カルビーには「お客様の声」に耳を傾ける企業精神が根付いている

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【前回の記事】「ファンと1年かけて商品開発、カルビー「それいけ!じゃがり校」10周年」はこちら

今回のゲスト

松井淳(まつい あつし)
カルビー マーケティング本部 素材スナック部 じゃがりこ課 課長(ブランドマネジャー)
1982年、静岡県御殿場市に生まれる。2005年に法政大学社会学部卒業、同年カルビー株式会社に入社。近畿支店、本社広域販売部にて営業職を経験。2011年から「じゃがりこ」のマーケティングに携わる。ファンサイトの運営のほか、商品企画やブランドマネジメントを担当。2014年より現職。

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カルビーのスナック菓子「じゃがりこ」は、会員制のファンサイト「それいけ!じゃがり校」を2007年より運営。ファンの声に耳を傾けるだけでなく、ファンと一緒に商品をつくる共創プロジェクトを毎年行うなど、積極的に顧客の声を商品に反映しています。はやくから顧客視点を取り入れることに成功していた「それいけ!じゃがり校」は、どんな考え方で運営されているのでしょうか。

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「学校」をモデルにしたのが成功の理由

藤崎:毎年行っているファンとの商品開発といい、ロイヤリティアップのためのサイト上での授業といい、ファンと一緒に活動をするうえで「学校」というフォーマットがうまく機能していますよね。

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(松井 淳 氏)

松井:「それいけ!じゃがり校」(以下、「じゃがり校」)というファンサイトが10年間続き、私自身もこれほど長く続いた要因は何だったのかと振り返ってみました。もちろん活動内容にご満足いただけたこともありますが、まず良かったのが取り組み始めた時期が早かったため、ファンサイトの先駆けになれたことです。

先行していたからこそ、じっくり取り組めましたし、工夫しながら積み上げてきました。

それから、「学校」という誰でも体験したことがある場所をモデルにしたことで、たいへん良い仕組みができました。入学するためには1年に1回の試験に合格する必要があったり、1年生から3年生という先輩と後輩という関係性が生まれたり、お互いに教え合ったり、クラス対抗戦で一緒に頑張ったり。本当の学校と同じような仕組みで行うサイト運営にしたのが良かったと考えます。

藤崎:最初から3年制だったんですね。

松井:企画当初はそこまで予想できていなかったと思うのですが、春に入学して3年間で卒業するというサイクルが最初からあったことが良い循環をつくっています。クローズドなサイトですが、新しいファンの方が毎年4月に一定数入学するので、サイト全体がフレッシュな雰囲気になるんです。

藤崎:普通のファンサイトだったら熱心なファンの方に「そろそろ辞めてください」なんて言えませんものね。

松井:サイトの歴史自体は、今年で10年ですが「卒業」「入学」という制度のおかげで毎年、新しい方が入学します。その結果、人の循環が起こり、サイト内の活性化につながっていると思います。私たち教職員も毎年、春になると「今年はどんな1年になるのかな」と、新たな気持ちで取り組んでいます。

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(藤崎 実)

藤崎:新入生が一斉に入学するので、同級生が一緒にスタートして、学んでいくというのも、連帯感が生まれて共同作業が進めやすいメリットですね。それに長期のファンと起こりがちな「古参」と「新規」といった関係性も生まれづらくなりますね。

松井:卒業後はOBとして残れますが、すべてのプログラムに参加するというよりも、やはり卒業生として一部に加わるアドバイザーのような立場になってくださります。先輩がいなく、完全に新入生だけだと毎年ゼロからになってしまいますので、本当に良い関係性がサイト内で築かれていると思います。

開校10周年記念「リアルじゃがり校 登校日」

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(※2017年2月、都内で「リアルじゃがり校 登校日」が開催された。)

藤崎:今までオンラインの活動だけで成功していた「じゃがり校」ですが、今年は満を持して、リアルイベントを開催しましたね。

松井:はい。10周年を記念した初めての試みとして、今年2月に「リアルじゃがり校 登校日」イベントを実施しました。都内学校の教室をお借りして、「じゃがり校」の生徒から抽選に当選した50名の方に来ていただきました。日曜日の午後の開催でしたが、一番遠い方は沖縄県からご参加いただきました。

藤崎:すごいですね。みなさん交通費は自費ですか。

松井:はい。交通費は自費でした。

藤崎:素晴らしいです。ファンと企業の関係はそうあるべきですね。ファンマーケティングに関わったことのない方は、こうした関係性をなかなかご理解いただけないです。交通費をお支払いしてしまうと、どうしてもアルバイトのようになってしまう場合があります。あくまで熱意による参加で、無償であるべきです。そこに交通費や謝礼はふさわしくないですよね。私たちがファンイベントを運営する場合も、実は交通費は一切お支払いしていません。

