ソーシャルメディアの浸透が、人の「繋がりたい」という気持ちを強めている
今回のゲスト
佐藤達郎(さとう たつろう)
ADKから博報堂メディアパートナーズを経て、多摩美術大学教授
近著『「これからの広告」の教科書』(かんき出版)
なぜアンバサダーに注目が集まるのか
藤崎:本題に入る前に、なぜ「アンバサダー」が注目されるようになったのか、世の中の流れからお聞きします。佐藤さんは、以前に「Talkability(トーカビリティ)」というテーマの論文を発表されていましたよね。
佐藤:はい、ある時から広告に話題性を重視した表現が増えてきたので、その傾向を“話題になる力”という意味の「トーカビリティ」という切り口で分析しました。トーカビリティという言葉は、英語圏では大変よく使われます。
その当時、アメリカではトーカビリティだけでなく、「アドボケイツ」の活性化についても議論されていました。トーカビリティを分析した経験があったので、アドボケイツにも注目し、日本広告学会で紹介したのです。
藤崎:それは、人に話しやすい広告表現、いわゆる「バズる広告」に注目が集まっていた。その同じ文脈で、話題にしてくれる人たちである「アドボケイツ」にも注目する流れが生まれてきたということでしょうか。
佐藤:そうですね。今までの広告は企業からユーザーに直接語りかける方法が中心でしたが、ユーザー同士で語ってくれる傾向がより強まってきた。そういう環境では、話題にしてくれる人である「アドボケイツ」にも着目する必要があります。僕は、そういった話題にしてくれる人を生む表現を「ソーシャル・クリエイティビティ」と呼んでいます。
藤崎:伝播性への着目は、10年ほど前から続いているのですね。
佐藤:さらにデジタルメディアやソーシャルメディアの台頭が影響し、その傾向はますます強まっています。
藤崎:やはり、ソーシャルメディアの普及が影響しているのですね。
佐藤:ソーシャルメディアによって、「人に何かを伝えたい」「人とつながりたい」という気持ちがより強くなっているのではないでしょうか。そして、ソーシャルメディアが普及したことで、おそらくオンラインではない「リアルなコミュニケーション」も増えているという印象を持っています。
藤崎:その可能性は高いと思います。以前、携帯電話の普及によって、人と人が電話で話すだけでなく、実際に会う機会も増えている、という調査結果を見たことがあります。
佐藤:ちなみに新聞は、もともと「コーヒーハウス」という喫茶と社交を兼ねたような場所で、みんなで「ああでもない」「こうでもない」と読みながらワイワイ語ったことがスタートです。それは、今でいうツイッターのような場で、ソーシャルメディアに近い存在だった考えられます。ひょっとしたら、歴史の中でマスメディアの時代である20世紀後半は、人と人がつながりたいという気持ちが顕在化しなかった特殊な時代だったのかも知れません。
藤崎:なるほど。私もテクノロジーの進化によって、昔の行為がいま見直されているのではないかという仮説を持っています。
佐藤:もともと人は「誰かとつながりたい」という気持ちを持っています。そこに、FacebookやTwitterといったソーシャルメディアが誕生し、その本来、人が持っていた「つながりたい」「いいと思ったものを人に勧めたい」という気持ちを表現できるようになったのではないでしょうか。
藤崎:そう考えると、おもしろいですね。
佐藤:広告は「世の中の人が何を求めているか」によって変わるべきです。今は、人と人との関係や、人と情報の関係が「つながる」方向に向かっている。広告コミュニケーションのあり方も、その傾向を生かすべきです。
藤崎:広告は社会を映す鏡だと昔から言われていますしね。佐藤先生がおっしゃるように、ソーシャルメディアはもともと人間が持っていた欲求をうまく救い上げたから、これほど定着したのかもしれませんね。
アンバサダーはマーケティングの選択肢の一つ
