日本らしい「未来」の広告主と広告会社のチーム作りを考える

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※このコラムは、宣伝会議Advertimesに寄稿したものの転載です。

アンバサダープログラムでの広告会社の役割

先日のコラムでは、2回にわたって、広告主が「広告」主ではなくなるのではないかという話と、広告会社の役割の変化について取り上げました。

先月、東京で開催された「Advertising Week Asia2016」で、そんな広告主と広告会社の役割分担の変化を象徴するセッションを担当しましたのでご紹介したいと思います。

私が担当したのは、「顧客との関係性を重視する時代のチーム作り」というネスカフェ アンバサダーをテーマにしたこちらのセッションです。

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筆者が勤めるアジャイルメディア・ネットワークも、ネスカフェ アンバサダーのWeb側の施策をお手伝いさせてもらっているので、ある意味身内ではあるのですが、個人的に横で見ていて非常に印象的なのが、このセッションの登壇者であるネスレ日本の津田匡保さんと、JR東日本企画(以下jeki)の海野貴広さんの役割分担です。

ネスカフェ アンバサダーは、ネスレ日本が実施しているアンバサダープログラムになります。テレビCMやWeb広告を通じて、会員獲得を行っているだけではなく、アンバサダーとの交流の機会としてサンクスパーティーや座談会などいわゆる「エンゲージメント」を重視した企画も多数実施しています。

その「エンゲージメント」を重視した企画において、「広告主」であるネスレ日本の津田さんの縁の下の力持ちとして活躍している「広告会社」が、jekiの海野さんを中心としたメンバーなのです。

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通常のテレビCMなどのマス広告では、広告主側のオリエンを元に、広告会社がコンペを行い、選ばれた広告会社がテレビCMの制作や放映を一手に引き受けるという形で、明確に分業がされているケースが多いかと思います。

実際に、ネスレ日本では、ネスカフェ アンバサダーを題材にした広告コンペをYouTubeにコンセプトシネマとしてアップしていますので、こちらを見ていただくとイメージしやすいでしょう。

参考:そろそろ広告枠に全予算をつぎ込むのはやめて、まずは本気のコンテンツ投資から考えた方が良いのではないか

それに対して、ネスカフェ アンバサダーにおけるネスレ日本とjekiの関係は、文字通り二人三脚のチームという印象が強くあります。

もちろん、jekiさんが担当しているのが、テレビCMのようなマス広告部分ではなく、サンクスパーティーのようなリアルイベントが中心であることは大きいと思いますが、両者は頻繁に打ち合わせを行い、お互いに提案をし、ブレストをし、企画の細部を詰めていっているそうです。

象徴的な取り組みとして、「ネスカフェ アンバサダーキャンプ」というキャンプの企画があげられます。

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これは、サンクスパーティーに参加したアンバサダーの中から、「キャンプのようにアウトドアでコーヒーを飲む企画をしたい」という声が上がったことから、jeki側から企画を提案し、両者が盛り上がる形で実施が決まっていったそうです。

私自身も昨年、実体験させてもらいましたが、jekiのメンバーが単純に裏方として働くだけでなく、アクティビティの時間には参加者と一緒にバスケを楽しんだり、キャンプファイヤーの時間にはDJをしたり、バーテンダーをしたりと、一緒に楽しむことでネスカフェ アンバサダーならではの独特なアットホームな雰囲気を作り上げることに貢献していたことが非常に印象的でした。

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つまり、この場におけるjekiのメンバーは、いわゆる広告会社のスタッフというよりは、チームネスカフェ アンバサダーの一員として貢献されていたわけです。

こうした両者の協働関係を見ている中で興味深いのが、広告会社としてのビジネスモデルです。

アンバサダーイベントの報酬形態は?

通常、広告会社の今後のビジネスモデルとしてよく議論になるのが、いわゆる広告枠の販売の手数料である「コミッション」か、コンサルティング的な「フィー」かというテーマです。ただ、ネスカフェ アンバサダーにおけるネスレ日本とjekiの間ではこのどちらの選択もせず、あくまで企画の稼働ごとに契約するという形を取っているそうです。

そもそもサンクスパーティーやキャンプのようなリアルイベントに広告枠は必要ありませんので「コミッション」ではないのは当然でしょう。一方で、チームメンバーに対する固定の「フィー」も、津田さんの言葉を借りると人間関係が「お金の関係」になってしまうのが良くない点だそうです。

確かに、コンサルティング会社的なフィー契約ですと、広告会社のメンバーから、ここまで参加者と一緒にキャンプを楽しむといった雰囲気は出てこない気はします。

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また、広告会社としての視点からすると、固定のフィーではなく、施策単位の契約の方が、企画に手応えを感じてもらえれば、さらに他の企画を提案することで、ビジネスが拡大する余地があるわけで、稼働時間でフィーを請求するよりもやり甲斐がでやすいという面もあるかもしれません。

日本企業はなかなか海外のように外部の企業の稼働時間に対するコンサルフィーのような支払い方法が難しいという議論もありますから、興味深い視点であると感じます。

当然、この事例は、ネスカフェ アンバサダーがエンゲージメントを非常に重視しているプログラムで、リアルイベントのような人の稼働がともなう、手間のかかる施策が多いからこそのケースで、通常のキャンペーン企画の考え方にはあてはまりにくいかもしれません。

ただ、個人的には、このネスカフェ アンバサダーにおけるネスレ日本とjekiのチーム作りは、日本的な広告主と広告会社の未来のあり方として参考になる点が多々ある事例だと考えています。

当日の議論の様子は動画で公開されているようですので、ご興味のある方はぜひご覧ください。

アドバタイジングウィーク・アジア[5月30日から6月2日まで]

Author Profile

徳力 基彦
アジャイルメディア・ネットワーク株式会社  取締役 CMO ブロガー

NTTやIT系コンサルティングファーム等を経て、2006年にアジャイルメディア・ネットワーク設立時からブロガーの一人として運営に参画。「アンバサダーを重視するアプローチ」をキーワードに、ソーシャルメディアの企業活用についての啓蒙活動を担当。2009年2月に代表取締役社長に就任し、2014年3月より現職。書籍「アンバサダーマーケティング」においては解説を担当した。
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2016年8月18日


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