丸亀製麺 好調の秘密は「ファストフードの効率化とは真逆の発想」

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【前回の記事】「丸亀製麺のファンに向けた取り組み「試食部」は、なぜ生まれたのか」はこちら

今回のゲスト

大洞マキ氏
トリドールホールディングス マーケティング部

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2005年より人材採用活動全般、PA採用センターの設立、人材教育などに従事。その後、CSR部門、ES部門の立上げを経て、2012年よりマーケティング部を立上げ、現在に至る。「丸亀製麺」テレビCM制作をはじめとする国内全業態のマーケティングおよび販売戦略を担務、現在はデジタルマーケティング、アンバサダー活動、各業態のブランドイメージ戦略を推進中。

トリドールホールディングスの「丸亀製麺」は2016年から、アンバサダープログラムとしてファンに新商品を紹介する「丸亀試食部」を行っています。具体的には新発売の告知におけるジレンマなど、今までブランドが抱えていた課題を解決するためにファンと一緒に新しいプロモーションに取り組んでいます。さらに、これまで見えづらかったソーシャルメディアでの成果を評価する指標のあり方にも取り組みを広げています。ファンの活動を可視化することで見えてきた試食部の成果について話を聞きました。

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写真のクオリティ向上が成果につながっている

藤崎:回を重ねてきた試食部ですが、ソーシャルメディアでの反応はいかがですか?

大洞:Instagram、Facebook、Twitterなどのプラットフォームを全て見ていますが、ファンの方の投稿も、その投稿を見た人の反応も確実に良くなってきています。

藤崎:前回お話いただいた「写真の撮り方講座」や「ブログのタイトル講座」の成果が出ているということですね。

大洞:もちろんタイトルや写真だけではない、いろいろな要因が考えられます。ただ、やはり「記事のタイトル」に魅力が出るとより見てもらいやすくなります。また「写真のクオリティ」が上がると伝わる力と拡散力が上がって、より多くの人に伝わる、という流れができていると思うんです。

藤崎:記事だけでなく、写真がおいしそうに見えれば、「自分も食べてみようかな」という方も増えますよね。

大洞:そうなんです。「写真のクオリティ」が上がり説得力が増したと思っています。しかも、アンバサダーの方にとっては自分の投稿が他の人から「ウケる」ことにより、投稿の楽しみや実感も増すということで、良い循環になっていると思うんです。

藤崎:みんなにとって良い結果が生まれているということですね。ところで効果測定は、どんな数値や指標を使っているのですか。

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(大洞マキ氏)

大洞:現在はマス広告でテレビCMを打つタイミングは、新発売直後のスタート※に縮まりました。以前は1週間後でしたが、その後は発売4日後の時期もありました。例えばその時は、マス広告をオンエアするまでの3日間が、アンバサダーの方々の情報発信によって効果が出たと考えられるわけです。その時のデータでは、初動の売上が確実に上がっていることがわかりました。
(注釈:取材当時の状況です。テレビCMをオンエアするタイミングは、例えば事前など今後も変わる可能性があります)

うどんの場合、1食に2品頼むということはありませんし、新商品の有無で来店者数が急に2倍になったりはしません。そこで数値としては売上げの商品構成比を使っています。

今まで試食部のイベントは2017年7月の時点で10回と回を重ねてきました。その間、ある程度上がり下がりはあったのですが、2016年末頃からは売上の商品構成比率における「新商品の比率」が、確実に上がり始めました。

このタイミングが試食部の活動として「写真講座」を取り入れた時期とちょうど重なるんです。ということは、アンバサダーの方々の情報発信を見て、「おいしそうだな」と思った人が新商品をご注文いただいているのではないかという仮説が成り立つんです。

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(藤崎 実)

藤崎:それは素晴らしいですね。

大洞:私たちも効果を実感しています。ファンの方にも喜んでいただけているので、試食部の取り組みは、みんなにとって良い循環ができていると思っています。

ハッシュタグを使い、みんなに楽しんでもらう

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藤崎:最近話題のインスタグラムが盛り上がっているということですが。

大洞:はい。試食部がきっかけになって、ちょっとしたInstagramのハッシュタグ祭りのようなものが盛り上がりました。ビジュアル的にもインパクトがあったのが、2016年の季節限定「春のあさりうどん」という新商品企画です。