佐藤:2月に、電通から2015年度の「日本の広告費」が発表されました。媒体別構成費では、地上波テレビが29.3%、インターネット広告費が18.8%、新聞が9.2%でした。つまりテレビCMとインターネット広告費で2強というわけです。
藤崎:新聞はインターネット広告費の半分なんですね。インターネットやソーシャルメディアの活用が増えているので、当然、アドボケイツも増えてきたのかも知れませんね。
企業がファンやアドボケイツの推奨力を活用したプロモーションを行うためには、彼らと積極的に関係を持つ必要があります。企業が自然発生的ではないクチコミを狙うためには、彼らに情報を提供し、知ってもらうことがファーストステップです。さらには、彼らと常に連絡を取れるような「アドボケイツの組織化」が重要で、そこで生まれた新しい顧客像が「アンバサダー」だと私たちは考えています。
佐藤:今までの広告業界は、いわゆる有名人がアンバサダーになるケースが一般的だった。彼らは自発的に推奨するわけではないので、そのイメージが強い人には藤崎さんの言うアンバサダーは新しい概念でしょうね。アンバサダーを組織化するメソッドを開発することは、企業側から見たときにプロモーションの選択肢が増えたことになりますね。
藤崎:はい、ファンの組織化は、既存顧客との関係づくりと言い換えることもできます。企業は今まで新規顧客をどう取り込むかには注力し、自社のファンとの関係づくりは手薄だったのではないでしょうか。
佐藤:マス広告の視点から見ると規模と効果に懐疑的になりがちですが、今後ファンとの連携やクチコミの重要性は確実に高まります。現実的な話としては、予算という観点もあるのではないでしょうか。最近はテレビCMに多額の費用をかけても、見ている人が少なかったり、偏っていたりすることもあります。そんな状況だからこそ、企業がターゲットにアプローチするための手法として、アンバサダーとの関係づくりが選択肢の一つに挙がると思います。
藤崎:ひとつ付け加えれば、マス広告からアンバサダーを活用したマーケティングに全てが移行するといった誤解は避けたいと思っています。アンバサダーとのコミュニケーションが企業の全ての課題を解決するわけではありません。
佐藤:そうですね、生活者が多様化しているからこそ、広告する側の選択肢の広がりも大事ということですよね。もちろん、マスメディアのパワーは今でも大きい。あくまで組み合わせが大事ということでしょうね。
藤崎:はい、そうだと思います。
佐藤:ハーレーダビッドソンの事例が有名ですが、今後は企業がファンを囲い込んだ「ブランドコミュニティ」がとても大事だと思います。企業が商品やブランドを介して人々と緩やかに繋がっているコミュニティというのは、今後の広告のあり方を考えたときに、外せないのではないでしょうか。
違う言い方をすれば、これからのブランディングには、そこに仲間がいるとか、コミュニティがあるというように感じられることが重要だということです。そのコミュニティが、藤崎さんの言うファンであり、アンバサダーであるならば、それらが存在しているブランドには、共感できる価値観や魅力があるということではないでしょうか。
藤崎:「そこに仲間がいるブランド」って、いいですね。わかる気がします。今日はためになるお話、ありがとうございました。
今回のポイント
・バズる広告表現から、話題にしてくれる人へ
・アンバサダーとの関係づくりはマーケティングの選択肢のひとつ
・ブランディングにコミュニティが重要な時代が到来している
今回のまとめ
ソーシャルメディアの発展は、人がもともと持っていた、人とつながりたいという潜在的な欲求を上手に叶えてくれるものでした。ニーズとウオンツの関係はよくマーケティングで語られますが、だからここまで定着したのでしょう。企業がファンと上手に関係をつくる「ブランドコミュニティ」の話も納得です。確かにこれからは、お互いの関係を深める時代ですね。(アジャイルメディア・ネットワーク
藤崎実)
※このコラムは、宣伝会議Advertimesに寄稿したものの転載です。