ある意味、既存顧客というのは既にスバルの車を購入した人であり、今すぐ車を買ってくれる新規顧客ではありません。ただ、既存顧客とのコミュニケーションに力を入れることで、既存顧客がスバルのファンになってくれれば、当然ながら車を買い替える際にまたスバルを選択してくれる可能性が上がりますし、ファンがほかの顧客を連れてきてくれる可能性もあるわけです。

既存顧客であれば、スバルからの「広告」メッセージを、「ノイズ」としてではなく「情報」として受け取ってくれる可能性が上がります。こうした既存顧客とのコミュニケーション強化も、ある意味広告がブロックされてしまう時代の一つの選択肢と言えるように思います。

スバルでも新規顧客獲得のためのテレビCMは実施しており、ネクストストーリ推進室がファンミーティングに注力できるのは、それが主目的の部署だからという点は重要です。

岡田さんとしても、こうしたいわゆるファンとの「エンゲージメント」を重視した取り組みにどういう効果があるのかという点については、参加したファンのアンケート結果や、ソーシャルメディア上の書き込みの量や質を見ながら試行錯誤を続けられているそうです。

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また、このスバルのファンミーティング同様に、リアルのコミュニケーションというアプローチも、広告ブロック時代の選択肢の一つとして試行錯誤が始まっています。

セッション当日も、ケロッグの五味田さんからは、ケロッグが「オールブラン」のプロモーション活動の一環で取り組んでいるオールブランアンバサダープログラムにおいて、ケロッグがアンバサダーとイベントなどのリアルでのコミュニケーションに注力している話が紹介されました。

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参考:アンバサダープログラムを取り入れて売り上げ25%アップの成果(日本ケロッグ)

ケロッグではアンバサダープログラムを通じて、ソーシャルメディア上でのアンバサダーの声の可視化や広がりによる広告効果を期待しているのはもちろん、アンバサダーの声を元に店頭販売用のPOPを作成し、スーパーの店頭などにおけるリアルな売り場における効果の模索もされているそうです。

また、ヤマト運輸の阿部さんは、前述の宅急便コンパクトのプロモーションの一環で、巨大なクロネコを新宿などの地下街などのリアルな場所に出現させることによって、顧客にコンパクト便をリアルに体験してもらう取り組みに挑戦されました。


参考:全身モフモフ!全長6mの巨大クロネコが新宿駅に出現ーヤマト運輸新キャンペーン

動画を見てもらえればわかると思いますが、あまりの巨大クロネコのインパクトに、新宿では行列規制をしなければいけないほどの盛り上がりを見せたそうです。これはヤマト運輸の宣伝である「広告」の一つであるということもできますが、一方でリアルの実際の体験を軸にした「コンテンツ」ということもできます。

体験した人たちが皆さん笑顔になっているのでわかるように、実は「広告」行為であっても、こうした面白い体験を軸にすれば、ブロックされるどころか顧客の方から積極的に行列をしてでも参加してくれる可能性が出てくるわけです。

当然、お三方ともこれらの取り組みは試行錯誤の過程であり、この一つ一つの取り組みが広告ブロックに対する正解になるわけではありません。

ただ、広告がブロックされてしまう時代において広告主が心がけることとして、この3社が取り組んでおられるような、「広告」を顧客にとってのノイズではなく「コンテンツ」にすること、リアルのコミュニケーションを組み合わせていくこと、というアプローチは一つのヒントになるのではないかと思います。

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※このコラムは、宣伝会議Advertimesに寄稿したものの転載です。

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2016年10月11日


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