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松井:その通りだと思います。ですので、交通費をお支払いしない分、参加いただく方に「来て良かった!」と思っていただけるように中身を充実させよう、と教職員で知恵を出し合って頑張りました。当日までプレッシャーはありましたが、アンケートでもほとんどの方から「大満足」という評価をいただくことができました。集まっていただいた生徒のみなさんの熱意も本当にすごくて、実際にお会いする“リアルの力”はすごいなと感じました。

藤崎:最近、マーケティングにおいても「顧客体験」がキーワードになっています。つまりインターネットが発展すればするほど、リアルの価値が高まってきていると考えられます。

もともと手紙というアナログ的な方法でファンと交流してきたカルビーさんが、デジタルを活用して交流の輪を広げたのが「じゃがり校」のファンサイトです。それがまた一回りして、アナログ的なリアルイベントを行ったのがとても興味深いです。

松井:リアルイベントは、私たちも初めてのことばかりでたいへんでしたが、“リアルの力”を実感できました。また機会をつくっていきたいと思っています。

これからのファン作りのためのサイト最適化

藤崎:今後の「じゃがり校」の活動の可能性や課題について教えてください。

松井:現在感じている課題は、サイトの告知方法やファン層などを、いま以上に幅を広げていくことです。

「じゃがり校」は冬の「受験」でしか入学できない上に、クローズドなサイトです。なので、一歩間違うと一般の方の目に触れることのないマニアックな存在になってしまう可能性があります。そこで、今よりも認知を高めていきたいのです。そのためには従来からのパッケージでの告知だけでなく、もっと気軽にアクセスできるSNSなどもさらに活用していきたいと思っています。

藤崎:募集期間が12月から2月だけということは、その時期を逃すと1年間見送りになってしまいますものね。

松井:「興味を持った時には、もう募集期間が終わっていて受験できませんでした」というお声をいただくことも多いんです。ですから募集開始時には、パッケージ以外の場所でも積極的に告知して、もっと多くの方に知ってもらう努力をしたいです。中でも、「じゃがりこ」のメーンターゲットとなる女子高生含め、若年層のファンに入学を募るという意味ではSNSは有効だと思います。

藤崎:若い方はSNSを自在に使いこなしますものね。

松井:若い方を中心に、スマートフォンでの利用者が増えている状況があります。これらのユーザーのアクティビティを上げていくために、サイト自体もスマホ最適化をさらに進めていきたいです。

現在でもスマホで見られるのですが、「じゃがり校」はもともとPCでじっくり見るタイプのコンテンツですから、スマホでのアクティビティと考えると一つひとつのコンテンツとしては少し重いんです。特に若い方は説明が最小限でも感覚的に操作できますので、アクセス性やユーザビリティを向上させていきたいと考えています。

藤崎:松井さんは「じゃがり校」では保健体育の先生だそうですが、役職としての目標や課題は何ですか?

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(※松井氏は「じゃがり校」では「保健体育」を担当している。)

松井:実は国語や英語は定期的な授業があるんですが、体育は常設の授業がないんです。もし可能であれば今後は「じゃがりこエクササイズ」や「マラソン大会」のような、体育のコンテンツをつくれればいいなと思っています。

藤崎:ぜひお願いします。期待しています。

お客様相談室は、お客様とカルビーをつなぐ窓口。

藤崎:随分前から「顧客視点」の大切さは指摘されてきましたが、実践している企業は意外と少ないです。それに対して「じゃがりこ」は発売された20年前からお客さまを大切にしてお手紙を返信したりしてきました。それはどうしてだと思いますか。

松井:とても難しい質問ですね。何が「正解」なのかは、私にはわかりませんが、カルビー社員が企業精神として普段から心がけていることにヒントがある気がします。それはお客さまやお取引先、友人や家族に至るまで、いろいろな方の声に耳を傾けるということです。

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私たちはお客さまの視点に目を向ける姿勢をとても大切にしています。お客さまから「困っています」というお声をいただけば改善策を考えたり、お客さまから「こうあってほしい」と寄せられた要望には、お応えできるようにしています。

藤崎:カルビーさんはホームページの「お客様相談室」のページも親切でしっかりしていますよね。あの充実ぶりに、個人的にも感銘を受けています。力を入れているのがよくわかります

松井:「お客様相談室」は、文字通りにお客さまとカルビーをつなぐ窓口です。当社としても、とても力を入れています。また、社内への情報発信にも積極的です。

藤崎:どういうことですか。

松井:あくまで社内向けですが、お客さまからのご意見やご指摘の内容が「お客様相談室」の担当者から、全社員に向けて毎日情報発信されています。

私も毎日気をつけて目を通しています。中には当然、良い声もあれば悪い声もあります。自分が担当するブランドに関して「こういう意図をもって実施しています」とお返しすることもあります。お客さまから寄せられた声に関して部署全体で共有したり、ディスカッションを持ったりすることもあります。

藤崎:それはすごいですね。商品に対する注文などもあるんでしょうか?

