メディアのバナー広告を買うのと、自分たちでメディアを作るのはどちらが安いか?(上・B2B編)

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前回までのコラムでは、動画を軸に、いわゆる宣伝メッセージの広告を広告枠で流し続ける従来のやり方から、広告をより視聴者にコンテンツとして楽しんでもらうスタンスに変わってきている企業が増えてきているという話をご紹介しました。

ただ、もちろんこの話は動画に限った話ではありません。いわゆる文字の世界においても、この流れは同様です。

従来であれば企業が潜在顧客に自社の製品やサービスを知ってもらうためには、新聞や雑誌、ニュースサイトなどのメディアの広告枠を買い、その広告枠に自社の広告を掲載することで読者の興味をひくというのが基本的な手法でした。

その中心が、新聞や雑誌においては全面広告や三行広告であり、ネットにおいてはバナー広告であったわけですが、そういったいわゆる典型的な宣伝メッセージの広告らしい広告を読者がスルーするようになり、よりノイズと扱われがちな広告から、コンテンツとして扱われやすい記事広告やタイアップ型の広告が増えるようになっているわけです。

さらに最近、その企業の広告枠重視からコンテンツ重視への変化の象徴的な現象と言えるのが、企業自らメディアサイトを運営するアプローチの増加でしょう。この流れは特にB2B業界において顕著です。

B2Bにおいては商品の専門性が非常に深く商品分野も多種にわたることが多い一方、記者が幅広い分野を担当することになることが多いため、営利メディアで広く深く記事をカバーすることが難しくなりがちです。一方で、インターネットの普及により、B2B業界の細かい情報であっても検索で見つけることができるようになりました。

これにより、インバウンドマーケティングという言葉に代表されるように、B2B企業自らが自分たちの専門知識に基づいた情報を発信する方が、見込顧客に効率的に知ってもらえるのではないかという流れが生まれてきているのです。

特に日本においてはWebのバナー広告の単価がB2CのメディアでもB2Bのメディアでもあまり変わらないため、必然的にターゲットとなる読者の母数が少ないB2Bのメディアが収益構造として厳しい状態になっているという問題もあります。収益的に厳しければ当然記者の人数や取材コストなどへの投資が厳しくなり、記事の質が低下することになり、読者が離れていくことになります。

B2B企業からすると、そういったB2Bメディアにバナー広告やタイアップ広告を出して見込顧客のリードを取ろうとしても、そもそも読者にターゲットとなる担当者が含まれていないというケースも出てきます。そこで代わりの選択肢として注目されてくるのが、バナー広告に投資していた予算を使って自らメディアを運用するというアプローチです。

B2B企業の自社メディア代表事例

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日本におけるB2B企業の自社メディア作りで、非常に歴史がある代表的な事例といえるのはNECが運営しているビジネス情報サイト「WISDOM」でしょう。

NECがターゲットとしているビジネスマンにとって役立つニュースを掲載しているビジネスメディアです。

WISDOMが開始したのは2004年。オウンドメディアという言葉も、インバウンドマーケティングという言葉も無かった時代。ブログがようやく日本でも注目され始めた頃で、企業自身がメディアサイトを自ら運営するという発想がまだまだ企業担当者の中に少なかった時代です。

実際にはWISDOMを始めるきっかけになっているのは2000年頃から運用されていたB2B向けのメルマガサービスだったそうですから、NECにおいてはこうした顧客への情報提供が自らのビジネスにつながるという感覚が昔からあったということが言えるかもしれません。

WISDOMでは、NECの宣伝としての記事を量産するのではなく、お客さまにとって役立つコンテンツを作ること、お客さまとコミュニケーションする目的でコンテンツを作ることにこだわってコンテンツ制作をされているそうで、その結果、75万人を超える会員が登録する一大ビジネスメディアに成長しています。

実際にNECでは、自社のカンファレンスへの集客への貢献度をバナー広告などの広告手段とWISDOMで比較した結果、WISDOMが非常に優秀なコスト効率で集客に貢献することができているというビジネス成果も確認されているそうです。

同じようにB2B企業が運営するメディアの成功事例として注目すべきは、グループウェアを提供するサイボウズが運営する「サイボウズ式」という情報サイトでしょう。

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こちらのサイトもWISDOMと同様、サイボウズの商品についての記事はほとんど存在せず、サイボウズがターゲットとしているビジネスマンにとって役立つ情報が提供されている情報サイトになっています。

このサイボウズ式が開始したのは2012年。当時、サイボウズのプロモーションを担当していた大槻さんが、オンラインのIT関連の情報は「個人向け」や「コンシューマー向け」の「ツール」を中心とした情報が多く、「チーム」による「ビジネス」や「コラボレーション」という軸での情報は少ないのではないか、という問題意識から開始した情報サイトです。

サイトを開設した直後は大槻さんを中心にサイボウズのメンバーが記事を書いていましたが、今では「脱社畜ブログ」で有名な日野瑛太郎さんなどのブロガーや外部ライターにも記事執筆を依頼する形で運営されています。

サイトのPV自体は月間20万~40万PV。一般的なニュースサイトに比べると少ないという印象を持たれる方も多いかもしれませんが、B2Cと異なりB2Bにおいてはそもそも不特定多数の読者に読んでもらう必要はありません。

サイボウズがターゲットとしている顧客を中心にしたPVであることが重要であり、コピペ記事を量産して批判を集めたバイラルメディアのように、いたずらにPVを増やす必要はないのです。

実際に、サイボウズ式は単純にサイボウズの製品サービスへの誘導口としても機能しているだけでなく、サイボウズのことを知らなかった人にサイボウズのことを知ってもらえる場所として、採用やブランド認知向上に非常に大きく貢献しているそうです。

もちろん、自分たちでメディアを作るというのは何でも良いからメディアを作れば良いという話ではありません。メディアを継続して運営するには人手もコストもかかります。

中途半端な誰も見ないメディアを作るのに中途半端に資金を投下するぐらいであれば、最初から広告を通じて見込顧客を獲得した方がよっぽど効率的というケースも多々あります。

ただ、B2B企業においては、いたずらにPVを追い求めたり、ターゲットではない人のコンタクト情報をいくら集めても意味がありません。一方で、一件あたりの成約単価が大きいことを考えると、自社のメディアで本当にコミュニケーションを取りたい見込顧客とコンタクトが取れれば、実はそれが数名であっても十分に元が取れてしまうケースもありえるのです。

どんな企業でも自らメディアを運営すれば良いというわけではありませんが、企業自らが本気でメディア作りに投資すれば、NECやサイボウズのようにビジネスに貢献するメディアを企業自身が作ることも可能な時代になっているという点は、ぜひ知っていただければ幸いです。

※このコラムは、宣伝会議Advertimesに寄稿したものの転載です。

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2016年8月3日


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