藤崎:私も食べましたが、すごい量のあさりでしたよね。ああいう、うどんは人生初でした。

大洞:はい。1杯に250グラムのあさりが乗っているのですが、「そんな入ってるの!?」というくらい入っていますので、見た目のインパクトがすごいんです(笑)。

この商品で伝えたいことは、「あさりがたくさん入ってる!」ということに尽きます。それを言葉で「あさりがどっさり」とか「いっぱい」とか書くこともできますが、もっと感覚的に伝える方法はないかと考えた結果、「あさりを数えてみましょう」という企画になりました。

その時に決めたハッシュダグが「#あさりカウント」です。

第1回目の試食会では試食部のみなさんに、あさりを数えてもらい、「#あさりカウント」をつけて写真を投稿していただきました。その際、1杯あたりのあさりのグラム数は平等ですので、「あさりの数が少なかった人は大きいあさりが入っていて、多かった人は小粒だったのかも」という内容まで、みなさん投稿していただけました。

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藤崎:なぜ入っているあさりの数が違うのか、というのは素朴な疑問です。アンバサダー方々にきちんと説明して理解してもらったからこそ、「あさりがたくさん入っている」という商品のアピールポイントと一緒に、「あさりを数ではなくグラム数で測って提供している」という、ブランドとして伝えたいことも彼らの言葉で情報発信してもらえたというわけですね。

大洞:すごくいい流れがその時にできました。それに味をしめまして、その後、ハッシュタグの活用はシリーズ化して現在に至ります。

藤崎:ところで以前もハッシュタグの活用をされていましたよね。

大洞:はい。2015年に、肉ごぼうと大根おろしをトッピングする「鬼おろし肉ぶっかけ」という新商品の時が印象深いです。肉ごぼうと大根おろしが、うどんとは別のお皿についてくるのですが、「鬼おろしと肉を高く盛れ!」とPOPに記載をしたところ、本当に、「#鬼おろし肉ぶっかけ」とハッシュタグをつけて、うどんの上に山のように高く積んだ方々がいてびっくりしました。それもすごく評判でした。

藤崎:ファンの方は素直ですよね。純粋に楽しんでくれるわけですよね。

大洞:そうなんです。今になって考えてみると、当時はInstagramがちょうど流行し始めた時期でした。Instagramを始めてみたけれど、正直Instagramのどこが楽しいのかよくわからないという方も多かったんじゃないかと思うんです。

そういう時に、こういう企画にピンとくる方が多かったんだと思います。きっとみなさん、「なるほどこういうハッシュタグをつけて楽しむのか」と思ったのではないでしょうか。みなさん、思った以上に素直に実行してくださって感謝しています。

藤崎:商品名や商品特徴をうまく「ハッシュタグ化」できると、みんなが盛り上がれるという好例ですね。もちろん拡散効果も期待できますし。こういう流れは、ひと昔前では考えられなかったプロモーションですよね。

大洞:お客さまはお腹が減ってお店に来てくれていると思うので、すぐに食べたいのが普通だと思うのですが、わざわざ手間暇かけて写真を撮ってくださるなんて、私たちとしては本当にうれしいです。

大洞:最近のハッシュタグの活用では「#鴨ねぎカモン」とかダジャレを入れたものも、みなさんに楽しんでいただけました(笑)。

藤崎:お客さんがブランドと一緒に楽しめる感じがいいですよね。こうした呼びかけはファンの身になると企業を近く感じることができます。ハッシュタグの周知は、どこで行なっているのですか?

大洞:お店のテーブルテントで実施しています。細かい説明は入れずにイラストとハッシュタグとInstagramのアイコンだけといったシンプルなものです。

藤崎:テーブルに置いてある卓上の三角POPですね。

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大洞:はい。丸亀製麺の場合、お一人さま客も多いので、食べている時に読めるものがあるとつい読んでしまうと思います。

藤崎:確かに三角POPは目立ちますし読みますよね。広告効果は抜群だと思います。

大洞:実はハッシュタグによる副産物があります。食べた人の感想をカウントでき、可視化が可能になったということです。投稿写真があるので絶対にリアルな購入者の声ですし、感想もリアルなものです。写真はご購入いただいたものなので、数をカウントすることでご購入の金額換算もできます。また、ハッシュタグが増えたということは、商品の人気が上がったことだと考えられます。

藤崎:確かにそうですね。ハッシュタグ付きの投稿というのは、よく考えればお客さまからのリアルな感想なので、いわゆるお客様へのアンケート結果がリアルタイムでアップされるような感じですね。

