【ソーシャルメディア活用(4)ユー・エス・ジェイ】「ビジネスへの成果がやっと見えてきた」
ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ、大阪市)を運営するユー・エス・ジェイは、「第二回ソーシャルメディア活用企業調査」(アジャイルメディア・ネットワーク=AMN調べ)でランキング4位に選ばれました。テーマパークへの集客にソーシャルメディアを有効活用している同社の考え方や取り組みについて、マーケティング部インタラクティブマーケティング課長の大森研治さんにお話を伺いました。
「まずはバットを振ってみなさい」
――ソーシャルメディアの活用を考えるようになったきっかけを教えてください。
大森 5年前からブログをアメブロで運営していますが、当時はまだソーシャルメディアマーケティングという概念がそもそも存在していませんでした。意識的に取り組み始めたのは1年半前からになります。
弊社ではパークに来てくださるお客様に毎日、認知経路やインプリの調査を行っています。その調査の中ではマス広告、Webが認知経路の大半を占めていた一方で、友人や知人からのクチコミも非常に多いことが明らかになりました。
そこで我々は、「リアルなクチコミが最後のプッシュになっているのであれば、ソーシャルメディアを刺激することでリアルなクチコミを活性化できないか」と考えました。しかし、企業は当然、限られたリソースの中で優先順位をつけて活動しなければなりません。当時、ソーシャルメディアの優先度は圧倒的に下位でした。
――優先順位が低かったにもかかわらず、ソーシャルメディアに取り組まれたのはなぜですか。
大森 社長が欧米におけるフェイスブックの活用事例を目にしたらしく、「なぜソーシャルメディアに取り組まないのか?」と質問してきたことがきっかけです。我々の社長は外国人ということもあってか、“Swing the bat”、まずはバットを振ってみなさいというスタンスで、常々「日本人は失敗を恐れてバットを振らない」と言っていたんですね。
この時も「優先度は低いかもしれないがまずはテストする価値があるかどうかを見極めろ」という指示だと理解し、個人的にも、欧米で話題になっていたスターバックスさんやディズニーさんの取り組みには興味があったので、これはチャンスだとばかりにソーシャルメディアのテスト運営を始めることができました。
――大森さんご自身は当時、ソーシャルメディアに対する知識はどの程度ありましたか。
大森 個人的にツイッターを利用し始めた頃でしたので、ほとんど知識はありませんでした。ただし、これはソーシャルメディアに限らず、企業のマーケティングをすべて自社で行うには限界があると思います。そこでまずは外部の専門家と相談することから始めました。
「会員100万人」を目標に掲げる
――ソーシャルメディアを使うにあたって、当初はどんな目標を掲げましたか。
大森 当時はまだツイッターの普及率は低かったことと、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンのビジネス規模として800万人からの集客に対して効果を出すためには、ソーシャルメディアにおいても一定規模の数が必要と考えました。また、ターゲットであるファミリー、女性層が圧倒的に多いソーシャルメディアは日本ではまだ存在せず、複数のソーシャルメディアが乱立している状態でした。なので、まずは日本の主要ソーシャルメディアに公式アカウントを開設して全体で100万人集めるという目標を定め、総量をとってから、各々の媒体がどのような特性や効果があるのかを計測するという順序で進めていくことにしました。効果測定をするにも数がないと測定すらできないですからね。
ちなみに100万人という数は特に緻密な計画をたてたわけではなく、漠然と「これだけ集まったら凄いことだよね」と設定した数字です。先ほどお話しした通り、USJはアメブロ、ユーチューブは開設済みでしたので、続けて2010年の10月くらいから、ツイッター公式アカウントを開始し、その後グリー、モバゲー、フェイスブック、など2011年2月に主要メディアをすべて立ち上げて、ミクシィがそろってカバーしきったという感じです。
(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン®が活用するソーシャルメディア一覧)
――実際の運用の中で媒体ごとの役割は見えてきましたか。
大森 いろいろなリサーチの中で、コアなファンはツイッター、フェイスブックが中心で、グリー、モバゲーはリーチ効果が認められる人数がすぐにつくだろうといった仮説は数多く出てきました。ですが先ほどから述べているように効果を測定するにはまず数がないと始まらないので、「まず総量で100万人集めよう」というのが何よりも重要な指標でした。
ツイート数と広がりを分析し影響力を実感
――当初の目標は計画通りに達成されましたか。
大森 まずは100万人といいながら、そこから半年くらいの増加ペースでいうと全く足りませんでしたし、今も足りていません。正直なところ、「これ以上計画通りにいかないのであれば、ソーシャルメディアの取り組みもやめようかな」とも考えていました。
――そのような状況の中で、なぜソーシャルメディアへの取り組みを続けられることになったのでしょうか。
大森 きっかけは昨年の夏に実施した人気漫画「ワンピース」とのタイアップイベントでした。イベントは前年も実施し、お客様の満足度が非常に高かったのです。
