ユーザーの顔が見える関係づくりが「広告」を超える(Sony「Xperia」)

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【前回の記事】「クチコミはお客さまからのメッセージである(Sony 「Xperia」)」はこちら

Sonyの携帯電話のブランド「Xperia」は2013年12月からアンバサダープログラムをスタートし、アンバサダーとのミーティングを主に新商品の発売時期に開催しています。2015年からは、規模を拡大し、夏と冬に東京以外の都市でもイベントを実施。地方在住のXperiaファンからも絶大な支持を受けています。今回は、その立役者である笹谷尚弘氏に話を聞きました。

今回のゲスト

笹谷 尚弘(ささや たかひろ)
ソニーモバイルコミュニケーションズ マーケティング部 プロモーション課 マーケティングマネージャー
1996年ソニー・コンピュータエンタテインメント(当時)入社。ゲームソフトの宣伝とメディア担当を兼任し、 2005年から「グランツーリスモ」専属宣伝担当となる。2008年ソニーエリクソン(当時)入社。その後、現職へ。Xperiaの広告宣伝担当としてテレビCM、メディア戦略、キャンペーン企画立案、WEBマーケティング、ブランディング活動、スポンサーイベント活動など、Xperiaの露出に関わる全てを担う。
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アンバサダーミーティングには開発者も参加

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藤崎:「Xperia」では、2015年は東京、大阪、名古屋、神戸、仙台、福岡で、2016年も東京、大阪、名古屋でアンバサダーミーティングを開催していますね。「Xperia」の研究・開発スタッフも参加するそうですね。

笹谷:ミーティングには、なるべく多くの開発者を出そうと考えています。例えば、今年の5月26日に行った東京でのミーティングには開発者が10人ほど参加しました。カメラチームは必ず参加するようにしていて、もちろん地方にも一緒に行きます。

今や開発チームに声をかけると、ほぼ全員が手を上げて抽選になっている状態です。これはアンバサダープログラムを始めた当初からは想像できなかった状態です。

藤崎:全員が参加したいというのは、すごいですね。

笹谷:アンバサダーミーティングに行けば、何かを得られるという実感が開発者に浸透してきたようです。開発のトップ、リーダークラスの人間にも、アンバサダーミーティングの価値を実感してもらっています。実のところ、メーカーにとって、ユーザーのフィードバックを直接聞ける機会は貴重です。ここまでくるのに、2年半かかったというのが率直なところです。

藤崎:開発者にとって何が得られるのですか?

笹谷:無作為のユーザーフィードバックとは異なる視点の気付きが、アンバサダーとの会話にあるのです。つまり、ミーティングに集まってもらえる人たちは、Xperiaのファンなので、メーカーとは特別な関係です。好意的ですが、ある時は厳しくもあり、いわば友達のような関係で、商品の感想や評価を言ってくれます。マイナスのご指摘もありますが、批判することが目的ではなく、Xperiaを愛用しているがゆえの悩みや、ずっと使い倒してくれているからこそ分かることなど、愛着に基づいた意見を直接聞くことができ、開発者冥利に尽きるというわけです。

藤崎:なるほど。笹谷さんから、メーカーの社員にとって商品は自分の子供のようなものであるというお話がありました。まさにその産みの親たちが、商品についての感想を聞けるというのは、感慨深いでしょうね。

笹谷:そうなんです。さらに次の開発に向けて、アンバサダーの意見が参考になったり、励みになったりしています。

例えば、アンバサダーから提案してもらった機能が、実はもう既に次の開発のプランに入っていたりすることもあるわけです。でも、開発段階のプラン内容は秘密事項ですので、まさか次の端末で実装されますとは、そこで言うことはできません。

開発者にとっては、実際にニーズがあると実感できたことによって、次の開発モチベーションは確実に変わってきます。開発者の中での、態度変容は確実に起こってきます。そうしたアンバサダーと開発者の絶妙な関係が、よい科学反応を起こしてXperiaというブランドを進化させていることを感じています。