大洞:毎回、ちょっと笑えるようなお題を出さなければということで、悩みのタネではありますが、とても良かったと思える取り組みです。

藤崎:今後もファンが企業と一緒に盛り上がれるハッシュタグ企画を期待しています。

もっとブランディングに取り組みたい

藤崎:今後の目標や現状の課題は何ですか。

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大洞:現在、成果が出ている試食部の取り組みも、総量としてはまだまだ微々たるものです。今後取り組みたいことは大きく2点あり、まず一番の課題は「拡散力をさらに増やしたい」ということです。

試食する人数を増やして、書いていただけるブロガー数を増やせばいいのですが、その際問題になるのが試食会場です。丸亀のうどんは、あの釜のでないと茹でられないので、大きな会場に安易に移すことができず、どうしても1度に30人位が限界なんです。

藤崎:本物の味が出ないことには試食になりませんものね。

大洞:開催回数を増やすという方法もありますが、今の時代なのでリアルな場で全員が1箇所に集まらなくても何かできないだろうか、というのが課題です。例えば、東京の店舗で中継をして、全国のお店5店舗くらいを繋いで一度に200人くらいの試食部を開催できたらと考えています。

藤崎:例えば、何らかのライブ配信システムを使ってできるかも知れませんね。

大洞:これが実現できたら地方在住で、なかなか東京に出てこられない部員の方々にもご参加いただけるのではないかと思っています。

藤崎:ぜひ実現させたいですね。

大洞:また、今後の可能性として次にやりたいのは、やはり「ブランドに関わる部分」です。つまり、今は新商品に絞って取り組みを行っていますが、そこをもう少しブランディングに寄せて行きたいということです。

ブランドのファンの方に、丸亀製麺についてもっと語って、もっと伝えて欲しいという思いです。

藤崎:詳しく教えてください。

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大洞:丸亀製麺にはもっとみなさんに知っていただきたいことがたくさんあるのです。例えば、「そもそも丸亀製麺はどんなお店なのか」とか、「一店舗ごとにお店で小麦粉からうどんを打っていること」もまだまだ知られていません。アンバサダーさんに、うどんをいちからつくっていただく体験会を開催できたら、という思いもあります。

他には「釜揚げうどんと、ぶっかけうどんとはどこが違うのか」などという話です。例えば、丸亀製麺の郊外店の看板には必ず大きな字で「釜揚げうどん」と書かれていることにお気づきですか?

藤崎:言われてみればそうですね。

大洞:詳しくお話しすると長くなるので割愛しますが、「釜揚げうどん」は生麺からでゆで上げないとできません。お店で打ちたてのうどんを提供できるから「釜揚げうどん」に、こだわりがあるのです。

藤崎:もっと多くの人に知ってもらいたいですね。

大洞:はい。本当にまだまだいろいろなネタがあるので、せっかくファンになっていただいているからこそ、より根っこの所を知ってもらえれば、もっと楽しんで食べていただけると思っています。

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藤崎:よい情報を書いてくれる好意的なファンやアンバサダーさんがいることは分かっている以上、その方たちにどういう内容を情報発信していただくのか、今後が楽しみですね。

大洞:アンバサダープログラムによるベースの効果の数字がもっと読めてくれば、新しい企画も何かしら効果が出せるだろうと見込めるので、今後の企画にもGOを出しやすくなると思います。

藤崎:私は企業の事例をたくさん見てきましたが、アンバサダープログラムは決まった形がなく、しかもファンと一緒に進化していく点に特徴があると思っています。ステージ1が終わったらステージ2というように。丸亀製麺さんの場合も、次の段階へ進化していく段階かも知れません。だからこそ終わりがないし、いろんなことが試せるんだと思います。

大洞:始めてみると本当にいろいろな可能性を感じます。もともと、うちのファンは全国にあるお店のスタッフが毎日お客さまに真摯に対応する中で築いてきた信頼関係が土台にあると思っています。つまり、そうしたリアルで地道な土台があるからこそ、ソーシャルメディア上でのつながりや、情報の拡散力が強化されたのだと思っています。ファンの方との関係を強めることで、ブランドをもっと強いものにしていければと思っています。

顧客視点とは、お客さまにとって「おいしそうか」

藤崎:トリドールさんにとって、あるいは大洞さんにとって「顧客視点」とは何ですか。

大洞:一号店を開いた時の原点に、その答えがあるかも知れません。丸亀製麺が実現しようとしてきたのは、15分程度でうどんを食べていくというなかで、「お客さまの期待以上のことをいかに提供できるか」ということでした。全てはその一点に尽きます。

