広告クリエイターこそ「顧客視点」のコミュニケーション設計に向いている

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【前回の記事】「20世紀の成功体験から、21世紀のマーケティングは生まれづらい」はこちら

3月に発売した『顧客視点の企業戦略』(発行:宣伝会議)は、「広告クリエイター」にこそ読んでもらいたい一冊です。なぜなら顧客視点で物事を考え、プロジェクトを企画・実現させるのは企業担当者や経営者、ストラテジックプランナーだけではないからです。今回のコラムで特にお伝えしたいのは、広告クリエイターという職業が持つ、能力の幅の広さです。広告の世界にインターネットやソーシャルメディアが加わり、クリエイターの活躍の場が広がりましたが、同様に顧客視点の時代を迎えて、さらに活躍の場が広がる可能性があるのです。広告クリエイターは職業柄、顧客に一番近い存在なのですから。

新人クリエイターがぶつかる最初の壁

新人クリエイターがぶつかる最初の壁をご存知ですか。

例外はあるかも知れませんが、私の知る限り、広告制作の現場に配属された新人の多くが、ある壁にぶつかるようです。もちろん私自身もこの壁にぶつかり、大いに悩んで苦しみました。

その苦しみを乗り越えることができたのは、良き先輩のおかげでした。広告クリエイターの世界では師弟関係が見受けられる場合が多いのも、壁を乗り越えために自分自身では気づかない客観的なアドバイスが必要だからだと思います。ポイントをわかりやすくするために、コピーライターを例に解説します。

例えば、コピーには企業やブランドが抱えるさまざまな課題を解決するという目的があります。そこでコピーライターは、いろいろな情報を頭に入れてコピーを書くことになります。どういう視点で述べれば生活者にわかってもらえるのか、どんなことをメッセージにしたら、生活者にうまく伝わるのか、あらゆる発想を駆使して一生懸命に書きます。

しかし新人が最初に書いたコピーは、先輩からダメ出しされる場合が多いようです。それらのコピーには共通して「欠けているもの」があるのです。

それは、コピーを読む「相手」の存在です。

相手にとって受け取りやすいボールを投げることが大切

新人コピーライターがぶつかる最初の壁を一口に言えば、「自分がいいと思ったことを一生懸命に伝えれば、相手に伝わるはずだ」という発想が前提になっていることです。本当に不思議ですが、これは多くの新人クリエイターが陥りがちなポイントで、なかなか乗り越えられない壁です。

つまり、キャッチボールで言えば「自分が投げたいボールを一生懸命に投げれば、相手が受け取ってくれるだろう」という発想に近いでしょう。

しかしコピーでも、キャッチボールでも共通して重要なのは、「相手にとって受け取りやすいボールを投げる」という発想の転換です。そもそも生活者は、広告コピーを見ようと思って、目を見開いて暮らしているわけではありません。あえて言えば「無関心」なのです。では、どうしたら自分に関係があると思ってもらえるのか。まず、そこを出発点にしないと、そもそも届かないというわけです。

どんなに工夫を凝らした豪速球も縦横無尽の変化球もコースが外れていては、相手は受け取ることができません。キャッチボールを例に言えば、相手の胸元に向かって投げなければ、受け取ってもらえないのです。

これはコミュニケーションの基本と考えることができます。つまり、相手がいて成り立つものなので、受け手を考えた思考が大切だというわけです。そこには送り手が一生懸命に考えたことや、経験を踏まえたものだということは、ほとんど関係ないというわけです。

コピー100本ノックの意味

このコラムはコピーの書き方講座ではないので詳細は割愛しますが、みなさんも新人コピーライターが先輩から「コピーの100本ノックを受ける」という話を聞いたことがあると思います。まずコピーを100本書く宿題が出て、翌日にまた新たな100本を書く宿題が出るといった具合です。

この100本ノックは、たくさんの視点を持つための訓練と言えます。もちろん発想の幅を広げてアイデア違いで100本書ければ、とても素晴らしいことです。でも、そこまでアイデアに違いが出せない場合、先輩からこんなアドバイスを受けることがあります。

「自分の身近な人の顔をとにかくたくさん思い浮かべて、その人たちの気持ちになって、商品やブランドのコピーを考えてみたら?そうすればすぐ100本くらいコピーが書けるよ」。

実際の思考は、次のようになります。

自分の親だったらこの商品をどう考えるだろう、職場のあの人だったらこの商品をどのように使うだろう、あのタレントだったらどんな時にこの商品を欲しいと思うだろう、歴史上の人物だったらどんな感想を述べるだろう。

さらに、漫画の主人公だったら、宇宙人だったら、あそこで信号を待っている人だったら、小学校の時の同級生だったら、未来から来た人だったら、といろいろな顔を思い浮かべることで、次々とコピーが書けていくから不思議です。

自分視点=企業視点、他者視点=顧客視点

これは、それまで「自分だけの視点」、つまり一方的な視点でコピーを書こうとしていたのに対して、「できるだけ多くの人の視点」、つまりコピーを受け取る相手を想像することで可能になった、表現の幅と言い換えることができるでしょう。

強引に思われるかもしれませんが、新人が最初に陥る「自分だけの視点」とは、マス・マーケティングのあり方に当てはめれば、一方的な「企業視点」だと言えるでしょう。それに対して「できるだけ多くの人の視点」とは、受け手の立場に立った顧客視点と言うことはできないでしょうか。

4マス媒体に加えてインターネットやソーシャルメディアが発展した現在、広告コミュニケーションは一方通行のものではなく、双方向のコミュニケーションが可能になっています。

普段から、受け手である普通の人の気持ちになって商品やブランドを考える訓練を積んでいる広告クリエイターは、実のところ、顧客視点で物事を考えるプロということができるかも知れません。

考えてみれば、広告クリエイターは生活者に広告コミュニケーションを届ける最終的な立場にあり、顧客に一番近い存在ということもできます。近年の環境変化により、広告クリエイターの守備範囲は、メディアを通じた広告コミュニケーションだけでなく、ユーザーのリアルな体験設計や、顧客コミュニティとのコラボレーションなど、今まで以上に拡がっています。

広告クリエイターこそ、顧客視点のプロ

企業目線を離れて、相手の立場、顧客の立場で物事を考える姿勢が問われる時代です。現在、顧客視点のプロジェクトを推進しているのは企業担当者の場合が多いのですが、広告クリエイターこそ、企業のファンと一緒に取り組む「顧客視点のコミュニケーション設計」に向いているのかも知れないのです。

このコラムをお読みの広告クリエイターのみなさん、ぜひとも新しい可能性に挑戦してみませんか。

※このコラムは、宣伝会議Advertimesに寄稿したものの転載です。

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2017年3月30日


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