なぜ日本ではステマやノンクレジット問題がなかなか根絶されないのか

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前回までのコラムでは、ネイティブアドというカテゴリーが注目されるようになった、本来の背景についてご紹介してきました。

一方で、日本においてはネイティブアドという単語自体が新しい言葉であると言うこと、初期のネイティブアド提供事業者に広告表示が徹底されていなかったケースが散見されてしまったこともあり、「ネイティブアド≒ステマ」と誤解している人も少なくないようです。

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その象徴と言われる問題が、ネイティブアドというキーワードを使ったステマ手法やノンクレジット問題でしょう。丁度、ノンクレジット問題についてはゴールデンウィーク中にYahooニュースでやまもといちろう氏が寄稿したコラムを起点に、サイバーエージェントが謝罪リリースを出す結果になるという騒動が話題になっていましたので、ご覧になった方も多いかと思います。

・サイバーエージェントなど特定企業の社員が違法なネイティブアドビジネスにぶっこんでいる件で

・掲載済ネイティブ広告における一部ノンクレジット広告事例に関するお詫び | 株式会社サイバーエージェント

ステマ騒動については、2012年の食べログへの不正業者によるやらせ投稿騒動や、芸能人ブログのペニーオークション騒動などで、一旦業界としても問題が明確に認識され収束したようにも見えましたが、今回の騒動を見ている限り、問題は水面下に潜っただけで残念ながら根絶はされていなかったようです。

特にサイバーエージェントは、東証1部に上場している日本のネット広告代理店の代表企業である上に、JIAAのネイティブ広告審査分科会の参加者として、「ネイティブ広告に関するガイドライン」の策定にも携わった企業でもあります。そんなサイバーエージェントグループですら、こうした手法に手をつけてしまっていることが判明したわけで、残念ながら今回の一件は氷山の一角であると考えるのが現実的でしょう。

そこで、今回のコラムでは、少しコラムの趣旨からは寄り道になりますが、なぜ、日本でステマやノンクレジット問題がなかなか根絶されないのか、を考えてみたいと思います。

その背景にはいくつか複雑な要因が絡み合っていることがありますが、主なものとしては下記の3つをあげられるでしょう。

■1.関係者が黙っていれば外部からは問題が発見しづらい
■2.広告のノンクレジットやステマに違法性がないと思っている人が意外に多い
■3.上記の組み合わせでノンクレジット手法やステマが普通の広告手法だと勘違いしている人が意外に増えている

順番に解説をしたいと思います。

■1.関係者が黙っていれば外部からは問題が発見しづらい

まず2012年ごろに話題になったクチコミサイトなどにおけるステマ手法に比べて、メディア企業によるステマやノンクレジット問題が公に問題として議論されづらいのは、メディアなどの関係者が黙っていれば外部からは非常に問題が発見しづらいという根本的な構造にあります。

私自身も、この業界に入り、WOMマーケティング協議会のガイドライン策定に関わる過程で、実はネットのクチコミマーケティングだけでなく、既存のメディアにおいても、広告の明示が十分ではないケースが複数存在するという話を伝聞で耳にしましたが、実際に当事者が面と向かって教えてくれるはずもなく、その事実の真偽を確認することはできませんでした。

今回のやまもと氏の記事では、「内部からの告発や、被害に遭った複数のウェブメディアからのヒヤリングの結果」とありますから、ある意味関係者の告発があったからこそ、やまもと氏も記事での執筆に踏み切ったと言えます。

こうした内部情報がなければ、メディア媒体における広告のノンクレジットやステマは、記事の見た目が通常の記事と同様の体裁で公開されている以上、実は普通の記事に見えるけど広告であるという事実を外部の人間が知ることは不可能に近いわけです。

実際に今回のサイバーエージェントの謝罪リリースには、4件ほどのノンクレジット手法があったと記載されていますが、その記事がどの媒体に出ていたのか、どの広告主の広告であったのかは開示されておらず、我々部外者からは実際に該当の記事が訂正されたのかどうかすら確認することができません。

現象を確認することができなければ話題にもなりにくいわけで、その結果、広告のノンクレジットやステマ自体が根本的に問題であるという議論が、なかなか表だって議論されず、問題意識が共有されにくかったという構造問題がまず根底にあると言えます。

■2.広告のノンクレジットやステマに違法性がないと思っている人が意外に多い

ネイティブアドという言葉が日本に紹介されたとき、「企業の広告コンテンツをメディアの記事と同様のデザインやスペースに掲載したもの」や「記事と広告を自然に溶け込ませ、ユーザーにストレスを与えず情報を届ける広告のこと。」というような、記事と広告の表示が同じになるという紹介のされ方が良くされました。

これにより、少なくない人がネイティブアドとは「広告を記事と同様に『広告表記をせずに』掲載するもの」だと勘違いしてしまったようです。

本来、ネイティブアドだろうが、記事広告だろうが、他の広告手法であろうが、広告が広告であると明示されていることは消費者保護の観点で必須です。米国IABのネイティブアドプレイブックでも明確に、ネイティブアドはその形式にかかわらず広告であることが明確に開示されていなければならない、と明記されています。

