失敗を許容できる組織でなければ、デジタルマーケ時代は生き残れない
トップが失敗を許容できるか
前回のコラムでは、新しい企画を上司が理解してくれないなら、自分の権限の範囲でリスクを取るべきではないか、という話をご紹介しました。当然、この議論をする際に問題になるのが、「では、リスクを取った担当者が失敗した場合にどうなるのか?」という点です。
もし、リスクを取った担当者が失敗について責任を取らされるようなら、当然その担当者は次からは失敗を犯すことを恐れて、二度と挑戦しなくなるでしょう。担当者にリスクを取って挑戦しろ、というのは簡単ですが、実は大事なのは挑戦して失敗した際に上司や組織がどう反応するかという企業文化です。
個人的にこのことを痛感したのは、前回のコラムでも書いたad:tech関西のセッションでご一緒したユニバーサル・スタジオ・ジャパン(以下USJ)とネスレ日本の逸話です。
このセッションでは、議論の結論として「新しい企画を上司が理解してくれないなら、自分でリスクを取って成功してから報告するべし」という話になったということは前回のコラムでも書きました。
実はそのセッションのパネリストであったUSJの田村考さんの上司にあたるUSJのCMOである森岡毅さんがadtech関西の基調講演で登壇された際に明確に発言されていたのが「我々はもっともっと失敗して学ばなければならない」という話でした。
マーケターにとっての最も重要な能力は、「自分で決める能力」で、自分で決める経験を若い頃からできるかが非常に重要だというお話もされておりました。自分で決める経験をするということは当然失敗という苦い経験をすることも重要だという話につながっています。だからこそ、担当の田村さんも失敗するリスクを取る重要性を強調できるのでしょう。
さらに、同じくセッションのパネリストであったネスレ日本の津田匡保さんの上司にあたるネスレ日本社長の高岡浩三さんは、筆者がアンバサダーとして参加したワールドマーケティングサミットのセッションで、「本社と違う方針のアプローチの場合は、本社に相談せずに小さいレベルでやってみる。小さい失敗であれば問題にならないし、成功すれば本社にちゃんと聞いてもらえる」と強調されていました。
奇しくも担当の津田さんの議論の結論と全く同じ話を、社長の高岡さんが明確にされていたわけで、つくづくネスレ日本というのは社内教育が行き届いている会社だなと感心した瞬間でした。
つまり両社とも「失敗を許容する文化」がトップダウンで明確に宣言されている会社であると言うことが伝わってくる逸話と言えると思います。
日本企業に投げかけられている問い
さらにワールドマーケティングサミットでは、別のセッションでもGoogleのアジア太平洋地域担当社長であるカリム・テムサマニ氏が「グーグルにおいては失敗することが推奨されており、失敗について議論することが求められている。失敗を振り返らないことが最大の無駄だ」という発言をされていました。
グーグルにおいては失敗する事が推奨されており、失敗について議論する事が求められている。失敗を振り返らない事が最大の無駄だ。との発言には納得。日本人って過去の失敗を恥じて語らない傾向強いかも。 #wms2015 pic.twitter.com/HfhqY83oxu
— 徳力 基彦(tokuriki) (@tokuriki) 2015年10月13日
この発言は、私がサミット中に投稿したツイートの中で、最もリツイートされた発言となっています。逆に言うと、日本企業においてはこういう文化が少ないことへの裏返しとして反応が多かったと見ることもできるでしょう。
ワールドマーケティングサミットの概要については江端さんもコラムを書かれているので参考にして頂ければと思います。
参考記事:Digitize or Die:
ワールド・マーケティング・サミットで見えてきたマーケティングと経営の融合
江端さんの記事のタイトルにもあるように、ワールドマーケティングサミットで話題になったのは、ソーシャルメディアやスマホの普及により情報武装された消費者の世界においては、企業は「デジタル化するか、死ぬか」という二つの選択肢しかないというコトラー教授の問題提起でした。
企業のマーケティングのデジタル化においては、従来と異なる新しいチャレンジを行わないといけないため、当然失敗のリスクが常についてまわります。
その際に失敗を許容できない企業文化のままでは、結果的に担当者が誰もリスクを冒さないようになってしまい、デジタルマーケ時代に向けての新しい挑戦もたいしてできず、徐々に既存顧客の高齢化とともに縮小して行かざるを得なくなるのではないか?というのが、日本企業に向けられている問題提起であると言えるでしょう。
一方で、ワールドマーケティングサミットの登壇者からは口々に「日本は過去に明治維新や戦後など、大きな変化に何度も対応できている国民性なんだから、今回の変化にも対応できるはずだ」とエールが送られていたのも印象的でした。
自分の会社は失敗を許容してでも担当者に新しい挑戦を奨励できる文化になっているのか?もしなっていないとしたら、これからどう変化させるべきなのか。
日本企業に投げかけられている非常に大きな問いではないかと思います。
※このコラムは、宣伝会議Advertimesに寄稿したものの転載です。