そろそろ広告枠に全予算をつぎ込むのはやめて、まずは本気のコンテンツ投資から考えた方が良いのではないか

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枠ではなくコンテンツに投資しているネスレ

前回のコラムでは、テレビCM枠を番組と連動する形で活用していたリアル脱出ゲームTVの事例をご紹介しました。

その一方で、テレビCM枠に今まで通り大量の広告予算を投下し続けるのではなく、そのお金の一部をもっと企業の広告としても資産になりうるコンテンツの作成に投下した方が良いのではないか、という議論も増えてきていますので、今回はそちらに注目しましょう。

広告予算を、広告枠ではなくコンテンツに投資し始めているアプローチの代表的な事例の一つと言えるのが、ネスレ日本が手掛けているコンセプトシネマというアプローチでしょう。

ネスレでは、「ネスレシアター on YouTube」というプロの映画監督が制作する質の高い作品をYouTube上に無料で公開するというアプローチを取っており、キットカットなどの自社商品をテーマに作品を複数公開しています。

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特に今回注目したいのが、ネスカフェ アンバサダーのコンセプトシネマとして制作された『踊る大宣伝会議、或いは私は如何にして踊るのを止めてゲームのルールを変えるに至ったか。』(以下、「踊る大宣伝会議」)です。(筆者の所属するアジャイルメディア・ネットワークでは、ネスカフェアンバサダーのデジタル施策を支援しています。)

このコンセプトシネマの企画は吉田正樹氏、総監督はあの「踊る大捜査線」の本広克行氏、出演者にも豪華俳優陣が名を連ねており、一見してテレビで放映されたドラマと言われても多くの人が信じるであろうクオリティの三部作に仕上がっています。

この「踊る大宣伝会議」のドラマの舞台こそが、ネスカフェ アンバサダーの広告キャンペーンの競合コンペであるという構造で、ドラマの中ではネスレが提供するネスカフェ ゴールドブレンド バリスタやコーヒーのシーンや、ネスカフェ アンバサダーというフレーズが多数出てきます。

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つまりネスレとしては、当然このドラマを通じてネスカフェ アンバサダーの認知や理念を多くの人に知ってもらいたいという一つの「広告」手段ではあるわけですが。
ドラマとしての完成度が高いため、視聴者はこのドラマを「広告」としてではなく「コンテンツ」として受け止めているケースが多いであろうことは容易に想像できます。

実際、第3話のYouTube上での再生回数は80万回を超えており、コメント欄にも好意的なコメントが多数並んでいます。ネスレではさらにこのドラマを元にしたテレビCMを制作し放映する形で、ウェブドラマとテレビCMをミックスしたアプローチに取り組んでいたようです。すでにSeason2の制作が発表されており、今度はGACKT氏が出演する形で9月に公開される予定だそうですから、十分手応えを感じて継続されている施策だといえるでしょう。

露出量(GRP)ではなくクオリティ重視へ

従来のテレビCMにおいては、GRPという延べ視聴率を元にそのキャンペーンの効果を類推することが基本となりがちでした。

GRPは、広告の到達率と広告接触の頻度を掛け合わせることで計算できますが、ここで問題となるのは、GRP自体が露出量を元にした指標で、計算式の中にテレビCMの質の要素が入っていないため、GRPをもとに効果を議論すると実際に広告枠に露出をするテレビCM自体の出来というのが忘れられがちな点です。

つまり、どんなテレビCMにおいても、同じ広告予算で同じだけのテレビCM枠を買えば、同じGRPになるという計算式になっているため、どうしても意識が広告枠の量に行きがちで、広告枠に流すコンテンツであるテレビCM自体のクオリティの重要性が低く見積もられがちになるわけです。

一方でウェブの世界においては、クチコミの力が大きく作用するため、逆に良いコンテンツであればあるほどユーザーのクチコミで、無料でアクセスを集められることになります。
誰にも望まれないどころかノイズとして批判を集めてしまう可能性があるような宣伝動画に大金をかけて無理矢理露出するよりも、「踊る大宣伝会議」のようなユーザーが自ら探して何度も見たくなるようなコンテンツに投資をした方が、実は結果的に多くの人に見られ、共感や感動を生み、商品の認知向上やブランド価値の向上、ひいては売上の貢献に向上する可能性が見えてきているわけです。

こうしたネスレのコンセプトシネマと同様の企業自らコンテンツに投資するというアプローチは、徐々に拡がりを見せています。

例えば、キヤノンマーケティングジャパンでは、連続webドラマとしてEOS 8000Dを軸にした「遠まわりしようよ、と少年が言った。」という各10分ほどの10本シリーズのショートフィルムをYouTube上に公開しています。

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こちらのドラマでは、監督に「ROOKIES」などで有名な山本剛義氏を起用し、佐野元春氏の書き下ろしのテーマソングをベースに、主人公の光石研氏が演じる主人公が自分の人生を見つめ直す感動的なストーリーとなっています。

こちらのドラマは、EOS 8000Dのターゲットである40代~50代の男性がメインターゲットとなっているストーリーで、EOS 8000Dが主人公の相棒として重要な役割を演じています。当然、EOS 8000Dのプロモーションとしての広告的コンテンツではあるのですが、「踊る大宣伝会議」同様、非常に高い完成度のドラマのため、視聴者からすれば「広告」ではなく「コンテンツ」として楽しめる作りになっています。
実際、ドラマの動画は累計で150万回以上再生されているようで、好意的な反応が多かったようです。

もちろん、こうしたコンテンツをただ作れば大勢の人に見てもらえるというのは、幻想であることも事実です。

ご紹介した2つの事例も動画を見てもらうための広告費はかけており、だからこそ大勢の人に見てもらえているとは言えます。

ただ、ポイントとなるのはこれらの動画が「コンテンツ」であるからこそ、コンテンツが多数並んでいるYouTubeにおいて広告枠で露出しても喜んでユーザーに見てもらえるという構造です。

先日の「私たちは、良い広告を作るだけでなく、広告自体を人々にとって良いものにするための努力をすべき」というコラムで、シンディ・ギャロップ氏の「私たちは、良い広告を作るだけでなく、広告自体を人々にとって良いものにするための努力をすべき」という発言をご紹介しました。

まず広告枠の露出量ありきで考えると、ついつい予算の大半を枠を抑えることに使ってしまい、ユーザーにノイズとして受け止められてしまう広告を、ノイズとして大量に露出する結果になりがちです。しかしそれでは実はごく少数の人が反応してくれるだけで一部の人は反発すら感じてしまう結果になるかもしれません。

それであれば、ユーザーにコンテンツとして受け止めてもらえる広告を作ることにまず集中し、その反応が良いことが確認できてからはじめて広告枠を使うことを考えても良いのではないか、とも言えます。

本来はネイティブアドというのも、そんなコンテンツとして見てもらえる広告を、より多くの人に見てもらうための手段として確立されたものだと言えるでしょう。

広告枠の予算の確保から考えるのではなく、まずはコンテンツへの投資から考える。少なくともウェブ動画の世界では、そんな発想の逆転が求められ始めている気がします。

※このコラムは、宣伝会議Advertimesに寄稿したものの転載です。

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2016年8月2日


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