まずは「縦割り組織」の壁をぶち壊すところから始めよう。

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※このコラムは、宣伝会議Advertimesに寄稿したものの転載です。

縦割り組織のデメリットが明確化している

前回のコラムでは、少し寄り道して最近、話題の広告代理店とコンサル会社の競合について考えてみましたが、この話と関連するのがデジタルマーケティング時代、ソーシャルメディア時代における企業のあるべき組織構造の変化でしょう。

マスマーケティング時代においては、いわゆるサイロ型と呼ばれる縦割りの組織構造の効率が良いと考えられてきました。宣伝部が広告を扱い、広報部がメディアリレーションを行い、サポート部が顧客からの問い合わせやクレーム電話に対応し、開発部が商品開発を行い、システム部が社員の利用するシステムの運用を行う。それぞれの役割を、それぞれの部署で集中して実施する形が一般的だったと思います。

宣伝部の中でも、テレビの担当、Webの担当が明確に分かれていて、それぞれが別の活動を行っている、というのは珍しくない時代でした。そもそも社内のコミュニケーションも紙や電話が中心で非効率でしたし、部門ごとの情報共有も大変だったわけです。そういう意味では、縦割りで分業をするという組織構造は理にかなっていたとも言えるでしょう。

グランズウェル

グランズウェル

ただ、デジタル時代になり、スマホやソーシャルメディアが普及して、この縦割りの組織構造のデメリットが明確に出てくるようになっています。

象徴的なのが、ソーシャルメディアの普及による企業と顧客の関係値の変化です。ソーシャルメディアマーケティングのバイブルと呼ばれている「グランズウェル」では、5つの戦略でソーシャルメディアの可能性を表現しています。

5つの戦略の概要は下記のとおりです。

傾聴戦略 :顧客理解を深める
会話戦略 :自社のメッセージを広める
活性化戦略:熱心な顧客を見つけ、彼らの影響力を最大化する
支援戦略:顧客が助け合えるようにする
統合戦略:顧客をビジネスプロセスに統合する

私が所属するアジャイルメディア・ネットワークでは、それをサイクル上にした「アンバサダーサイクル」で表現していますが、ポイントとなるのはそれぞれの戦略は従来のサイロ型の組織では別の組織の役割であるという点です。

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傾聴戦略というのは、リサーチに近い話ですからリサーチ部やマーケティング部の仕事かもしれませんし、コールセンターの仕事かもしれません。

会話戦略というのは、自社のメッセージを広めるという意味で広報部の仕事と言えるかもしれませんし、窓口や営業担当の仕事かもしれません。

活性化戦略は、ファンの影響力を最大化して売上に繋げるという意味で販促に近い仕事。

支援戦略は、顧客同士がサポートしあうことを支援するイメージですからサポート部とか啓蒙を行う部署の業務でしょう。

統合戦略に至っては、製品企画や経営企画の仕事です。

ソーシャルメディアの普及により顧客がメディア化し、企業と顧客の力関係が180度変わったのだから、企業と顧客のコミュニケーションの形や企業側の組織のあるべき姿もゼロから考え直さなければいけないというのがグランズウェルの一貫したメッセージです。もちろん、これらの顧客とのコミュニケーションを通じた企業にとってのメリットは、同じ顧客から生まれてくるため、一つの施策で二つ以上のメリットが得られることは良くあります。

例えば、「アンバサダープログラムとは何か?検討する際に必ず議論のループが起きてしまう訳」というコラムでご紹介したネスカフェアンバサダープログラムは、20万人を越えるアンバサダーから要望や感想のフィードバックが大量に戻ってくる仕組みが確立されています。メルマガやサンクスパーティーなど様々な形で、アンバサダーとのコミュニケーションを行い、ネスレの活動を知ってもらう努力をしています。

さらには、Webサイト上にゲーミフィケーション的な要素のある仕組みを構築して、アンバサダーの活性化を努力したり、専用のアプリを開発して顧客の珈琲を楽しむ時間の支援も試行錯誤されています。さらにはアンバサダーからアイデアを定常的に募集し、サービスや販促物などに積極的に反映されているのです。

