【ソーシャルメディア活用(15)日本マイクロソフト】「アクティブサポートの効果を実感しています」
今回は日本マイクロソフトのデジタル&イベント マーケティング グループで、デジタル マーケティング全般を統括している浜野努さんと、ソーシャルメディアマーケティングの専門職である「ソーシャルメディア リード」という役職に就かれている同グループの上代晃久さんにお話を伺いました。
(左から:上代晃久さん 浜野努さん)
昨年夏から、マイクロソフトのソーシャルメディアを再構築
――ソーシャルメディアに取り組み始めたのはいつ頃でしょうか。
上代 3年くらい前のことです。マイクロソフトはWindowsやOffice、Xboxなど多種多様な製品マーケティング、また開発者マーケティングを展開しており、ソーシャルメディアの活用方法を模索していました。
最初にソーシャルメディアを利用したのは開発者向けマーケティングの担当者によるもので、その後ツイッターの企業活用が活性化したことで多くのアカウントを運用するようになりました。現在ではツイッターで24アカウント、フェイスブックで14アカウント、ニコニコ動画が2アカウント、YouTubeが5つのアカウント。このほかに開発者向けブログやmixiページ、Ustreamなど多種多様なアカウントを運用しています。
――製品のマーケティング活用としてはXboxが一番最初だったのですね。
上代 ゲームはクチコミやユーザーのレビューがプロダクトの売り上げに大きな影響を及ぼすので、ソーシャルメディアとゲームの親和性が高かったです。もともとXboxはソーシャルを活用する前からサイト上でユーザーの意見をキャンペーンに取り入れたりしていたので、ソーシャルを積極的に活用する土台があったのだと思います。
(Xboxのツイッターアカウント)
――ソーシャルメディアに取り組もうと考えたのはどういった理由でしょうか。
浜野 マイクロソフトでは、2009年11月にソーシャルメディアに対して全社で取り組むことを目的として、ソーシャルメディアマーケティング専門の責任者である「ソーシャルメディアリード」という役職を作りました。当時の担当者は上代の前任者だったのですが、その当時はまだ「ソーシャルメディアとはどういうものか」という啓蒙活動から始める状態で、100人規模の社内トレーニングなどを行いつつ、まずは社内での認知度向上に努めていました。
その後、前任者が退職してから1年近くソーシャルメディアリードという役職は不在の状態が続き、兼任のような形でソーシャルメディアの運用が続いていました。社内でもソーシャルメディアの普及や認知が進んだ結果として、さまざまなアカウントが部署ごとに開設されたものの、それらを統合的に管理できておらず、ガイドラインやガバナンスも最低限のものはあるけれど実務的には乏しい状態でした。
上代がソーシャルメディアリードの後任となり、マイクロソフトのソーシャルメディアを再構築しようとしたのが2011年夏のことです。他社事例や米国本社の成功体験などを参考にしながら日本でも本格的なソーシャルメディア展開を進めていくことにしました。
2万8000だったフェイスブックのファン数が1年で10万4000に
――ソーシャルメディアの運用体制はどのようになっていますか。
上代 アカウントそのものは製品の担当者が運用を担当しており、各製品担当が通常業務の一環としてソーシャルメディアの運用も行っています。
――新規にアカウントを開設する際はどのような運用をしていますか。
上代 公式アカウントの登録プロセスを設け、新規にアカウントを開設するためには内容が適切かどうかを役員レベルで判断します。
――役員レベルでの承認が必要というのはかなりハードルが高いですね。
上代 我々にとって「ソーシャルメディアのアカウント」はニユースレターやWebサイトと位置付けは同じと考えております。始めたはいいものの、半年で配信をやめてしまったり、続いているけれど適切に情報が配信されない、という事態は避けたいと思っています。そのために新規アカウントの開設は役員レベルまでしっかりと承認を得るようにしました。
新規アカウントだけでなく、既存アカウントの統合にも注力しています。たとえばOffice関連ではOfficeの製品公式アカウントとまた別に、冴子先生、Office for Mac、Enjoy Officeと4つのアカウントを運営していたのですが、このうち冴子先生はキャンペーンのために開設されたアカウントだったこともあり、公式アカウントと合わせて1つに統合しました。
こうしたコミュニケーションの整理やガイドラインの徹底などを行うことでソーシャルメディアのファン数も伸びており、フェイスブックのファン数は1年で2万8000から10万4000に、ツイッターのフォロー数は7万5000が10万4000に伸びています。
――ここまでファン数が大きく伸びている理由はどこにあるのでしょうか。
上代 製品の担当者が直接ソーシャルメディアを運用しているのが大きいですね。やはり製品のことを一番知っているのはその担当者ですし、担当者がオーナーになることでユーザーとよいコミュニケーションを築けています。
また、社内ではソーシャルメディアマーケティングフォーラムを毎月1回開催し、ソーシャルメディアの担当者を対象にして情報共有やガバナンスの周知、トラッキングツールの共有なども行っています。いままでは製品担当者同士で横のつながりを共有する機会がなかなかありませんでしたが、こうしたフォーラムを定期的に開催していくことで、アカウント運用のクオリティも向上できています。
――製品担当者がソーシャルメディア運用を直接担当することの負担はないのでしょうか。