藤崎:それは、よい関係ですね。

笹谷:アンバサダーは、Xperiaについて真剣に考えてくださっている方々です。もっとこうしたらいいのに、というポジティブな意見が圧倒的です。厳しいご意見も頂きますが、それは改善のための意見ですので、開発者には心に刺さります。そこまで使いこんでもらい本当にありがたいと感じますし、厳しい意見に対しても感謝の気持ちが生まれます。アンバサダーというヘビーユーザーの意見は、真摯に受け止めたいと感じます。

他にも、一例を挙げると、我々は定期的に改善に向けたアップデートを行っていますが、当然、コストがかかるため、どの機能を取捨選択して優先的にアップデートさせようかという話になります。その時に、あの時、こういう意見をもらったよね、と開発者の記憶にアンバサダーの声が残っていたりします。我々としても、やはりお客様に喜ばれるアップデートをしたいというのが基本的な姿勢ですので、そのような時の判断で、アンバサダー方のご意見を参考にさせていただくこともあります。もちろん、いつもそういうわけにはいきませんが、ユーザー代表としてのアンバサダーの意見は重要だという話です。

藤崎:メーカーと消費者の関係を「人と人の関係・付き合い方」にしたいとおっしゃっていましたが、まさにそういうことなんですね。

笹谷:アンバサダープログラムでは、当然KPIなども設定して運営しています。しかし、そういった成果とは違った視点での大きな成果は、開発者の意識を変えたことです。

例えば、顔の見えないユーザーアンケートでは、どういうお客さんが意見を言っているのかがわかりません。ただの指摘なのか、叱咤激励なのか、文字からはニュアンスを読み取れない場合もあります。しかし、アンバサダーミーティングでは、実際にお会いしてフェイストゥフェイスで話をすることができます。それが開発者の意識を変えることにつながっています。

藤崎:どういうことでしょうか。

笹谷:どうしても技術屋さんは技術を見がちです。しかしお客さんをちゃんと見てつくるという流れに変わってきています。当たり前のようですが、これは技術屋にとっては大切なことなんです。特に熱心なのがカメラチームです。Xperiaはカメラが売りですので、アンバサダーの方にはいろいろご意見を頂くことになります。中にはとても詳しい方や、αを使っていらっしゃる方もたくさんいて、当然、厳しい意見もあります。マニアックなご意見もあります。それでも、様々なニーズがあることを知るということが大事です。

藤崎:外部の人間からはわかりづらいですが、研究者や開発者は外部との接点が想像以上に少ないんですね。

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笹谷:私たちは内部の声だけで物事を作るのではなく、実際に使っていただくお客様の声を拾い上げたいと思っています。アンバサダーのような本当に使い込んでいる方の声を直接聞くことができる場が定期的に開催され、しかも地方にお住いの方のご意見も直接頂けるというのは、私たちにとっては貴重な財産というわけです。

広告の次の二段ロケットとしてのクチコミ

笹谷:最近「広告では届かないことが増えている」という意見をよく聞きます。ただし、届かないわけではないと思います。私たちは「広告は届いている」と思っています。

問題は、一般的に言って、昨今は「届いた広告を信頼していない」時代になっているということです。もっと言うと「広告を疑って」いるわけです。この現実から目を逸らしてはいけないと思います。

藤崎:もう少し詳しく教えてください。

笹谷:広告は届いています。ただし、広告はただ知ってもらうだけなんです。広告を届けさせた先の、広告を受け取った方の背中を押す作業をもう一段階、広告ではない方法でやらないと動かない時代だということです。ですので、最後の背中を押す仕組みを、二段階目のロケットのように用意したいと考えているわけです。それがアンバサダーからのクチコミというわけです。
藤崎:なるほど。広告だけでは足りない時代になってきているというわけですね。
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(アンバサダーミーティングには毎回、熱量の高いファンが集まり、熱心な議論が発生する。メーカーは、そのフィードバックを研究・開発に活かす。まさにアンバサダーの声がXperiaを進化させるという構造だ。)

藤崎:笹谷さんのユーザー志向は、いったいどこから生まれてきたのですか?

