人口減少は、日本企業にとってピンチでもあるがチャンスにもなる

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前回のコラムでは、ワールドマーケティングサミットでのクマー教授の講演から、顧客とのエンゲージメントによって生まれる価値の効果測定の4つの視点をご紹介しました。

今回は、ワールドマーケティングサミットのジャパンカウンシルの代表でもあるネスレ日本の高岡社長の2日目のプレゼンテーションの内容をご紹介したいと思います。高岡社長が強調されていたのが、「The New Reality in Japan(日本の新しい現実)」を直視するという視点です。

日本は、これから高齢化と同時に人口減少が急速に進行することが予測されています。当然ネスレのような食品メーカーにとって、人口減少ということは胃袋が減ることを意味しますから、大きな死活問題です。

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普通に考えれば、市場が縮小していけば、事業も縮小するのは当然ですから、環境のせいにして今まで通りの事業のやり方を続けていくのが、一般的な選択かもしれません。ただ、ネスレ日本はその選択をしませんでした。

あえて自ら変化を生み出す挑戦を行っていきます。高岡社長が紹介されていた取り組みは下記の3つです。

■バリスタやドルチェグストのような専用端末の開発
■ネスカフェアンバサダーによるオフィス市場への参入
■キットカットショコラトリーによるブランドイメージの刷新

一つひとつ簡単にご紹介しましょう。

■バリスタやドルチェグストのような専用端末の開発

日本における高齢化や人口減少は、一般的な家庭環境の急速な減少を意味します。

従来の一般家庭では、コーヒーを飲む人が複数いましたから、ゴールドブレンドのようなお湯に溶かすタイプのインスタントコーヒーをたくさん作り、みんなで楽しんでいました。

それが、現在では単身世帯や夫婦のみの世帯が増加し、1杯のコーヒーのためだけにお湯を沸かすことが面倒になる時代が来ていることが、明確になっていました。
 
そこで、ネスレ日本が取り組んだのが、バリスタやドルチェグストに代表されるような、1杯からでも家庭で手軽に美味しい珈琲を飲むことができる手段の提供です。

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食品メーカーであるネスレが、コーヒーメーカー自体に参入するということは、一般的な常識で考えると、明らかに事業ドメインの大きなジャンプがありますし、端末の開発コストや在庫問題などの様々なリスクがあります。

しかし、ネスレ日本はそのリスクを取ることにより、市場の変化に対して、自ら市場を変化させるポジションを取りにいったわけです。

ネスカフェアンバサダーによるオフィス市場への参入

前述の問題と並行してネスレ日本が取り組んだのがオフィス市場への参入です。

ネスレ日本はもともと家庭向けコーヒー市場では非常に強い存在でしたが、オフィス市場では弱かったそうです。ただ、人口減少により家庭市場は縮小することが明確です。

そこで、ネスレ日本が挑戦したのがネスカフェアンバサダーにより、オフィスでも家庭同様に低コストでコーヒーを楽しめる手段を提供するという、新しいビジネスモデルへの挑戦でした。

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こちらについては、アドタイに詳細のインタビュー記事も掲載されていますので、そちらをご覧ください。
 
参考:人に喜んでもらうことがビジネスモデルになった(ネスカフェ アンバサダー)

キットカットショコラトリーによるブランドイメージの刷新

また、人口減少や高齢化は、キットカットのような低単価のチョコレートの市場が縮小していくことも意味します。

ただ、ネスレ日本ではデフレが問題視される日本市場においても、ショコラティエによる高価なチョコレートが売れている事実に注目しました。実はチョコレート市場においても、低単価なチョコレートと高価なチョコレートの二極化が進んでいたのです。

そこで、ネスレ日本が取り組んだのが、著名なパティシエである高木康政氏とコラボレーションしたキットカットの専門店としての「キットカット ショコラトリー」の展開でした。

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このキットカットショコラトリーは、価格帯を一般のキットカットの20倍に設定。キットカットというナショナルブランドにおけるクラフトマンシップの存在をアピールすることに注力し、キットカットのブランドイメージを拡げることに成功したわけです。

これらの取り組みにより、ネスレ日本はネスレグループの先進国における平均成長率の倍以上の成長を達成することができ、ネスレグループの中では「ジャパンミラクル」と呼ばれているそうです。

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このネスレ日本の事例から我々が学ぶべきことは、ネスレ日本の高岡社長をはじめとした社員の方々が「日本の新しい現実」を直視し、市場の縮小をピンチと捉えるのではなく、市場が変化するチャンスと捉えた点です。

もちろん、ネスレ日本のようなグローバル企業における日本法人にとっては、日本市場こそが直面すべき唯一の市場のため、他の日本企業のように海外展開に注力することで、日本市場の問題から目を背けるという選択肢がないことが、前述の逆転の発想につながっている面もあるようです。

ただ、同じ逆転の発想で考えれば、日本企業も日本市場を減少する市場と捉えるのではなく、変化している市場と捉えて、新しいビジネスチャンスを発見することができるはずです。

ネスレ日本には既に世界のネスレグループから、こうした成功事例を学びたいという相談が引く手あまたの状態になっているとのこと。

つまり、世界に先んじて高齢化や人口減少に直面している日本において、その変化を先取りした新しいビジネスモデルを確立することができれば、それを世界の国々に展開していくことができる可能性も見えてくると言えます。

このネスレ日本の事例を聞くと、外資系企業は経営トップの発想が進んでて良いな、と思ってしまう人も多いかもしれませんが、こうした顧客視点で顧客の抱えている問題を再定義し、新しい市場を作ろうとする行為こそが本来「マーケティング」の役割だと言えます。

高岡社長は、日本のバブル前の成長の源は、あくまで勤勉な労働力を安いコストで活用することができていたことにあったのに、バブル後にその状況が大きく変わったことを無視して、本質的なマーケティングを学ぼうという姿勢が日本になかったことが、現在の日本企業の苦境を作っているのではないか、と問題提起されていました。

そういう意味では、マーケティング視点で日本の人口減少を顧客の問題の変化と捉え、日本の人口減少をピンチと捉えずにチャンスと捉えることができるかどうかは、今後の日本企業のマーケティング部門にとっても重要なテーマになるのではないでしょうか。

※このコラムは、宣伝会議Advertimesに寄稿したものの転載です。

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amnblog
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2016年11月24日


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