上代 そういう声もありますし、ソーシャルメディアのクオリティを維持しながらも本来の業務を優先させなければいけない、という課題もあります。その対策として8月から始めたのが、カスタマーサポートチームによる投稿のサポートです。
今までは製品担当がすべて投稿していたのを、一部の製品アカウントでは、カスタマーサポートが投稿運用やコメント対応を代行しています。また、カスタマーサポートチームでは、ツイッターによるアクティブサポート(MSHelpsJP)を2年半前から取り組んでいますが、公式アカウントおよびキーワード検索でのアクティブサポートをカスタマーサポートで行うようにしました。製品担当者からは非常に助かるという声をもらっています。
――冴子先生やカイルくんなど、キャラクターによる公式アカウントも特徴的ですね。
上代 冴子先生は元々Officeのキャンペーンとして、イルカのカイルくんと一緒に立ち上げたアカウントです。当初の意図としてはソーシャルメディアというよりあくまでキャンペーンの一手法だったのですが、予想以上によい反応をいただきました。
フォロワー数の多さも効果指標のひとつ
――ツイッターとフェイスブックともに多くのアカウントを運用されていますが、それぞれの違いは感じますか。
上代 ツイッターはタイムラインが流れていくので、投稿するタイミングに気をつける必要があります。一方で匿名のアカウントが多いこともあって質問しやすい空気があり、そうした質問へのリプライやフォロワーに対するコミュニケーションはツイッターで注力しています。
一方、フェイスブックは「いいね!」というわかりやすいレスポンスがあるため、ツイッターほどQ&Aが起きるような情報発信にはなっていません。「いいね!」で肩代わりされているぶん、Q&Aのようなコミュニケーションについてはツイッターのほうが頻繁に起こると感じています。フェイスブックはむしろ情報のアーカイブとして、OfficeのTipsやセミナーのアフターケアなど、情報を出し続ける場として運用しています。
――情報のアーカイブという点ではブログも運営されていますが、フェイスブックとの違いはありますか。
上代 フェイスブックもツイッターほどの早さではないですが情報が流れていく要素はあり、情報のアーカイブとしてブログは開発者マーケティングと製品マーケティングでは非常に重要です。ブログがフェイスブックに変わるわけではなく、ブログはブログとしてマイクロソフトの意見を言い続ける場であり、フェイスブックはよりコミュニケーション要素の強いアーカイブの場と考えています。
――ソーシャルメディアの効果測定はどのように行っているのでしょうか。
上代 目的によって異なりますが、カスタマーサポートによるアクティブサポートについてはお客さまがどういう反応をしているというネガポジを1つ1つチェックしています。今年の2月時点では、ポジティブが32%、ニュートラルが67%で、ネガティブにとらえている人は1%未満という結果が出ており、アクティブサポートは効果があるということを実感しています。
フォロワー数の多さも指標の1つです。ただし、BtoBの場合はフォロワー数よりも、情シス担当といった濃いユーザーとどれだけつきあえるかが鍵ですし、コンシューマー向けのXboxやWindowsといったであればフォロワー数の多さも重要になります。どの指標がふさわしいかは製品によって変わりますので、製品ごとにKPIを設定して効果測定を行うようにしています。
ニコ動やYouTube、LINEにも取り組みたい
――ユーザーの濃さを調べる手法はあるのでしょうか。
上代 正直言って非常に難しいですね。これは我々のトラッキングレポートの課題の1つでもあり、何かしらの手法で明確にしていきたいと考えています。
また、アカウントの分析や傾聴などを統合したツールを現在社内で開発しています。そのツールがあればフェイスブックやツイッター、ブログの分析を1つにまとめてExcelへ自動展開でき、分析や傾聴の労力を大幅に削減できます。こうした分析の労力はできるだけ減らし、そのぶんコミュニケーションのクオリティを上げることに注力していきます。
――今後取り組んでみたい施策はありますか。
上代 ツイッターとフェイスブックもファン数が伸びてはいますがまだまだ足りないと感じていますので、これからも伸ばしていきたいと思います。ただ、ファン数を伸ばすのはキャンペーンを打ったり、そもそも製品が良ければ伸びていきます。重要なのはファンとのエンゲージメントで、そのためにも発信する情報のクオリティをいかに上げていくかが今年の課題です。
また、個人的にはニコニコ動画やYouTube、LINEなども取り組んでいきたいと思います。特にニコニコ動画は20代の4分の3がユーザーという話もあり興味はありますね。製品の情報を正しく伝えるには動画が有効ですし、YouTubeやニコニコ動画はコメントやシェアを通じてSNS的な役割も果たしています。7月からはビデオリードの役割も担当することになったので、マイクロソフトの動画素材を活用して動画にも注力していきたいと思います。
――インタビュー雑感
ソーシャルメディアアカウント立ち上げ当初は、各製品の担当者が直接ソーシャルメディアを運用し、運用者同士でノウハウを共有して、最適化していったという流れは、アカウント立ち上げの際の理想的形であると感じました。現在は、他のチームが一部運用業務サポートしるということでしたが、製品担当者が自ら運用してノウハウを蓄積するというプロセスを経ているからこそ、運用業務の分担もスムーズに行えるのではないでしょうか。(アジャイルメディア・ネットワーク)
インタビュー担当 AMN 甲斐祐樹
次回(10月1日)はスターバックスコーヒージャパンです。
※このコラムは、宣伝会議Advertimesに寄稿したものの転載です。