ロイヤルカナンが大事にする広告では伝えられないリアリティ

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【前回の記事】「ネットに情報が溢れているからこそ、直接「会う」ことに価値がある」のはこちら

ロイヤルカナンのファン向けのプログラムは「ロイヤルカナン アンバサダー・プログラム」ではなく「犬と猫の健康 アンバサダー・プログラム」といいます。つまり、ロイヤルカナンという企業に対してではなく、「犬と猫の健康」を願うペットオーナーが集まるコミュニティというわけです。そこには単にペットフードを販売するだけではない企業姿勢があります。従来の広告発想を超えた企業と顧客の新しいマーケティングについて、ロイヤルカナンの愛澤健志氏にお聞きしました。

今回のゲスト

愛澤 健志(あいざわ けんじ)
ロイヤルカナン ジャポン合同会社 e-business & CRM リレーションシップ マーケティング エグゼクティブ
003年より仏化粧品会社ラグジュアリ部門にてデジタルマーケティング、CRM、セールスプロモーション等に従事。2013年より現職。犬と猫の健やかな一生の実現に向けて、ペットオーナーとの関係性づくりやペットライフに必要な正しい知識の啓発等を担当している。関連して、コミュニティ開発、EC開発、イベント企画・運営等にも携わる。
2.1

一番大切にしているのは「リアリティ」

愛澤:アンバサダー・プログラムでは、犬と猫の健康に関しての悩み・疑問・不安な思いを持つアンバサダーの気持ちに応える栄養学的知識や、私たちロイヤルカナンの取り組みや考え方を紹介しています。

その内容の中で犬と猫の健康に役立ったことや新しく発見したことなどを、アンバサダーの方にSNSなどで率直な感想と一緒に情報発信してもらうことで、その他のペットオーナーにも伝わり、最終的には一頭でも多くの犬と猫の健康に役立つということを願っています。

藤崎:その際のポイントを教えてください。

2.4
(愛澤 健志=ロイヤルカナン ジャポン e-business & CRM リレーションシップ マーケティング エグゼクティブ)

愛澤:一番大切にしているのは「リアリティ」です。アンバサダーの皆さまがプログラムを通じて、何を感じ、役立ったのかについての率直なご意見を特に尊重しています。また、アンバサダーの皆さまの活動により、愛犬・愛猫がどのように反応したかというリアリティを大切にしています。

例えば、過去に猫の運動不足解消の大切さを知ってもらうために「猫じゃらしボックス」を試してもらい、その様子をYouTubeに公開してもらったことがありました。猫じゃらしボックスでよく運動する猫もいれば、しない猫もいる。運動の仕方も様々です。そうした実態をまずご理解いただいた上で、個々の犬・猫の健康維持のためにどのようなケアが必要なのかを、ぜひペットオーナーの皆さまに考えていただきたいのです。

藤崎:あの投稿は見ていて飽きないですよね。しかも「猫の健康」を考えた取り組みですしね。まさにコンテンツマーケティングですね。

今までは商品を買ってもらうことがゴールでしたが、ソーシャルメディア時代は、商品購入後にユーザーが発信する情報も重要です。こういう投稿キャンペーンによって、ファンの存在や、ロイヤルカナンがすごく愛されているブランドだということが周りから見えるというのはすごくいいですよね。

愛澤:とてもありがたいことです。

2.1

藤崎:2014年の年末イベント「Think and Action」についても教えてください。

愛澤:「Think and Action」は、1年間の取り組みを振り返り、プログラムをサポートしてくれた皆さんへの感謝の気持ちを込めて開催しました。アンバサダー・プログラムは、企業であるロイヤルカナンとペットオーナーの皆さまとの取り組みですが、突き詰めるとそれは、人と人との付き合いです。そうした考えにもとづいてロイヤルカナンからは社長をはじめ、多くの社員が参加し、お礼と交流の場をご用意したのです。

Think and Actionのイベントレポート

藤崎:成果も教えてください。プログラムを実施した前後で何か変化がありましたか?

親密な関係から得られた2つの「成果」

愛澤:何か誇れるような大きな成果を語るには時期尚早だと考えています。ただ、しいて言うならば2つの成果があると思います。

まず1つ目は開催するイベントの中などで、アンバサダーの生の声を数多く、そして直接聞くことにより、私たちが期待されていることは何なのかということについての理解が深まったことです。

藤崎:生の声の価値ですね。私も以前は広告会社にいたので、調査はたくさん立ち会ってきましたが、生の声は確かに違いますよね。

愛澤:カジュアルな場で、私たちとアンバサダー、あるいはアンバサダー同士が交わす会話から学ぶことがたくさんありました。アンバサダーの気持ちや真剣さがこもった言葉はとても貴重です。直接お会いして初めて分かることがたくさんあることを実感しました。

もう1つの成果は、ロイヤルカナンが創業時から大切にしている「すべては犬と猫のために」という理念や、その価値観にもとづく取り組みが、アンバサダーの方に受け入れられていると実感できたことです。これはありがたいことに、感謝や感激の気持ちをお伝えいただくこともありました。そうしたフィードバックをもらえることが私たちにとっては何よりの成果だと考えています。ここでいう成果というのは、私たちの考えていること、向かっている方向が間違いではないと確認できたことです。

藤崎:それは素晴らしいですね。

愛澤:これらは小さな成果に見えるかもしれません。しかし今後プログラムを発展させていくうえで、私たちにとって非常に大きな支えになると信じています。これからも謙虚な姿勢を大切にしながら、プログラムの充実に集中したいと思います。

