アンバサダープログラムとは何か?検討する際に必ず議論のループが起きてしまう訳

Pocket

advertimes_tokuriki_ogp
※このコラムは、宣伝会議Advertimesに寄稿したものの転載です。

アンバサダーを軸にクチコミや評判が広まる仕組み

前回のコラムまでは、日本企業のデジタルマーケティング人材の構造や、日本企業の組織構造など、デジタルマーケティングを取り巻く日本企業の構造的な課題について紹介させてもらいました。

そろそろ各所からこのコラムのタイトルになっているアンバサダーの話はいつ書くんだという突っ込みをもらいましたので、今回からは少し視点を下げてデジタルマーケティング全体の話ではなく、「アンバサダープログラム」を軸に書いてみたいと思います。

今回ご紹介するのはタイトルに書いたとおり、「アンバサダープログラム」を検討する際に必ずと言っていいほど発生する「議論のループ」です。そこで、まずこの「アンバサダープログラム」という言葉を定義しておきましょう。

言葉としては、ようはアンバサダーのプログラムのことでしかないので、人によって定義は異なると思いますが、このコラムにおいては「ファンやアンバサダーを軸にクチコミや評判が広まる仕組みを構築するプログラム」としたいと思います。

アンバサダーという言葉は、元々「大使」を意味する言葉です。広告業界では「ブランドアンバサダー」という表現で、有名人にブランドの代表的な顔として就任してもらうものが主流でした。象徴的なのは、東京オリンピック招致アンバサダーを務めた滝川クリステル氏でしょう。

そういった有名人を中心とした「ブランドアンバサダー」施策に対し、いわゆる「アンバサダープログラム」はどちらかというと一般の方々をアンバサダーとして組織化するようなプログラムを言います。象徴的なものが、テレビCMでもお馴染みのネスカフェアンバサダープログラムでしょう。

筆者の所属するアジャイルメディア・ネットワークでは、ネスカフェアンバサダーのデジタル施策を支援しています。

筆者の所属するアジャイルメディア・ネットワークでは、ネスカフェアンバサダーのデジタル施策を支援しています。

既に20万人を超える会員がいますし、「アンバサダー」をコーヒーのことだと思っていたという笑い話を聞くぐらい、非常に有名なプログラムです。こういった「アンバサダープログラム」の従来のマスマーケティング施策との大きな違いの一つに、既存顧客重視か、新規顧客重視か、という点があげられると考えています。

at03080004
従来のマスマーケティングでは、自社の製品やサービスを知らないターゲット層に知ってもらうために、テレビCMや新聞広告などを通じてメッセージを送り、知ってもらうという活動が中心になることが多かったと思います。そのためマーケティング施策は新規顧客重視で、大量の認知を獲得することが目的になりがちでした。

一方で、アンバサダープログラムにおいては、既存顧客であるアンバサダーとのコミュニケーションを最も重視します。もちろん、既存顧客やファンが大事、というのは総論ではどこの企業も否定しないと思いますが、従来はどうしても既存顧客は「釣った魚」扱いされて放置されがちで、マーケティング上は新規顧客に振り返ってもらうことが重視されることが多かったと思います。

ただ、ソーシャルメディアの普及によりユーザーがメディア化したことが、この流れに一つの変化を生んでいます。「釣った魚」である既存顧客やファンが、アンバサダーとして周辺の友人に影響を与えてくれたり、推奨や説明をしてくれたりする可能性が高まっているわけです。

簡単にまとめると、従来のマスマーケティングは、新規顧客を中心に大量の認知を獲得することで、その中から新たな顧客が生まれることを目指すというファネル型の構造で考えるのが基本でした。それに対して、アンバサダープログラムでは、既存顧客やファンを重視、特にその中でもシェアや推奨をしてくれるアンバサダー的な人たちを大切にして、そういう人をどうやって増やし、活性化していくかというピラミッド的な構造で考えるのが基本になると考えています。

そういう意味で、個人的には、実は「アンバサダープログラム」というのは何も特殊な取り組みではないと考えています。名称がアンバサダープログラムか、ファンプログラムかサポータープログラムかというのは正直あまり関係ありません。

重要なのは、大量のリーチの獲得ではなく、一人一人の「ファンやアンバサダーを軸にクチコミや評判が広まる仕組み」を意識することです。ただ、ここでよく問題になるのが「アンバサダープログラム」を新たな認知獲得のための手法と捉えた場合のアンバサダープログラムの目的設定と宣伝広告費のジレンマです。

アンバサダープログラム導入時の「議論のループ」

マスマーケティングにおいては、短期的なKPIを「認知」とした場合、認知の「量」自体は、ある程度広告枠に投資するお金と連動して達成することを予測できます。100万円分のお金を払えば100万円分の認知を少なくとも、ある程度確実に買うことができるわけです。

一方でアンバサダープログラム的なアプローチにおいては、投資金額は必ずしも認知や売上に連動しません。

ファンやアンバサダーとのコミュニケーションに手間やお金を投資しても、必ずしもクチコミやシェアにつながるわけではありません。もちろん、逆に想定以上の話題になることもありえるわけですが、少なくとも投資金額に基づいた認知の獲得予測ができないわけで、アンバサダープログラム実施前に必ず物議を醸すことになります。

つまり通常の広告の場合であれば

■広告を軸にしたプランを立てる

■認知獲得予測を広告枠のリーチ量をもとに立てる

■投資金額と認知獲得予測量をもとに投資対効果を推測できる

■決裁者も決裁がしやすい

となるところアンバサダープログラム的なアプローチでは、

■アンバサダープログラムを軸にしたプランを立てる
 ↓
■認知獲得予測が立てられない
 ↓
■投資金額に対する投資対効果を推測しにくい
 ↓
■決裁者も決裁しにくい(振り出しに戻る)

という議論のループに陥りやすいわけです。ここで、誤解を恐れずに結論だけ言ってしまうと、単純な認知獲得のためにアンバサダープログラムを導入しようとする時点でそもそも間違っているということです。

ツイッターアカウントやFacebookページなどのソーシャルメディアアカウントがブームになった時にも同じ議論のループがありましたが、そもそも大量の新規顧客の認知を獲得することだけが目的なのであれば広告が最適な手段です。

その広告と同じ役割を、無料のツイッターアカウントやFacebookページに期待するのは間違っていますし、アンバサダープログラムも同様と言えます。

参考:やっぱり「広告脳」と「PR脳」は構造が違うので、別部署にする方が現実的?

広告脳とPR脳の混乱については以前もコラムに書きましたが、次回は、もう少しこの点について深掘りしてみたいと思います。

Author Profile

徳力 基彦
アジャイルメディア・ネットワーク株式会社  取締役 CMO ブロガー

NTTやIT系コンサルティングファーム等を経て、2006年にアジャイルメディア・ネットワーク設立時からブロガーの一人として運営に参画。「アンバサダーを重視するアプローチ」をキーワードに、ソーシャルメディアの企業活用についての啓蒙活動を担当。2009年2月に代表取締役社長に就任し、2014年3月より現職。書籍「アンバサダーマーケティング」においては解説を担当した。
Pocket

2016年8月15日


Previous Post

Next Post