ポケモンGOが「店舗」のマーケティングの常識を変えるかもしれない

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※このコラムは、宣伝会議Advertimesに寄稿したものの転載です。

ポケモンGOが来店促進の新しい形になる?

「ポケモンGO旋風」がすごい勢いで吹き荒れています。

米国では社会現象というような状況になり、子どもたちの健康問題の解消につながるという声があるかと思えば、関連した事故や事件も注目されています。日本でもリリース日の憶測が錯綜しています。

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そもそもポケモンは「ゲーム」のキャラクターですから、このコラムの読者にはポケモンGO騒動は自分には関係ない出来事と思っている方が多いかもしれません。

ただ、実はポケモンGOには、今後のマーケティング、特に店舗などのリアルのマーケティングにおける従来の常識を変える可能性があると言ったら、皆さんはどう思うでしょうか?

ポケモンGOは、いわゆる「位置ゲー」と呼ばれる位置情報を活用したゲームです。通常のスマホのゲームは、スマホの画面の中で遊びますから、どこでも遊べる一方で、スマホの画面以外に影響を及ぼすことは少ないものです。

これが位置ゲーにおいては、ユーザーがスマホを持って移動する前提でゲームが設計されているため、人を実際に動かすことができる、というのがマーケティングにおける非常に大きな可能性です。

実際に米国でも、飲食店がポケモンGOのキャラクターが発生しやすくなるアイテムを設置することで、ユーザーの来店するモチベーションを刺激し、売上アップに貢献しているという事例が出てきています。日本でのリリースにおいても日本マクドナルドが公式にスポンサーとして参加していることが発表されました。

ゲームのためにユーザーが移動するというのは、位置ゲーをプレイしたことのない人からすると、突拍子もない話に聞こえるかもしれません。これは、スタンプラリーをイメージしていただければ分かりやすいでしょう。例えば、夏休みになるとJRがポケモンとコラボして、スタンプラリーを実施するのが日本の夏の風物詩になっています。

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単純に駅を巡るという行為は、よほどの鉄道マニアでなければ実施しないと思います。これが駅でポケモンのスタンプを押してもらえ、該当の全ての駅を回れば賞状や賞品がもらえるという形になると、同じ駅巡りでも魅力的なエンターテイメントに変わるわけです。

10年ぐらい前に、ニンテンドーDSのゲームで「脳トレ」というゲームが流行ったのを覚えていますでしょうか?

これも実際のゲームの要素は算数や漢字など、どちらかというと「勉強」と分類されて敬遠されがちな行為を、「脳を鍛えるゲーム」という立て付けにすることで多くの人々がはまってしまうことを証明していました。

位置情報ゲームも、ある意味「移動する」という一見退屈な避けたい作業を、ゲームの要素と組み合わせてエンターテイメントにすることを証明している存在と言えます。

それにより、ポケモンGOという仮想世界のインセンティブを活用することで、特定のリアルの店舗への集客を増やす、ということが実現できる可能性があるわけです。

イングレスに見る「位置ゲー」の可能性

知る人ぞ知る話ではありますが、ポケモンGOの開発元であるナイアンティックは、既にイングレスというポケモンGOの兄貴分に当たる位置情報ゲームで、様々な企業タイアップを実施しています。

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例えば、イングレスではローソンが日本でいち早くスポンサー企業として名乗りを上げて話題になりました。ローソンの1万を超える店舗が、イングレスのゲーム内で重要なスポットとなる「ポータル」になることで、プレイヤーはゲームをしていると自然とローソンの近辺を通過することが期待されるというわけです。

実際にイングレスのプレイヤーの中には、「どうせコンビニに寄るならイングレスにスポンサーしてくれているローソンによろう」という思考回路になる人も少なくないようで、具体的な数値は明らかにされていないものの、集客への効果も評価されているようです。

さらに分かりやすい成功事例が伊藤園の事例でしょう。

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伊藤園では、2000台の自販機をゲーム内のポータルにする形でスポンサードを実施。自販機で特定の商品にシールが添付され、クオカードやゲーム内アイテムを入手できる仕組みを提供することで、イングレスのユーザーによる購入を促進することで、事前に予想していた数倍の売上を達成することに成功しています。

丁度、先週の土曜日には、東京で大規模なイングレスのイベントが開催され、お台場の特設会場を中心に1万人以上のユーザーが参加するという大変な盛り上がりを見せていました。

イングレスは、そのSF的で独特な世界感から、なかなか一般ユーザーにとっては敷居が高いゲームだとも言われていますが、そのイングレスで1万人を動員できているわけです。子どもから大人まで認知度が高いポケモンであれば、さらに大勢の人々が「動く」可能性が高いというのは容易に想像できるでしょう。

仮想世界のインセンティブにより、実際の世界のユーザーが特定の場所に「動く」ということは、当然店舗や施設にとっては非常に魅力的な集客手段になる可能性があるということになります。

従来の店舗の集客は、割引クーポンやイベントなどの現実社会のサービスやインセンティブをチラシやダイレクトメールで案内して、顧客を誘引しようとすることが常識でした。イングレスやポケモンGOのような位置情報ゲームは、そこに全く新しい集客手法を提示してくれているわけです。

前回のコラムでは、マーケティング施策の「量」と「質」の議論をご紹介しましたが、ある意味テレビCMをうって数百万人や数千万人の単純な「量」の認知を獲得するよりも、ポケモンGOやイングレスを使った施策の方が、確実に数百人や数千人の来店という「質」の集客を達成できる可能性があるとも言えます。

まずはマクドナルドとポケモンGOのコラボが、実際にどれぐらいマクドナルドの業績アップに効果があるのかが注目されるポイントになるでしょう。

日本のサービス開始が一体いつになるのかはナイアンティックのみぞ知るという状況ではありますが、マーケティングやコミュニケーションに携わる方々は、ぜひ一度試してみられることをおすすめしたいと思います。

Author Profile

徳力 基彦
アジャイルメディア・ネットワーク株式会社  取締役 CMO ブロガー

NTTやIT系コンサルティングファーム等を経て、2006年にアジャイルメディア・ネットワーク設立時からブロガーの一人として運営に参画。「アンバサダーを重視するアプローチ」をキーワードに、ソーシャルメディアの企業活用についての啓蒙活動を担当。2009年2月に代表取締役社長に就任し、2014年3月より現職。書籍「アンバサダーマーケティング」においては解説を担当した。
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2016年8月19日


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