【ソーシャルメディア活用(6)アディダスジャパン】「自社運用で消費者との関係強固に」
「2012年ソーシャルメディア活用企業調査」(アジャイルメディア・ネットワーク=AMN調べ)でランキング6位に選ばれたアディダスのソーシャルメディア活用について、同社のブランドマーケティング、デジタルマーケティングを統括する津毛一仁さんにお話を伺いました。
サッカーW杯が導入のきっかけ
―ソーシャルメディアを使おうと思ったきっかけをお聞かせください。
津毛 きっかけは2010年にさかのぼります。この年はサッカーのFIFAワールドカップ南アフリカ大会という、スポーツブランドのアディダスにとって一大スポーツイベントが開かれた年であり、フットボールを起源に持つアディダスとしても積極的にソーシャルを絡めた施策を行っていこうということで展開したのが、ミクシィを活用した企画「ミクシィ FES!」でした。
この企画自体は数十万人規模の参加者という実績を挙げることができたのですが、ワールドカップが終わってしまうと参加者のアクティビティが落ちてしまうことが課題でした。アディダスとしてお客様との関係性を高めていくためには、日常接点を可能な限り広げていく必要がありました。アディダスとしてメッセージを伝えられる場所をつくり、お客様へ継続的にメッセージを届けていく。こうした考えが明確になったので、ソーシャルメディアを活用するのは比較的自然な流れでした。
――大規模なキャンペーンから一転してソーシャルメディアのアカウントを立ち上げるというのは地道な作業で人員の確保も大変です。運用を外部に委託する企業も多い中、自社で運用しようと考えたのはなぜでしょうか。
津毛 「運用は外部に委託したほうがいいのでは」という声もありましたが、ブランドが自らメッセージを発信し、消費者との関係を作っていくのであればそれは外部ではなく自社で運用するべきだと考えました。そのためには数人程度の担当ではうまく運用できませんので、「ソーシャルメディアを運用するのにこれだけの人材が必要です」と宣言し、十分に運用できる体制を整えてからスタートしました。
1人が2アカウント程度を運用
――目標はソーシャルメディアで100万人のファンということでしたが、現状はどのくらいの数値ですか。
津毛 フェイスブックが14万、ミクシィが2万、ツイッターはいくつかアカウントがありますが合計して5万くらいですね。ソーシャルは拡散力のあるメディアなので、とてもポジティブに捉えています。
――ソーシャルメディア担当の人数や構成は。
津毛 ソーシャルメディアを含めたデジタルコミュニケーションを担当する部署が専任として用意されており、その中で担当が1人2アカウントくらいを運用しています。この部署は各ビジネスユニットに対して横軸で働きかける機能と権限を持っています。
――担当者はソーシャルメディアの運用に対して不安などはなかったのでしょうか。
津毛 もともとこうしたソーシャルやデジタルリテラシーに強い人を採用しており、モチベーションは非常に高いですね。普段からツイッターやミクシィ、フェイスブックを日常的に活用している人材なので、むしろ「なぜソーシャルを使わないんだ」というエネルギーをマーケティングに活かしていくことができます。
一方で、外部に委託せず自社で発信していくということは会社を代表して発言することでもあるので、その怖さはありました。そのため会社としてどのような発言をすべきかというコンプライアンス規定はきちんと作成し、ソーシャルメディア運用に関するレギュレーションも策定していました。
シューズのレンタルが実売にも波及
――ソーシャルメディアを運用して手応えを感じた事例はありますか。
津毛 1つのよい事例は「クツカス」です。これはWeb上でアディダスのシューズをレンタルし、自宅で実際に試着できるというサービスを靴業界として初めて実施したのですが、おかげさまで非常に評判がよく、お客様から直筆の手紙がサポートセンターに届くほど喜んでいただけました。このクツカスのキャンペーンはソーシャルにフィードが流れる仕組みを導入していたのですが、ツイッターの反応が非常によかったですね。広告などを出したわけでなく、ハッシュタグを設定した程度なのですが、ツイッターでは非常に大きな反響がありました。