また、日本においてもやまもと氏の記事に「利用者の有利誤認を導く欺瞞的取引は常にアウトであります。要するに、ステマは違法です。」と書かれているように、広告のノンクレジット問題は利用者を恣意的に騙したとみなされる結果になった場合、違法になる可能性が高いようです。

ただ、前述の問題が発覚しづらいという構造問題と、日本のネット広告における広告表記の曖昧さから、そもそも広告のノンクレジットに違法性は無いと勘違いしている人が業界の中にも増えてしまっているようです。

その象徴と言えるのが、CNETの「「ネイティブ広告」で揺れるウェブメディア——協議会と一部媒体に大きな溝」という記事でも紹介されているCINRA代表取締役の杉浦太一氏の発言でしょう。

杉浦氏は自分のブログで、同社が運営している「CINRA.NET」のインタビューの90%以上が広告表記のないタイアップであることを告白して、多数の批判を集めましたが、その後のニコニコ超会議でのパネルディスカッションに登壇し、全く悪びれずに「広告表記があったら、読者はうがった目で記事を見てしまう。ウェブメディアをひとくくりにしてルールを決めるのは間違っている」とウェブメディアにおける広告表記自体を否定した発言を繰り返しているようです。

当然、広告の表記がないことが違法になり得るという認識があれば、こうした発言を公の場所でするはずがありませんから、ご自身はノンクレジットに違法性は無いと思っているのでしょう。ただ、明らかに消費者保護の視点で考えれば、今後こうした広告表記のないノンクレジット手法については規制が厳しくなる方向にあるのは間違いありません。

■3.上記の組み合わせでノンクレジット手法やステマが普通の広告手法だと勘違いしている人が意外に増えている

広告を広告と明記しないノンクレジット手法は、仮に違法ではないとしても、メディアとして恥ずべき手法であり、あくまでアングラで知る人ぞ知る業界関係者向けの裏メニューとして流通しており、指摘も告発も難しい、というのが私のこれまでの正直な印象でした。ただ、長いこと黒に近いはずのグレーゾーンがグレーのまま放置されると、業界関係者の間でもグレーが黒なのか白なのか分からなくなってくるケースがあるようです。

前述のCINRAの杉浦氏の発言もその一つの現象と言えますが、さらに象徴的なのがやまもと氏の記事の冒頭で使われている出版社のメディアシートのキャプチャ画像でしょう。

これは紙の雑誌も出している出版社のメディアシートで、PDFでオープンに公開されていることを私も確認しましたが、記事の公開時点では「ノンクレジットでのタイアップも多数実績あり」と明確に明記されてしまっていました。

企業向けの資料とはいえ、PDFで読者でも誰でもダウンロードできるところに、自分達はノンクレジットでのタイアップもやりますよ、とカミングアウトしてしまっている状態になっていたわけで、ノンクレジット手法があまりに普通になってしまった関係で、古くからの業界関係者ですら感覚が麻痺してしまっているというのが明確に見えてしまう事例といえます。

本来は1で書いたように「関係者が黙っていれば外部からは問題が発見しづらい」構造だったはずが、あまりに普通になってしまったので、媒体資料に明記してしまうケースが出てきてしまったというのは実に皮肉な結果と言えます。ひょっとしたら該当の出版社さんはそういう意味で注記を記載していたのでは無いのかもしれませんが、それぐらい「ノンクレジットでのタイアップ」というのが、一部の業界において普通になってしまっていると邪推されてしまうことになるわけです。

歴史のあるはずの出版社でもこんなケースがあるわけですから、新興のウェブメディアが「ネイティブアド」という新しいキーワードを隠れ蓑に、ノンクレジットでの広告手法を自社の主力商品にしてしまうケースが増えてしまうのは想像に難くありません。

こうした問題が複数組み合わさった結果、ネットユーザーの多くが、記事広告を中心としたメディアの広告手法だけでなく、普通の記事に対しても疑いの目を向けるようになり、企業を褒めている全ての記事がステマではないかと疑わなければならなくなってしまっている現状は、ユーザーにとってもメディアにとっても非常に不幸な状態であると言えます。

このたびJIAAによるネイティブアドのガイドラインが整備され、ノンクレジット手法に対する問題提起により上場企業が謝罪するという前例が生まれたわけで、明確にノンクレジット手法におけるリスクが明確になりました。そういう意味で、今回の騒動は、上記の3つの構造問題が解消され、ステマやノンクレジット手法を業界から根絶する大きなチャンスともいえます。

そもそも、ノンクレジット手法が発覚したり、違法性を問われる結果になった場合、真っ先に矛先が向くのは広告主です。JIAAのガイドラインが明確に整備された以上、良識のある広告主にとっては、そんなリスクのあるノンクレジット手法という提案をされること自体が侮辱に近い行為になる、という構造になるのは明白でしょう。

実際には、ステマやノンクレジット手法に手を染めて、それがバレてしまって自分達のファンにがっかりされるようなリスクをわざわざ負わなくても、正々堂々と広告を広告と宣言した方がファンが応援してくれる、本当の意味でのネイティブアド事例も多数生まれてきています。

次回以降のコラムでは、本筋に戻ってそんなアンバサダー視点でも喜んで参加したくなる広告施策をご紹介していきたいと思います。

※このコラムは、宣伝会議Advertimesに寄稿したものの転載です。

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2016年8月1日


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