松井:例えば、「こんな味の商品を出してほしい」とか「じゃがりこの『塩』と『ごま油味』が終売してしまい、さみしいです」など千差万別です。もちろん、「いつもより食感が固かった」「味が薄かった」など具体的な感想も寄せられます。

藤崎:声の内容がリアルですね。逆にそこまで歯に衣着せず言っていただけるってありがたいですね。

松井:そうなんです。私もこんな風に他人事でなく言ってくださるのはすごいなと思います。

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藤崎:ホームページを見てカルビーさんが消費者の声を受け入れてくれそうだとわかるからこそ、そうした色々なご意見が集まるのではないでしょうか。

松井:そうかもしれませんね。電話もメールも手紙同様に、必ずお返事します。また、ご指摘いただいた商品は、その日のうちに伺って現物を確認させていただくことになっています。

藤崎:一般の人には知られていないことですが、会社の窓口がお客さまの声を聞いて終わりでなく、社内へ情報共有している点も素晴らしいと思います。そうした姿勢が、いわば社風なのだと感じました。

問い合せの声から復活した「たらこバター」味

松井:ちなみに、最近リニューアルした「たらこバター」味は、実は過去に一度終売した商品なんです。ところが、「なくなってしまってさみしい」「再発売してほしい」という声が、かつてないほど集まりました。私たちとしてもその声に驚いて、最初はコンビニエンスストア限定で再発売を行い、その後に全面的に定番化した商品です。

藤崎:まさにお客さまの声が届いて再販売になったのですね。ファンとしてはうれしいと思います。

松井:フレーバーに関するお問い合わせはもともと多いのですが、「たらこバター」味に関しては、再発売を求めるお声が通常の8倍の約800件も寄せられ、私たちも売れるかどうかより先に、まずはお客さまの声にお応えしなければという気持ちになりました。

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(※じゃがりこ「たらこバター」のパッケージ写真)

藤崎:お客さまから、そのような熱烈な要望が届くブランドはメーカーからすると、たいへんなこともあるかもしれませんが、本当にうれしいものでしょうね。

松井:ブランド担当の冥利に尽きます。お客さまあってのメーカーですから。

顧客視点とは「企業が視野を広くもつ」こと

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藤崎:最後に、松井さんにとっての「顧客視点」とは何でしょうか。

松井:つくり手側だけの狭い視野だけでなく、お客さまの声をよく聞き、幅広い視野を持つこと。そして最終的には、お客さまのためを考えたことを実行する、というのが一番大事だと思います。

藤崎:売り手の独りよがりにならない、拝聴する姿勢が大切なんですね。拙著にも書かせていただいたのですが、カルビーさんの場合、お客さまが直接口にする、ごく身近な商品を扱っているからこそ、顧客視点を大事にしているのだなと思いました。

そしてもうひとつ感銘を受けたのが、お客さまと会社の距離がとても近いということです。お客さまの声が届くだけでなく、カルビーになら私の意見も言いやすいというか。お客さまとの接点や距離感を近いものにしようと、日々努力されている姿勢を感じました。普通はなかなか難しいと思います。

松井:そのように思っていただけるのは、本当に嬉しいことです。お客さまとの接点を大事にすることによって、商品をつくるヒントをいただけます。実際のところ、もし私たちがお客さまからの声を聞いていなかったら、本当にみなさんに喜んでいただく商品がつくれたのか、あるいは本来やるべきことが見つかっただろうか、という気にさえなります。

藤崎:徹底的に耳を傾け、顧客の声を拝聴するカルビーさんの真摯な姿勢が、ブランドの成功に直結していると感じます。本日は貴重なお話、ありがとうございました。

今回のポイント

・ファンが集まりやすい「学校」をモデルにしたのが成功の理由
・開校10周年記念「リアルじゃがり校 登校日」
・これからのファンづくりのためのサイト最適化
・「お客様相談室」は、お客さまとカルビーをつなぐ窓口
・問い合わせの声から復活した「たらこバター」味
・顧客視点とは「企業が視野を広くもつ」こと

今回のまとめ

1995年に発売され、2007年にファンサイト「じゃがり校」を開校したカルビーさんは、徹底した顧客志向の会社だと思いました。

例えば、ファンからの要望で再販売に至った「たらこバター」は、売れるかどうかより、まずはお客さまの声にお応えしたいと復活に踏み切ったそうですが、そうした判断は顧客志向でなければ実現できません。「お客様相談室」の存在が重視されているのも印象的でした。

そうしたお客さま重視の企業姿勢が続く限り、ファンはいつまでもカルビーさんのファンで居続けるはずです。そこには企業とファンが一緒に永続的に共生していく良い関係があります。

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※インタビュー・記事:藤崎実
※写真撮影:四家正紀

※このコラムは、宣伝会議Advertimesに寄稿したものの転載です。

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2017年7月20日


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