ユーザーの顔が見える関係づくりが重要

笹谷:私はもともとソニー・コンピュータエンタテインメント(現ソニー・インタラクティブエンタテインメント)で「グランツーリスモ」を11年間担当していました。当時、私はイベントも担当でしたので、広告宣伝をやりながらイベントの立ち合いを朝から晩までやっていました。

そこでお客さんの反応をずっと見てきましたので、イベントに来てくれる熱量の高い方々をどう捕まえてファン化して、どう組織化するかという事は考えた方が良いんじゃないかと常に思ってきたのです。彼らは今でいえばアンバサダーですよね。

藤崎:とても納得しました。その時の経験が今のベースになっているわけですね。

笹谷:買ってくれている方々の顔が分かる宣伝マンになりたかったっていうのは常にありました。ユーザーの顔が見えるという関係が好きなのかも知れません。

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藤崎:「グランツーリスモ」は流行りましたよね。私も持っていました。

笹谷:グランツーリスモのエピソードですが、ある時、お客さんが実際にどういう風に、どんな楽しみ方をしているのかを見せたいと思って、10人くらいの開発プログラマーを引き連れて「東京モータショー」に行ったことがあります。開発者は直接ユーザーに触れ合う機会がほとんどない環境で開発をしていたので、大勢の来場者が実際にプレイしている姿を見て、とても刺激を受けたようでした。

例えばユーザーがプレイする様子をみて「ああいう風に操作するんだ」とわかると、UIの担当の人間は操作方法を変えてきたり、考え方の発想を変えてきたりしました。他にも、あの人たちがこういう風に楽しめるように、深さを出そうとかインタフェイスをこういう風に変えようとか。

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つまり、実際のユーザーの様子に触れ合って、開発者に刺激を与えたことによって、開発者の意識が変わっていったんですよね。そういう経験が今に生きているわけです。
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藤崎:ブランドを強くしていくサイクルの中にユーザーの声を入れるというのは、新しいあり方だと思います。確かにファンとのエンゲージメントが欠かせない時代です。ユーザーの顔が見える関係づくりを大切にする笹谷さんだからでしょうか。アンバサダーミーティングでは、笹谷さんが一番前に立たれて司会をされていましたよね。

笹谷:お客様を大切にしたいというのは、私自身のモチベーションでもあるのです(笑)

藤崎:今日は貴重なお話ありがとうございました。

今回のポイント

・アンバサダーミーティングには開発者も参加
・アンバサダーの声がXperiaを進化させる
・アンバサダーと会うことで開発者の意識が変わる
・広告の次の二段ロケットとしてのクチコミ
・ユーザーの顔が見える関係づくりが重要

今回のまとめ

本来は企業とファンの交流の場であるアンバサダーミーティングは、今やXperiaの開発者たちにとって貴重なフィードバックの場であり、大きな刺激になっている。それはメーカーとファンの理想的な関係ではないでしょうか。そして、その関係がXperiaをさらに進化させている、というお話は本当に素晴らしいと思いました。

しかし、今回のインタビューで一番感銘を受けたのは、笹谷さんのバックグラウンドでした。笹谷さんは長年関わってきた「グランツーリスモ」での広告宣伝やイベントでの経験を発展させて、現在の「Xperia アンバサダープログラム」を推進しているのです。まさに人に歴史あり。つまり「ユーザーの顔がわかる関係づくり」を大切にする姿勢には経験に基づいた原点があり、その姿勢は一貫したものだったのです。プロモーションやプロジェクトは一見、その大きさに目が奪われがちですが、実は個人が抱く理想や志やエネルギーによって推進されているという事実がそこにありました。

※このコラムは、宣伝会議Advertimesに寄稿したものの転載です。

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2016年6月17日


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