人は読んだことの10%しか覚えてないが、体験したことの90%は忘れない

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広告で大切にすべきなのは何?

前回のコラムでは、「アドブロック」のような手段で広告が非表示にされたり、広告が無意識にスルーされたりしてしまう時代に、広告主はどう変わっていくべきかという話について考えてみました。

その選択肢の一つとして、スバルのファンミーティングやケロッグのオールブランアンバサダーのような、既存顧客とのコミュニケーションをご紹介しました。ここでポイントになるのが効果測定の考え方です。

以前にもご紹介しましたが、既存顧客を重視したアンバサダープログラム的なアプローチをとると、新規顧客を重視したマスマーケティング的なアプローチに比べて、KPIの人数が3桁、4桁も足りないということが発生します。

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参考:アンバサダープログラムとは何か?検討する際に必ず議論のループが起きてしまう訳

広告であれば100万人の新規顧客候補の認知を獲得することができるのに対して、ファンミーティングのようなイベントですと、スバルのような大規模のものでも2000人で、通常はもっと少ないことも多いでしょう。

100万人と2000人を数字だけ比べれば、当然100万人の方が良いように見えるはず。「CLUB Panasonic(クラブ パナソニック)」のように800万人も会員がいれば、広告に勝てるケースも増えてくるとは思いますが、それでも数千万人に届けることができるテレビCMと単純に数字だけ比較すると、テレビCMの方が良いと感じる人は少なくないはずです。

ただ、ここで重要なのが「質」の視点です。本来であれば15秒間のテレビCMのメッセージに触れるのと、イベントで半日にわたって企業とファンが一緒の時間を過ごす価値は「質」の面からすれば同じではありません。

ただ問題は、この「質」を「量」に転換するのが非常に難しいということです。

参考:これからの広告効果測定は「質」を「量」で表現する技術が重要になる

はたしてスバルのファンが、スバルの社員と一緒にイベントで過ごした経験や、ネスカフェアンバサダーで、アンバサダーとネスレの人たちが一緒にキャンプで過ごした経験は、雑誌広告やテレビCMと比較したときにどれぐらいの価値があると考えられるのでしょうか?

そんな話のヒントになるプレゼンが、先日東京で開催された「ワールドマーケティングサミット2016」で紹介されていましたので、ご紹介しましょう。

このプレゼンをしていたのはキッザニアの創業者であるハビエル・ロペス氏。

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ロペス氏がエクスペリエンスピラミッドとして紹介していた資料によると、人間は一般的に読んだものは10%ぐらいしか覚えていられないのに対し、実際に自分で体験したことは90%を覚えていられるのだそうです。

スライドの詳細を細かく日本語で書くとこうなります。

■人が一般的に覚えている確率 (メディアチャネル)

文字を読む行為では10% (新聞、雑誌、メール)
言葉を聞く行為では20% (ラジオ)
視覚で見る行為では30% (テレビCM)
聞くと見る両方では50% (ビデオプログラム)
話したり書くことで70% (インターネット)
体験することにより90% (体験)

体験の方が「広告」の9倍の価値をもつことも

このことで、従来の印刷物やダイレクトメールなどの手法から、「経験価値マーケティング」や「サンプリング」のような経験や体験を重視したマーケティング手法に、重心を移している企業が増えているとのことです。

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実際に自分のことを振り返ってみても、本を読んだり授業で聞くだけでなく、自分で書いてみたり、他の人に教えたりする方がより覚えることができるというのは受験勉強でもよく言われていましたし、理科の実験や体育の授業のように体験したことの方が強烈な記憶として残っているというのは実感がわくと思います。

このプレゼンを実施したロペス氏が立ち上げたキッザニアこそが、子供を対象にした経験価値マーケティングを企業に提供している会社になります。実際にキッザニアを来訪した子供はもちろん、同伴した親においてもブランドの認知度が明らかに向上したというデータが出ているそうです。

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文章や体験の中身によって、この記憶に残る確率は大きく変わるでしょうから単純比較はできませんが、乱暴に比較すると単純にメルマガを送って読んでもらったり、文字のバナー広告で宣伝をしたりする行為よりも、体験した経験というのは9倍の価値があるということが言えるかもしれないわけです。

特に、メルマガ広告やバナー広告の場合、送信数や表示数がそのまま必ずしも顧客の目に留まるわけではありません。メルマガの開封率やバナーの視認率が低いケースが多いことを考えると、100万人に表示したバナー広告よりも2000人のイベント参加者の方が結果的に大勢の人の記憶に残るということも、十分ありえます。つまり、表示された数や届いた数のみを「リーチ」として比較するのではなく、記憶に残った人数を類推して比較するのが、イベントのような施策の一つの手法として考えられるわけです。

昔はテキスト中心だったインターネットが、InstagramやLINEのスタンプ、そして最近のライブ動画のように写真や動画中心になってきたのはある意味当然と言えるでしょう。さらに、VR(バーチャルリアリティ)のように移動しなくても仮想的に体験させる手段の重要性もあらためて考えさせられる話だと思います。

※このコラムは、宣伝会議Advertimesに寄稿したものの転載です

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2016年10月25日


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