市場拡大のために、広告では届かない層へのクチコミが必要だった(日本ケロッグ)
【前回の記事】「ロイヤルカナンが大事にする広告では伝えられないリアリティ」のはこちら
今回のゲスト
五味田 里美(ごみた さとみ)
本ケロッグ合同会社 マーケティング部 グループマネージャー
理系出身ながらマーケティングの面白さに目覚め、外資系メーカーにて、消費者調査、ブランドマーケティング、新ブランドのロンチ等を経験する。シリアル好きが高じて、2011年に日本ケロッグに入社。現在は、コーポレートブランドであるケロッグ、オールブランやフルーツグラノラをはじめとする大人向けブランド、フロスティやココなどの子供向けブランド全般のブランドコミュニケーションを担当。
市場拡大に向けて、クチコミとつきあう必要があった
藤崎:クチコミに着目した理由を、教えてください。
五味田:結論からお話しすると、広告ではもはや届かない層に向けてコミュニケーションしていく必要があったからです。
定期的に質的・量的調査をしていますが、特に食品や健康に関わる商品は、友人のクチコミを重視するという結果が続いて出ています。そこで、時代に合わせて施策を行う必要性を感じ、消費者の声を生かそうと考えました。
藤崎:これまでは広告を通じてシリアルの良さを伝えてきたわけですが、その活動に限界を感じてきたということでしょうか?
五味田:そうですね、広告の限界というよりも市場環境の変化ではないでしょうか。
藤崎:広告で伝えることができる人には、もうすでに届いている、ということかもしれませんね。つまり、知ってもらうのでなくて、実際に食べてもらうためにはどうしたらいいか、ということですよね。
五味田:そうなんです。現在、朝食でのパンやトーストの浸透率は80%以上ですが、シリアルは直近で約39%と、まだまだ伸ばしていけると考えています。私たちの目標は新しく食べる人を増やすことなのですが、ではどういう人たちがポテンシャルユーザーであるかというと、健康についてある程度意識している人ということになります。
藤崎:なるほど。
(藤崎実=アジャイルメディア・ネットワーク/クリエイティブディレクター)
五味田: 健康に関心を持つ人たちの、朝食や身体にいい食事に関する情報ソースを調べていくと、信頼している友人やセレブリティ、ブロガーのクチコミが影響力を持っていることが分かりました。そこで、今までの広告に加えて、新しい方法を検討した方がいいのではないかなと思うようになりました。
藤崎:さまざまな商品があるなかで、まず「オールブラン」でアンバサダープログラムを始めたのはなぜですか?
五味田:さまざまな調査から長年のファンがいることは分かっていましたし、お客様相談室にもオールブランの良さを広めたいという声が寄せられていました。ブランドとアンバサダープログラムの親和性が高いと思ったのです。
(五味田 里美=日本ケロッグ合同会社 マーケティング部 グループマネージャー)
藤崎:「オールブラン」の前身となる商品は、アメリカで発売されて2015年で100周年。いわば看板商品で、根強いファンがいるということですね。
五味田:日本でも約30年前から販売しているため、ある程度の認知は獲得できているのですが、大きな課題が2つありました。ひとつは「おいしさ」に対する消費者の認識、もうひとつは「効果効能」の伝達についてです。アンバサダープログラムを通じて、これらの課題を解決したいという目標がありました。
藤崎:具体的にはどういう課題ですか?
メーカー発信の言葉は信用されにくい
五味田:まず、おいしさに対する消費者の認識についてです。「オールブラン」には、ドライフルーツ入りの「オールブラン ブランフレーク フルーツミックス」といったおいしくて食べやすいラインナップも揃えているにもかかわらず、消費者の中には自然由来の食物繊維量が非常に高い「オールブラン オリジナル」のイメージが強く残っている方が多いようです。
「オールブラン オリジナル」は食物繊維による機能性は非常に高いものの、味が素朴で独特なところがあり、そのイメージが強く残っているために、「オールブランって食物繊維の効果はあるけど、あまりおいしくないよね」「本当に困ったときは頼るけど、毎日食べるものじゃないよね」と思われる傾向がありました。
もうひとつの課題は「効果効能」の伝達です。これは豊富な自然由来の食物繊維による効果が期待できるのですが、ご存知のように広告にはいろいろな表現上の規制があり、私たちから直接伝えることが難しい内容でした。
藤崎:確かに、広告だけでは解決しづらい課題ですね。
五味田:実際に実感された方の声が一番強いというデータもありました。そこで、もっと消費者に近い方々から、ご自身の実感を込めて「おいしさ」や「効果効能」を伝えてもらう方法はないかと考えて、アンバサダーにたどり着きました。
例えば、おいしさに関しては、いくら企業が「おいしいですよ」と言ったところで、なかなか消費者の心には刺さりません。ユーザー調査をみても、「どのブランドもメーカーもおいしいと言っているので、本当においしいかどうかわかりません」というコメントが多く見られます。これは、効果に関しても同様です。規制に触れないようにしながらどの企業も健康にいいことをアピールしていますが、消費者に届いているかどうかは別です。
五味田:私たちが伝えたいことをアンバサダーの方々を通じて伝えていくと、「この人が言っているのであれば、本当においしいかも」「食物繊維の効果を私も実感できるかな、試してみよう」と思ってもらえるのがすごく魅力的だと思います。
藤崎:実際のどのようなプログラムを行ったのでしょうか。
五味田:大きく分けると4つあります。
