カンヌで注目の次世代エージェンシーR/GAに学ぶ、これからの広告会社の姿
※このコラムは、宣伝会議Advertimesに寄稿したものの転載です。
なぜ今新しいエージェンシーが必要なのか
300人を超えるブランド企業やエージェンシーが3泊4日で一同に介するマーケティングイベント「imediaブランドサミット」が今年も沖縄で開催されました。
今年は基調講演として、AdAgeによる2015年のエージェンシーオブザイヤーに輝き、カンヌライオンズでも注目されるセミナーを行ったR/GAのJay Zasa氏が登壇されました。その内容が、非常に興味深かったのでこちらでも紹介したいと思います。
R/GAは1977年に設立されたインタラクティブ・エージェンシー。元々はプロダクション事業から始まった会社のようですが、1995年のインターネットの登場から2004年にかけてインタラクティブ領域への完全移行を果たしたそうです。
現在は、全世界に1800人以上のスタッフを抱え、2015年のカンヌライオンズで創設者のCEO ボブ・グリーンバーグ氏がSt.Mark賞(最も広告界に大きな影響を与えた人物)に選出されるほどですから、その注目度の高さが分かります。
Jay Zasa氏への「なぜ今新しいエージェンシーが必要とされているのか」という質問に対する回答は非常にシンプル。
それは「Internet Won(インターネットが勝利したから)」。
インターネット以前のマスマーケティング時代であれば、従来型のエージェンシーで問題はなかったが、インターネットが登場し、普及を経て、マスメディアに勝利したことで米国では明確にいわゆる次世代エージェンシーが求められるようになったといいます。
米国におけるデジタル革命は実験的なフェーズや、マスメディアの脇役的な位置づけというフェーズから、すでにデジタルが全ての中心に位置づけられるフェーズに移っているそうで、デジタルによっていろんなものがつながった時代を「Connected Age」と表現されていました。
日本語だと「全てがつながった時代」とでも訳すのが良いでしょうか。この「全てがつながった時代」における3つの教訓とでも言えるフレーズがこちら。
■Advertising is not everything
まず広告が全てではないと考えること。
従来のマスマーケティング時代においては、広告会社の仕事は当然「広告」が中心でしたが、「全てがつながった時代」においては、アプリやPR、クチコミなど広告以外の様々な選択肢が「広告」効果をもたらすことがあります。
次世代エージェンシーは、メディアニュートラルなど広告を露出するメディアをフラットに考えるだけではなく、そもそもの手段として広告も一つの選択肢としてフラットに考えることが必要になっているようです
■Storytelling is alive and well
一方で、ストーリーを語るというコミュニケーションの基本的な考え方は、古いようでいて今でも基本であり、実は「全てがつながった時代」において、より重要になっているということのようです。
実際、商品の特徴をアピールするよりも、その商品が生まれた背景が語られる方が話題になるというケースはソーシャルメディア時代では珍しくありませんから、逆にストーリーテリングの能力の重要性は上がっているという話でしょう。
■Connecting your business can transform it
「全てがつながった時代」においては、ビジネス自体を「つながる」ビジネスに転換できるかどうかが重要という話かと思います。
例えば、Nike+は、ランニングという行為をオンライン上につながる行為に転換することに成功しました。従来のアナログにおける行為を、デジタル化してつながる行為に転換できればビッグデータによる分析や、ビジネスモデル自体の大転換が可能になり得るわけです。
そんな「全てがつながった時代」において、R/GAが注力していて興味深いのが3つの事業の柱です。
・Communications (従来通りの広告代理店が実施していた事業)
・Product/Services (デジタルプロダクトやサービスを実際に作る事業)
・Business Transformation (コンサルティング事業)
この3つの事業のうちZasa氏が一番最初の例に挙げたのが、3番目のBusiness Transformationと呼ばれるコンサルティング事業。