個人的にも、なぜこれをネスレさんが実現できているのか、担当の方とお仕事をご一緒しながら日々学ばせていただいていますが、やはりネスカフェアンバサダーでは組織の縦割りの理論ではなく、顧客を中心に企業側が柔軟に動いているからこそ実現できていると感じます。逆に言うと、顧客からすると企業の部署がバラバラだろうが関係ないわけで、同じ顧客に対して別々の部署がバラバラにコミュニケーションを取るのはナンセンスとも言えます。

つまり、現時点で、組織構造が企業側の論理で縦割りになっている企業が、こうした顧客を中心にした活動に踏み込むには、当然のように様々なハードルが存在します。

課題を乗り越えるための組織とは

例えば、従来多くのメーカーでは、顧客とのコミュニケーションをしているのはお客様サポートセンターのようなコールセンターが中心のケースが多いはずです。ただ、例えば、顧客とのコミュニケーションに注力することで顧客の口コミが宣伝効果をもたらすことを期待して、アンバサダープログラムを始めようと思ったら、はたしてこのプログラムはどこの部署の仕事でしょうか?サポート部でしょうか?宣伝部でしょうか?

もちろんその正解は、サイロ型の組織名称には存在しません。

仮に、宣伝部の担当者がアンバサダープログラムを始めたとします。プログラムに参加しているアンバサダーは、通常の顧客でもありますから、当然アンバサダープログラム側の窓口に通常はサポート窓口にするような質問をしてくるかもしれません。1件2件であれば、宣伝部の担当者でも対応できるかもしれませんが、ネスカフェアンバサダーのように20万単位の人からの質問が来るようになったら、当然サポート部との連携は不可欠なはずです。

また、せっかくたくさんのアイデアやフィードバックを、アンバサダープログラムを通じて集められたとしても、その声が製品開発の担当者やサービスの担当者に届かなければ、その声が実際に反映されることはありえないことになります。当然、集まった声を該当部署に共有する仕組みも必要になるはずです。

こうした課題を乗り越えるためには、組織横断プロジェクトであったり、マトリックス型の組織であったり、様々な解決策がありますが、いずれにしても従来の縦割りの組織の意識のままでは難しいということを認識してもらうことが重要です。

くどいようですが、もう一度トリプルメディアの図を思いだして下さい。

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ペイドメディアだけで「広告」を行っていたマスマーケティング時代は、マーケティングは全て宣伝部がやっていれば良かったかもしれません。ただ、オウンドメディアもアーンドメディアも全てを組み合わせてマーケティングを考えることが可能なデジタルマーケティング時代においては、広報部とPRエージェンシーがマーケティングを主導することも可能ですし、経営企画部とコンサル会社がマーケティングを主導することも可能です。ザッポスのようにサポートとコールセンターがマーケティングを主導することも可能な時代になっているわけです。

ワールドマーケティングサミットでも、ドン・シュルツ教授が「デジタル化の変化に合わせて当然企業の組織構造も変えなければならない。そもそも、企業の従来の組織図には顧客の存在がない。だからこそ、縦割りの組織構造に陥ってしまう。これからは、顧客を組織の中心におかなければならない」と明言されていましたが、企業はこの変化に対応するかどうかが問われていると思います。

参考:広告大量投下だけでは勝てない時代に重要な3つのテーマを、ドン・シュルツ教授の講義から考える

アンバサダープログラムのような顧客を中心に据えたコミュニケーションの可能性を感じられるのであれば、ぜひ一度既存の縦割りの組織図の常識を自分の中で破壊して、顧客を中心にしたコミュニケーションやマーケティングのあるべき姿をゼロから考え直してみてください。

Author Profile

徳力 基彦
アジャイルメディア・ネットワーク株式会社  取締役 CMO ブロガー

NTTやIT系コンサルティングファーム等を経て、2006年にアジャイルメディア・ネットワーク設立時からブロガーの一人として運営に参画。「アンバサダーを重視するアプローチ」をキーワードに、ソーシャルメディアの企業活用についての啓蒙活動を担当。2009年2月に代表取締役社長に就任し、2014年3月より現職。書籍「アンバサダーマーケティング」においては解説を担当した。
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2016年8月17日


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