藤崎:数値的な成果を求める企業が多いところ、ロイヤルカナンは現時点では違う価値観を成果と実感しているというお話しですね。とても勇気づけられます。

愛澤:個人の考えとして述べれば、アクションに対してすぐに結果を数字で示さなければならないという考え方も理解できます。しかし私たちの取り組みは、アンバサダーの皆さまと犬と猫の健康を「育む」プログラムです。したがって、時間はかかるかもしれませんが、絆づくりや真に役に立つプログラムの充実化をより大切にしたいと考えます。

ソーシャルメディアの発展で商売の原点に戻る

2.4
藤崎実(アジャイルメディア・ネットワーク/クリエイティブディレクター)

藤崎:実は、私はソーシャルメディアやインターネットの普及によって、むしろマーケティングは昔に戻ってきていると思っています。要は20世紀後半の大量生産・大量消費というシステムや、マス広告が効率化を追い求める発想、そのパワフルな仕組みは、むしろコミュニケーションが進化する過渡期のものだったんじゃないかということです。

今回のお客様が大事という話は、いわばお得意様や御贔屓様を大事にするということです。また、企業理念や評判が大事、長期的な視点に立つという話も、いわゆる看板、暖簾という、マーケティングという言葉もなかった時代の、昔の商いの世界ではむしろ当たり前だったことです。つまり、インターネットやソーシャルメディアの発展によって、広告コミュニケーションは商いの原点に戻っている一面があるのではないかということです。

愛澤:外部環境の変化については、私も同じような考えを持っています。

ロイヤルカナンには犬と猫の健康に関して伝えたいことが実にたくさんあります。それは1日、2日では語り切れるものではありません。私たちが培ってきた専門的な知見や私たち自身のこと、犬と猫の健康に関して詳しく知ってもらうためには、様々な角度から語るための時間と労力も必要です。そのひとつの場としてアンバサダー・プログラムがあると考えています。

藤崎:これからの可能性について教えてください。

愛澤:始めたばかりのプログラムですから、可能性ばかりが広がっています。その中であえて言えば、「アンバサダーの皆さまとの共創(Co-クリエイション)」に大きな可能性を感じています。

前述の「猫じゃらしボックス」をアンバサダーの皆さまに試してもらった際のできごとです。「猫は猫じゃらしで運動するのか?猫が実際どのように運動するのか?そもそもなぜ運動が必要なのか?」 など、アンバサダーの皆さまそれぞれが、独自の視点と素晴らしいクリエイティビティをもって、動画や記事で情報発信してくださいました。

明らかに、私たちロイヤルカナンだけでは伝えきれないことを皆さんが伝えてくださいました。きっと、発信した情報を見た他のペットオーナーにとって、健康についてより深く考えるきっかけになったでしょう。私たちはアンバサダーの皆さまの力を信じているのです。

藤崎:課題もお聞かせください。

愛澤:プログラムが目指している「一頭でも多くの犬と猫の健康」を成し遂げるためには、目先のことだけにとらわれない長期的な視点や永続性が必要です。そのためにプログラムに参加する皆さまとのつながりも継続的かつ深いものになるよう、本当に役立つ知識の提供、参加のしやすさ、取り組みの頻度などについての工夫がより一層必要だと考えています。

藤崎:まさしくエンゲージメントが大切というわけですね。

愛澤:工夫の一例として、最近ではプログラムを紹介するWebサイトを改めて、よりアンバサダーが参加しやすいようにしました。こうした細かな改善を今後も積み重ねていきたいと思います。

2.1

藤崎:アンバサダー・プログラムをしっかりアピールし、解説もしっかり書かれています。企業理念の延長としてプログラムがあるからこその存在感ですね。

愛澤:イベントに関しては、残念ながらまだ東京でしか開催できていませんが、以前、九州からイベントのためにお越しいただいた方に会えた時は本当にうれしかったです。貴重な時間と労力をかけて足を運んでいただける方がいる以上、私たちとしても期待を裏切らないようにプログラムを充実させていくつもりです。

藤崎:実際のところ、アンバサダーの皆さんはロイヤルカナンのフードにとても愛着を持っていますし、皆さん「犬と猫の健康」への意識や熱意も高いです。企業理念と製品づくりをプログラムが全て一気通貫している好例ですね。家族の一員として犬と猫と暮らしている人が、犬と猫の健康を考えたフードを突き詰めていくと、ロイヤルカナンに繋がるという確固たる存在がありますものね。

愛澤:そのように感じていただけるととてもありがたいです。

今回のポイント

・犬と猫の健康に必要な知識を「リアリティ」と共に広く伝えたい。
・ユーザーとの親密な関係から得られた2つの成果
・ソーシャルメディアの発展で、ビジネスは商の原点に戻っている
・今後のキーワードはアンバサダーとの共創「Co-クリエイション」

今回のまとめ

施策の成果を数値や売り上げに求める傾向がある一方、ロイヤルカナンの場合は「犬と猫の健康」という企業理念に基づく取り組みとしてアンバサダー・プログラムを捉え、お客様との長期的な関係づくりを目指しています。ここから学ぶことが2つあると思いました。

ひとつは「マーケティングとは、売れる仕組みをつくること」という有名な定義に関することです。企業理念の実現を目指すことが結果として利益に結びつくのであれば、それは企業理念が素晴らしいということではないでしょうか。もうひとつは長期的な視点の重要性ですが、これLTV(ライフタイムバリュー)の視点からも納得ですね。(アジャイルメディア・ネットワーク 藤崎実)

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※このコラムは、宣伝会議Advertimesに寄稿したものの転載です。

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2016年4月20日


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