クチコミやオウンドメディアに、広告と全く同じ役割を期待するのはやめるべき

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※このコラムは、宣伝会議Advertimesに寄稿したものの転載です。

トリプルメディアで考えると分かりやすい

前回のコラムでは、アンバサダープログラムのようなクチコミを意識した施策を実施する際に、よく陥りやすい議論のループについて紹介しました。

従来の広告でKPIにされてきた「認知」を軸に考えると、広告はお金を払っただけほぼ確実にKPIを達成できるのに対し、ファンやアンバサダーのクチコミは予測が難しいため、事前の判断がしにくいというのがポイントです。

この点は、トリプルメディアで考えれば少し分かりやすくなるかもしれません。

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トリプルメディアとは、メディアをオウンドメディア、ペイドメディア、アーンドメディアの三つに分類して考える概念で、日本のWeb広告業界でよく使われています。

オウンドメディアとは自社で所有(Own)しているメディアのこと。最近、話題のキーワードですが、もともとこのトリプルメディアの定義をきっかけに日本で使われるようになりました。デジタルマーケティングの文脈では、企業が運用するメディアサイトのことを意味するケースが多いですが、個人的には企業のWebサイトに加えて、店舗の外観や看板、製品のパッケージやサービスそのものもオウンドメディアとして考えた方がよいと考えています。要は、自社でコントロールができるメディアというのがポイントです。

一方で、ペイドメディアは文字通りお金を支払って使う(Pay)メディアのことで、マスメディアやWebメディアの広告枠のことを言います。ある意味、テレビCMや新聞、雑誌に掲載する広告もオウンドメディアのように使えるものが増えていますから、ペイドメディアとオウンドメディアの境界線も薄くなりつつありますが、ペイドメディアはお金を払い続けないと表示がされないというのがポイントです。

アーンドメディアは評判を獲得する(Earn)というイメージで、いわゆるクチコミやPR露出のことになります。よくアーンドメディアをソーシャルメディアアカウントのことだと定義されている文献を見ることがありますが、個人的にはそれはあくまでオウンドメディアとして定義する方が良いと考えています。Webサイトも、メルマガも、Twitterアカウントも、Facebookページも、LINEアカウントも、企業自らがコントロールできるメディアという意味ではオウンドメディアと定義した方がシンプルだからです。ここでのアーンドメディアはあくまで企業以外の人たちの投稿と考えてください。自社でコントロールできないメディアというのがポイントです。

最近はFacebookやLINEなどのプラットフォームは、一つのプラットフォームで三つの役割を担うことも可能になってきているのが少しややこしいところです。

Facebookの公式アカウントはオウンドメディアの一つと言えます。一方で、Facebookは広告費を投下することで投稿の露出を増やしたり、ミニ広告を表示させたりすることが可能ですから、ペイドメディアという側面もあります。そして、実際にはFacebookのフィード広告はオウンドメディアの投稿を広告で露出するという意味で、オウンドメディアとペイドメディアの重なった位置にある広告と言えるかもしれません。

逆にLINEにおいては、公式アカウントが基本的に有料ですから、これもペイドメディアとオウンドメディアの重なった位置にある存在と言えるでしょう。

当然、FacebookユーザーやLINEユーザーがシェアしてくれれば、それはアーンドメディアになります。

ペイドメディアしか事前に認知量が分からない

三つのメディアのポイントを簡単にまとめると下記の図のようになります。

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特徴をざっくりまとめると、オウンドメディアは自社でコントロールできストックにもなるが、獲得できる認知量は不明。ペイドメディアは、コントロール可能な上、お金さえ払えば確実に認知を獲得できるが、ストック効果はあまり無い。アーンドメディアは、コントロール不能な上、獲得できる認知量も不明だが、発信者が企業以外の第三者でありストック効果もあるという存在です。

冒頭の話に戻ると、ここでポイントになるのが、コントロール可能で、獲得できる認知量が施策実施前に想定できるのがペイドメディアしかないという点です。

要は、単純に大量の認知獲得をしたいのであれば、そもそも、そのための手段として最適化されたメニューである「広告枠」が一番無難な投資なのであり、それと同等の役割をオウンドメディアやアーンドメディアに期待すると、当然リスクが大きいように見えるという話になります。

クチコミマーケティングバブルにしても、ソーシャルメディアバブルにしても、本来広告枠とは異なる存在であるはずのアーンドメディアに、ペイドメディアの代わりとしての「安い認知獲得」の役割を期待したために、「提案されるままにやってみたけど上手くいかなかった」という失敗事例が山ほどできることになりました。

最近注目されているコンテンツマーケティングにしても、最初の目的やオウンドメディアの役割を間違って定義してしまうと、同じ結果を生むことになりますから注意してください。

もちろん、以前ご紹介したNECのWisdomやプロアクティブのニキペディアのように、オウンドメディアで獲得できる認知量や売上貢献量がペイドメディアの効率を超えることはあります。

・参考:メディアのバナー広告を買うのと、自分たちでメディアを作るのはどちらが安いか?(上・B2B編)

・参考:メディアのバナー広告を買うのと、自分達でメディアを作るのはどちらが安いか?(下・B2C編)

ただ、これらの事例はあくまで、長年の試行錯誤によるストック効果が出たことで達成できている「結果」であるという点に注意が必要です。

「広告」と全く同じ短期の認知獲得効果を、広告とは別の存在であるはずのクチコミやオウンドメディアにそのまま期待するのは、明らかに間違い。その前提を抑えた上で、次回はアンバサダープログラム的なユーザーコミュニケーション活動の可能性について考えてみたいと思います。

Author Profile

徳力 基彦
アジャイルメディア・ネットワーク株式会社  取締役 CMO ブロガー

NTTやIT系コンサルティングファーム等を経て、2006年にアジャイルメディア・ネットワーク設立時からブロガーの一人として運営に参画。「アンバサダーを重視するアプローチ」をキーワードに、ソーシャルメディアの企業活用についての啓蒙活動を担当。2009年2月に代表取締役社長に就任し、2014年3月より現職。書籍「アンバサダーマーケティング」においては解説を担当した。
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2016年8月16日


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