日本人はマーケティング4.0の議論に入る前に、まず「マーケティング」の意味を腹落ちすることが必須ではないか

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「マーケティング」という単語の本当の意味

世界的なマーケティングの権威が集まる「ワールド・マーケティング・サミット」が、今年の10月に日本で開催されるのをご存じでしょうか?

ワールド・マーケティング・サミットは、現代マーケティングの父ともいわれるフィリップ・コトラー教授が中心になってアジアでのマーケティング普及を目的に開始したイベントだそうですが、3回目となる昨年初めて日本で開催されたものです。

ワールド・マーケティング・サミット2014の様子

実は何を隠そう、私自身も昨年は開催終了後にアドタイの江端さんのコラムで知って、参加できなかったことを非常に後悔していた側の人間なのですが、今回、光栄にもワールドマーケティングサミットジャパンのアンバサダーとして参加させてもらえることになりましたので、この場を借りて良い機会なので日本における「マーケティング」について、個人的にずっと感じていたことをこの際ぶちまけてしまいたいと思います。

昨年のワールド・マーケティング・サミットの概要は江端さんのコラムを読んでいただければと思いますが、個人的に非常に印象に残ったのは、日本はマーケティング後進国ではないかという問題提起でした。

コトラー教授はマーケティングをマズローの欲求段階説を元に、「マーケティング1.0」から「マーケティング4.0」まで分類され、日本は製品特性や価格が重要な「マーケティング1.0」の時代は輝いていたが、最近のマーケティングではその輝きは失われているという問題提起をされたようです。

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実際に、家電メーカーを中心に海外展開で苦労している企業の弱点としてマーケティング力不足が指摘されるのはよく聞きます。

一方で、江端さんのコラムにもあるように、日本発の取り組みとして大成功しているネスレのネスカフェアンバサダープログラムのように、世界でもいち早く消費者の自己実現欲求を充足することに注力する「マーケティング4.0」的なアプローチに成功している国でもあるというのが面白いところです。

もちろん、後者についてはネスレさんが凄いという話ではあるのですが、それについては別の機会に書かせていただくとして。

日本における「マーケティング」にこの10年ぐらい携わってきて、個人的に一番問題意識に感じているのは、実は私も含めて多くの日本のマーケティング関係者が「マーケティング」という単語を本当の意味では腹落ちして理解できていないのではないか、という点です。

私は自分の社会人生活をマーケティングや広告とは全く縁遠い通信回線の営業担当というキャリアからスタートしました。マーケティングに初めて出会ったのはグロービスのビジネススクールの授業。その後、すっかりマーケティングの魅力にとりつかれ、冒頭のコトラー氏が書かれたマーケティングマネジメントをはじめ、多数のマーケティングを読み漁った人間です。

そんなマーケティング素人の私にとってのマーケティングとはドラッカー氏の「マーケティングの役割は、セリングを不要にすることだ」という発言が一番印象強いものでした。ただ、実際に日本企業の方と「マーケティング」について議論していると、マーケティング=広告宣伝、であったり、マーケティング=リサーチであったりと、マーケティング=売り込みであったりと、人によってマーケティングの定義がかなり狭い印象があります。

特に感じることが多いのが、製品開発と広告宣伝の壁です。日本は元々モノ作りが強かったことの反動なのかもしれませんが、マーケティング部の活動の議論をする際に広告宣伝の話だけがどうしても中心になっているケースは、まだまだ多いように感じます。

もともとマーケティングの分類として4P、製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、プロモーション(Promotion)があげられますが、実は広告宣伝やプロモーションは4つの要素の一つでしかありません。

実は製品開発や流通チャネル、価格戦略の選択もマーケティングの重要な要素です。ネスカフェゴールドブレンドのようなコーヒーの製品を、日本のオフィスでもっと飲んでもらうにはどうしたら良いかという課題があった場合。ネスカフェアンバサダープログラムのような、バリスタというコーヒーを美味しく飲むための端末を開発し、その端末をオフィスの事務員の方々にアンバサダーとして立候補してもらうことで導入してもらう。その結果としてネスカフェのコーヒーの売り上げを伸ばす、という発想は、4P全部の変更を前提にしなければ生まれてきません。

ネスカフェゴールブレンド単体の商品をコマーシャルやプロモーションでどう認知してもらうか、という一つだけのPであるプロモーションだけに特化したアプローチからは絶対に、ネスカフェアンバサダーのようなアプローチは生まれてこないわけです。

そういう意味で、今の日本のマーケティングにおいて必要なのは、まず「マーケティング=広告宣伝」や、「マーケティング=リサーチ」というイメージを払拭するために、まず「マーケティング=Market+ing=市場+ing」であるという英単語の脳内翻訳から捉え直すことのように感じています。

市場ingつまりは、市場創造と言い換えた方がイメージしやすいかもしれません。

市場がもし無ければ、我々は自分が作ったものを売り込むためには一軒一軒お客さんを回って自分の商品を「売り込む」必要があります。日本の企業は伝統的にこの「売り込み」行為である営業が強い会社が多く、マーケティングよりもセリングが強いケースが多いのも事実ではあるのですが。

適切なマーケティングにより「市場創造」に成功することができれば、お客さんの方から市場にやってきて自分が欲しい商品やサービスを買ってくれるようになり、効率の悪い「売り込み」から開放されることができます。

逆に言うと、元々モノ作りや営業力の強い日本企業はマーケティングさえ正しく理解して自分たちのものにすることができれば、ネスレ日本のように「マーケティング4.0」的なアプローチを世界でもいち早く開拓し、世界で更に輝くことができる可能性を十分に有していると言えるとも思います。

個人的にも、今年のワールド・マーケティング・サミットのアンバサダー活動を通じて、自分の中でのマーケティングの理解の勘違いや誤解をちゃんとリセットし、アップデートを大変期待しているところです。皆さんとも会場でお会いできることを楽しみにしております。

※このコラムは、宣伝会議Advertimesに寄稿したものの転載です。

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2016年8月5日


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