津毛 クツカスは業界初の試みで、自信はあるものの実際にお客さまに受け入れてもらえるかは「やってみなければわからない」というところがありました。そのためいきなり大きなメディア展開は難しかったのですが、ソーシャルメディアを通じて集まったファンの方々の反応がよかったことが結果としてPR露出につながり、最終的により多くの方に利用していただくことができました。レンタルと同時にクーポンを発行することで、実売へのコンバージョンにも繋がっています。こうしたデジタルを活用したコミュニケーションのきっかけを全国展開で作れたというのは、1つの成果として証明できたと思います。
――クツカスはWebだけでなく店頭も含めた施策ですが、こうしたさまざまな部署がからむような施策はどのように行っているのでしょうか。
津毛 デジタルに関係した部署は他にeコマース部もありますが、我々はアディダスのブランドに関するデジタルのコミュニケーション全般を統率しています。それだけにとどまらず、直営店への誘導施策やオンラインでの集客などに関しても、部署間の壁を越えて、我々デジタルチームが積極的に出向いて一緒に企画するようにしています。そうした社内コミュニケーションの頻度を上げていることが、部署を越えた施策を行う時に役立っています。
――ソーシャルメディア運用で苦労したことや課題はありますか?
津毛 運用自体は先ほども申しあげたとおり、デジタル専任の担当がいることもあって大きな苦労はありません。会員数や「いいね!」の数なども順調に伸びているのですが、課題に感じているのはソーシャルアプリの活用ですね。特にコマース関連やチェックインといったアプリの動きがまだまだ遅く、今年はもう少し活用していきたいと思います。コミュニケーションの活用用途だけでなく、消費者目線でベネフィットが伝わる仕組みを研究してみたいと思っています。
店舗の後方支援が今後のテーマ
――ソーシャルメディアでユーザーからコメントがあった場合の対応は?
津毛 ポジティブな意見だけでなくネガティブな意見もいただくのですが、基本的に削除するということはありません。ただ、すべてに対してコメントを返すというフローは正直実現できていません。お客さまとのコミュニケーションを高めるためには、ソーシャル上のインタラクションは非常にいいことだと感じているので、挑戦したい課題ですね。
――今後進めていきたいテーマはありますか。
津毛 店舗との連動も図っていきたいですね。最近ではお店で靴を履いてはみるものの、その場では買わずに他のお店やネットで買ってしまう、なんていう話も頻繁に聞くようになり、こうした問題は会社として真剣に考えていくべきだと思います。アディダスとして販売店に卸している立場からも、店舗とはアディダスブランドとして最大限協力していきたいと思っていますし、デジタルのコミュニケーションを店舗につなぐような施策を考えていく必要もあると思います。
また、最近では販売店でもEコマースを立ち上げていますので、そうした店舗で買うことのメリットを打ち出す必要もあります。たとえば靴を自分好みにカスタマイズできるような仕組みであれば、価格競争にはならないユニークさを発揮することができますし、ポイント還元といったロイヤリティをつける方法もあるでしょう。デジタルコミュニケーションを通じて消費者に響くベネフィットを考え、販売に結び付けることは今後非常に重要だと感じています。
――インタビュー雑感
ソーシャルメディアに対する企業の取り組みは、まずはできる範囲で試しながら少しずつ拡大していく、という流れが多い中、「ソーシャルメディアは必要なコミュニケーション」と信じ、最初から体制を整えてソーシャルメディアに取り組むアディダスの姿勢には驚かされました。今後は物販との連動も取り組んでいくとのことで、コミュニケーションやブランド認知だけでなく、製品販売へつなげるというアディダスの今後に期待したいと思います。(アジャイルメディア・ネットワーク)
インタビュー担当:AMN 甲斐祐樹
次回(4月16日)はKDDIです。
※このコラムは、宣伝会議Advertimesに寄稿したものの転載です。