一つ目は毎月実施しているモニター施策です。これは簡単にいうと3種類の商品をアンバサダーに送付し、食べた感想をブログやSNSで紹介してもらうというものです。商品と一緒に「ワタシスッキリブック」というハンドブックを同封しています。
これはブランドとして伝えたいことをわかりやすくまとめた冊子で、アンバサダー限定の非売品です。内容は食物繊維の話や、お医者様の意見、エクササイズの提案やレシピなど、アンバサダーさんのライフスタイルを意識したものになっています。コンパクトな割に読み応えもあります。
商品とハンドブックを一緒にお送りすることで、アンバサダーのみなさんは、商品の内容をよく理解したうえで、味についての感想やコメントを投稿していました。今は食に対するニーズが多様化してきていて、「オールブラン オリジナル」のような素朴な味を好む方もいますし、「オールブラン ブランフレーク フルーツミックス」のように甘酸っぱいフルーツが好きな方もいます。味については、アンバサダーが気に入った商品について、正直な気持ちをそのまま書いてもらっています。それが商品情報と相まって、肯定的なクチコミが生まれました。
藤崎:狙い通りだったわけですね。
五味田:効果に関しても、食べてみてお通じがよくなった、といったコメントを自主的に書いてくれています。もともとの課題だったおいしさと効果については、この施策でかなり伝わったと思います。
二つ目が、アンバサダーイベントです。よりインフルエンス力の高い方をお呼びして年に4、5回おこなっています。弊社の管理栄養士やブランド担当者が、オールブランについて解説するコーナーがあったり、「ブランでスッキリ!委員会」の料理研究家 柴田真希先生のお料理コーナーがあったりする体験型のイベントです。学びのパートと、日々の実践のパートのメリハリを重視していますが、回を追うごとに内容の質が高くなっていて、とてもいいイベントに育ってきたと思います。
藤崎:料理はみんなで作るので、一体感が出ますよね。
五味田:はい、参加者同様に柴田先生も実際に「オールブラン」のファンですので、イベントの最後はみんなが一体になってとても仲良くなります。しかも、続けてきて良かった点としては1回目から回を追うごとにどんどん進化していることです。初めは単純なお料理でしたが、次第に一緒に焼いたり、季節性を取り入れたり、クリスマスやバレンタインなどを意識したものにどんどん進化してきました。そういう要素が加わることで、アンバサダーさんが自身のブログやSNSで紹介しやすくなっていると分析しています。
このように「オールブラン」のファンの方と触れ合う機会は、企業としては、あるようでなかなかありません。また、社員がファンをイメージしながら仕事ができるかもとても重要です。そこで、社内の他部署の人にも参加を呼びかけファンと触れ合う機会にしています。
実際のところ、アンバサダーが、イベント後にSNSやブログに上げている記事を見ていてもとても質が高く、広告換算した金額も高く算出できています。
アンバサダーとの共創も魅力的
五味田:三つ目は、いわゆる共創です。昨年、アンバサダーの声を集めた店頭POPを作りました。これは評判もよく、手応えを感じており、今年も作りたいと思っています。メーカーによる独りよがりなメッセージに比べて、実際のファンの言葉は、消費者から共感が得られやすいと思います。こうした取り組みを、今後も広げていくつもりです。
藤崎:アンバサダーの声を活用するのは、可能性がありますよね。
五味田:今回、店頭POPに使わせてもらったアンバサダーの方々に連絡をとったところ、みなさん、すごく喜んでくださいました。その声を社内の営業にもシェアしましたが「こんな風にファンのいるブランドに自分は関わっているんだ」と、気が引き締まったようでした。社内の活性化という意味でも、とても有意義な取り組みです。
代ですよね。その時にブランドからの情報と一緒にアンバサダーさんからの情報も出ると、商品購入への後押しになると思います。
この「まとめサイト」に関しては、リスティング広告も打っていて、例えば便秘に悩む方や、食物繊維が足りないと思っている方が検索した時に、まとめサイトに誘導をかけることもしています。その辺は、今後さらに強くしていきたいと思っています。
藤崎:リスティングとの連動はいいですよね。ユーザーが検索した時に、目につきやすいところに情報を届けられるのがリスティングのメリットです。ブランドが作った情報同様に、この「まとめサイト」の価値も高いとすれば、コスト効率も期待できます。
五味田:アンバサダープログラムには将来的な可能性がたくさんあることに気付きました。これは実際にやってみてわかったことで、私たち自身が本当に驚いています。社内でもとても評価され、期待されています。この取り組みは、今後もマス広告と両輪で行っていくつもりです。
今回のポイント
・市場拡大に向けて、クチコミとつきあう必要があった。
・アンバサダーの力でブランドの課題を解決する。
・メーカー発信の言葉は信用されにくい。
・アンバサダーとの共創も魅力的
・クチコミまとめサイトの効果が高い
今回のまとめ
一般的に広告は「広く人に伝えること」が目的であり、マス広告のメカニズムがパワフルな効果を発揮します。しかし、発売から長い年月がたっているブランドが課題を解決するためには、どのような手段があるのでしょうか。日本ケロッグは、市場の拡大とブランドの課題解決のためにクチコミの活用と、ファンとのリレーションに踏み出しました。このインタビューで紹介された4つの内容はどれも特別なことではありません。でも、その組み合わせによって、大きな成果を挙げることができました。企業がブランドのファンと一緒に活動を行う大きな可能性を感じる事例ですね。
今日は施策編でした。次回は成果編をお届けします。
※このコラムは、宣伝会議Advertimesに寄稿したものの転載です。