そこで今回はイベントの良さを効果的に伝えるために、前年のイベント体験者にクチコミの発信源になってもらうことにしました。前年のワンピースイベントについてツイートした人、さらにそのツイートをリツイートした人は合計8800人ほどですが、その8800人のフォロワーを合計すると300万人近くにワンピースイベントの情報が発信されていることがわかりました。
次に、昨夏のイベント期間中に「パーク内でツイートしているだろう」と思われるツイートを集め、その人たちがこの最初の8800人のツイートに接触し、何らかの影響を受けたフォロワーかどうかを計測したところ、約4800人が最初の8800人のフォロワーに該当することがわかりました。もちろん必ずしもツイッターの影響だけではなく、テレビCMなどを含めたマーケティング全体の効果だと思いますが、ツイッターの流れを追うと以上のような数値関係が見えてきて、少しではありますがその効果を感じることができました。ちなみにこの夏に実施した「モンスターハンター」とのタイアップイベントも同様の反応が得られました。
(2011年7月から開催された「ワンピース・プレミア・サマー 2011」)
――ワンピースやモンスターハンターのようなキャラクター関連のイベントは、コアファンの存在が大きいという要素もあったのでしょうか。
大森 もちろんありました。そこで次にハロウィンとクリスマスのイベントでも同じように調べたら、ハロウィンでは「USJのハロウィンに来てるよ」とか「楽しいよ」という発信者が約1万2000人いました。ワンピースと同様の計測を行うことで、この1万2000人から約350万人に広まって、約4300人がパークに来場しているという数値が明らかになりました。
――アニメとのコラボ企画に限らず、USJ独自のイベントでもツイッターによる効果が見られたんですね。
大森 はい。ワンピースやハロウィンイベントの経験から、ある程度自らユーザー自身の体験の発信から人数や広がり方がわかるようになりました。ビジネスへの成果やつながりがやっと見えてきましたね。つまり、ソーシャルメディアでのコミュニケーションによって、意識変容(パークに行きたい)と態度変容(実来場)までが数値として見えてきたのです。
ソーシャルメディアと来場者数の相関関係をいかにつかむか
――主な来場理由にリアルなクチコミがあると冒頭お話ししていましたが、本格的にソーシャルメディアを取り組み始めてから、数値の変化はありましたか。
大森 結論から言うと、ソーシャルメディアが認知経路に現れる事は未だにほとんどありません。ただし、ソーシャルメディアへの取り組みの影響かどうかは分かりませんが、リアルのクチコミが増えてきていることは感じています。昨年ハロウィンのイベントで、100体以上のゾンビがパーク内を徘徊するということで話題にもなりました。とはいえやはりクチコミの発生はプロダクトの質に依存してしまうので、ソーシャルメディアと来場者数の相関関係はなかなかつかむことが難しいのですが、なんとかそれを数値化して調べられないかと取り組んでいる最中です。
――今後の展望についてお聞かせください。
大森 さきほど申し上げた通り、我々は100万人を目指すと言いながらまだ全然集まっていません。また100万人集まったとしても、USJから100万人にツイートしたり、フェイスブックに投稿してもそんなに広がらないと思います。それよりも、公式アカウントがフォローされていなくても8000人にパーク体験してもらい、それを投稿してもらえば300万もの人たちに広がる。また我々が企業の情報として語るよりも、ユーザー自ら語ってもらった方が意識変容にも態度変容にも強い影響力があるだろう、ということが見えてきました。
先日、フェイスブックのリサーチチームが発表していた「Weak Tie」(弱いつながり)が鍵となると考えています。公式アカウントでつながるある程度コアなファンとのコミュニケーションと、公式アカウントではつながらないけどもパーク体験をソーシャルで語ってくれる大多数の人たち。後者を活用することがビジネスへの効果は出やすいと考えています。
とはいえ、もしアメリカのコカ・コーラさんやスターバックスさんのように2000万、3000万人単位でフェイスブックのファンにいたらそれはすごいことですし、もちろん100万人でもすごいことになる可能性もあるのでやはり規模の獲得は今も重視しています。それに加えて公式アカウントにフォローしている人や「いいね!」登録している人が、ソーシャルメディアで我々とコミュニケーションを続けた半年間でどのように変わっているかどうかについても調査しています。
ソーシャルメディアで接触しうる人の事前と事後の変化の調査と、ソーシャルメディアでつながっている人とつながっていない人の内と外の調査を同時に進めているので、公式アカウントのファン数も引き続き増やしながら、それ以外の人をいかに活性化するかという両輪でやっていくのが今後の課題ですね。
――インタビュー雑感
ユー・エス・ジェイさんは施策を行う前に、お客様の声を傾聴し、そこから仮説を立て、実施、効果検証をするという流れを確立できたからこそ、現在、効果的にソーシャルメディアを活用できているということをお話の中から感じました。流行っているからといって、積極的にソーシャルメディアを利用するだけではなく、都度検証を行い、時には一度立ち止まって実施の継続・撤退を検討するということも重要であるということをあらためて認識しました。こういった一連のプロセスは、現在ソーシャルメディアを活用している企業にとってもよい模範例となるのではないでしょうか。(アジャイルメディア・ネットワーク)
インタビュー担当:AMNインターン 青山学院大学経営学部 芳賀ゼミ 糸井佑樹、人見彩菜
次回(3月12日)はパナソニックです。
※このコラムは、宣伝会議Advertimesに寄稿したものの転載です。