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(「トリドールホールディングス 東京本部」に掲げられている創業店の看板の前で)

もちろん、うどんや天ぷらがおいしいことは大前提です。そのためにお店でうどんをつくり、天ぷらを揚げることにしました。大切なのはその後です。お店に食べに来てもらったお客さまに、いかに満足してもらい、「おいしいを実感してもらえるか」。全ては、そこに向けて考えられています。

まず、うどんを目の前で一からつくるということ。つくり手が働いている様子をしっかりと見える店舗作りにすること。できたて・つくりたてのうどんを職人風情の白衣を着た安心感のある店員が出してくれること、などです。

藤崎:確かにお店のつくりや、うどん職人のようなちょっと古風な職人風情の白衣は印象的ですよね。

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大洞:ご存知でしょうか。丸亀製麺の店内は、お客さまが落ち着けるように照明が少し暗めなんです。逆に調理している所は、照明が明るめです。古風な制服も、色々考え抜いた結果です。

全てお客さまの立場でいかに「おいしそう」に見えるかを考えた結果です。つくっている所を全て見てもらう、おいしそうに見えるように最大の努力をし続ける、ということが私たちの顧客視点かなと思います。

藤崎:よくよく聞くとすごいですね。ディズニーランドが「夢の国」実現のために、色々考えられているのは知られていますが、それに匹敵する哲学があるというわけですね。

効率化とは真逆の視点でお客様と接することが大事

大洞:お店の都合よりもお客さまのニーズはどこにあるのか、お客さまに喜んでいただくにはどうしたらいいのか、そこをずっと追求してきました。その実現のために私たちは手間ひまをかける事をいとわないのです。低価格帯の飲食業態から考えると、私たちが目指しているのはファストフードの効率化とは真逆なんです。

業界では当初、私たちは「絶対に潰れる」などと言われたのですが、何年かして軌道に乗ると、突然「これはすごいビジネスモデルだ」と言われるようになりました。

藤崎:業界の常識に捉われずに貫き通したから、確固たるファンが生まれたんでしょうね。

大洞:今後もお客さま視点をより強化できないかと考えています。例えば2016年からは、ご注文いただいてから目の前で商品の仕上げをして提供する形態に切り替えています。これからもどんどんチャレンジして行きます。「おいしさ」というものは、半分くらいは食べる前に決まっているという考え方があります。雰囲気、見た目、評判、接客、いかに「おいしそう」か、重要ですよね。

藤崎:確かに食事は楽しむものですから効率化とは関係なく全てが大事ですね。実際においしいだけでなく、つくる過程もオープンな体験型にして、全てを楽しんでいただくことが強みにつながっていることがよくわかりました。

大洞:お客さまがどう思うかが常に我々のテーマです。店舗体験を良くすることは私たちにとって大切なブランディングです。だとしたら、お店に行く前の体験、手前の部分も、ちゃんと体験型のものにできたらいいなという思いがあります。試食部によるファンの声が可視化されるのも、Instagramへの投稿も、SNSでの声が拡散されるのも、食が提供できる楽しさや体験の一つではないでしょうか。

お店で毎日うどんを提供しているスタッフたちの支援になれるように、今後もファンの方々といろいろ取り組んでいくつもりです。

藤崎:ためになる貴重なお話、ありがとうございました。

今回のポイント

・写真のクオリティ向上が成果につながっている
・ハッシュタグを使い、みんなに楽しんでもらう
・もっとブランディングに取り組みたい
・顧客視点とは、お客さまにとって「おいしそうか」
・効率化とは真逆の視点でお客様と接することが大事

今回のまとめ

創業当時、丸亀製麺さんは、手間のかけ方が業界の常識を超えていたので、すぐに潰れる、と言われていたそうです。しかし予想に反して今の好調があります。

その好調の秘密は、「ファストフードの効率化とは真逆の発想」にあることを今回のお話で実感しました。おいしいうどんを提供するために、味にこだわるのはもちろんのこと、いかにおいしそうに見えるかにもこだわった店舗設計など、すべてをお客様のために/お客さまに喜んでいただくために考え抜かれていたことを、お話の端々で感じました。
東京本部に創業当時の看板がありましたが、初心を忘れず躍進を続ける企業には、きちんとした哲学があることを改めて感じました。

※インタビュー・記事:藤崎実
※写真撮影:四家正紀

※このコラムは、宣伝会議Advertimesに寄稿したものの転載です。

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2017年8月29日


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