つまり従来の広告エージェンシーは、クリエイティブ力を活かして広告コミュニケーションに特化することが多かったところを、次世代エージェンシーはクライアントのビジネスモデルを転換することをアドバイスするようなコンサルティング能力が必要であるという宣言と受け止めました。
実際R/GAはその実践として、R/GA Agency Acceleratorというスタートアップを支援するためのプログラムを立ち上げ、すでに40件以上のプログラムを支援しているそうです。
ある意味ベンチャーキャピタルのようなことをエージェンシーが実践しているわけで、スタートアップを成功に導く能力があるのであれば、大企業の新規事業の支援もできる能力があるという証明ができているということになります。
参考記事:R/GAが 鮮やかに指し示した 次世代 エージェンシー像
2つ目の柱としてZasa氏があげたのが、「Product/Services(デジタルプロダクトやサービスを実際に作る事業)」。いわゆるスマホのアプリやサービスなどを実際に構築する事業です。
Nike+やNike Fuelなどが例に挙げられていましたが、「全てがつながった時代」における事業転換のコンサルティングをする上で、それを実現するためのアプリやウェブサービスを実際に構築する力をエージェンシーが持っておくことが重要であるということでしょう。
最近ではEquinoxというスポーツジムの、デジタル化を支援している事例を紹介されていました。
そしてZasa氏が次世代エージェンシーの事業の柱として最後に紹介したのが、「Communications(従来通りの広告代理店が実施していた事業)」です。
「Big Idea」から「Whole Idea」へ
当然、いわゆる広告会社としては、このCommunications領域がビジネスとして本丸であり続けるのではないかと思うのですが、最初ではなく最後に紹介したことにZasaさんのメッセージが込められている気がしました。
つまり、このCommunications領域も、従来通りの広告コミュニケーション事業ではなく、コンサルティング能力やプロダクトの開発能力を持っている上での新しいコミュニケーション事業であるという点です。
Zasa氏は、従来の広告コミュニケーションにおいては、「Big
Idea」と呼ばれる企業側が定義したアイデアをコアにトップダウンで考えていたのに対し、「全てがつながった時代」においては顧客の実際の発言や行動を元にボトムアップで考えることが重要になっており、両者を抱合した形での「Whole
Idea」に辿り着くことが重要であると強調されていました。
Nike+はiPodをもって走っている人たちが多くいるという認識と、センサーの進化によって技術的に可能になったという背景からボトムアップで始まったそうです。「全てがつながった時代」はマスメディア時代のように企業が何でもコントロールできる時代ではないが、Nike+のように企業側が発信するメッセージによってある程度方向性をつくることができ、そこを模索するのが重要ということのようです。
事例としては、Galaxyにおけるスマートウォッチのベゼルを回すというUX体験をダンスによって表現した動画などが紹介されていました。
日本においては広告代理店とコンサル会社の競合関係が注目を浴びつつありますし、私自身も先日「総合広告代理店とコンサル会社は、日本でも激突することになる」という記事を書かせて頂きましたが。
Zasa氏の話を聞いていて強く感じたのは、結局、次世代エージェンシーであろうとマーケティング領域をカバーする次世代コンサル会社だろうと、デジタル時代や「全てがつながった時代」におけるクライアント企業のパートナーとしてのポジションを務めようと思うと、これら3つの事業全てに精通している必要がある時代になったということです。
その実行力はR/GAのように単独で自社内に構築していく方法もあれば、アクセンチュアによるIMJ買収のように複数の企業が連携することによって補完していく方法もあるのでしょう。
もちろん日本においては、Zasa氏が言うような明確に「インターネットが勝った」というメディア環境ではなく、マスメディアも相変わらず強い国ということもあるため、単純にR/GAのやり方を真似すれば良いというわけではありません。
ただ日本でも最終的に「つながる」人が増えていけば、広告主が「広告」主ではなくなりつつあるのと同様に、広告会社を「広告」会社と呼ぶこと自体に、違和感を持つ時代が日本でも到来するのかもしれません。