2016年の「広告効果測定」は、一つの施策ごとではなく全体で見てみませんか?

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広告に触れる順番で「効果」が倍以上に変わる
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前回の昨年最後のコラムでは、ワールドマーケティングサミットの議論を元に、日本の広告主と広告代理店が置かれている状況は典型的なイノベーションのジレンマの構造になっているのではないかという話をご紹介しました。

2016年最初のコラムでは、そのイノベーションのジレンマにはまらないために、どういう手段をとりうるのかという点を考えてみたいと思います。個人的にここでカギとなってくると考えているのが、いわゆる「効果測定」のやり方です。

昨年12月に私がモデレーターをさせていただいたad:tech tokyoのパネルディスカッションに、そのヒントとなる議論があったので、ここで紹介したいと思います。

このセッションのテーマは「テレビ大国日本で、長期的なデジタルとマスの効果測定を考える」というもの。個人的にも、日本でのデジタル活用における最大の課題は効果測定であると考えているため、フラットにその問題を議論するために、マスとデジタルの両方を理解している4名のパネリストの方々に登壇して頂きました。

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まず、電通の西田さんから共有されたのが、施策の順番による違いの話。最近ではシングルソースパネルや統合アトリビューションの活用により、テレビCMとデジタルのバナーにそれぞれどれぐらい予算を投下するのが最適かという分析をする企業は増えてきていますが、それをさらに進めると、実は視聴者が情報に触れる順番によって成果が大きく異なるケースがあることが分かってきたそうです。

at01140038例えば、テレビ→デジタルの順番で広告に触れた人の方が、デジタル→テレビの順番で広告に触れた人よりも6.8倍も購買につながるケースがあったり、クチコミに触れてから企業のオウンドメディアに触れた人の方が、企業のオウンドメディアに触れてからクチコミに触れた人よりも1.6倍購買につながるケースがあったりするそうです。

まだまだ日本の多くの企業では、マスとデジタルの担当者は別々に施策をプランニングしているケースも多いと思いますが、実はそれでは成果を大きく損している可能性があるという問題提起と言えます。

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実際に、デジタル施策によってテレビ側の視聴率に好影響がでているケースもあるというのが日本テレビの加藤さんによって共有された事実です。

日本テレビではこれまでは映画毎にバラバラの存在と見られがちだった金曜ロードショーという番組を映画との出会いの場と定義し、映画好きのためのサロンとして金曜ロードシネマクラブを作ることで40万人の映画好きと一緒に映画文化を拡げる取り組みを模索されています。

当然テレビの世界は数百万人から数千万人の世界を対象としていますから、40万人を少ないと見る人もいるかもしれませんが、このデータを分析できることで日本テレビにはこれまでの視聴率だけではない様々なデータを元に視聴行為を分析できるようになっています。

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こうした取り組みは今後一社スポンサードのテレビ番組やテレビCMの世界にも徐々に可能になっていくでしょう。そうなることで、よりマス施策とデジタル施策の相関関係や、相性のような物が深く分析できるようになってくると考えられます。

広告主はどう効果測定に取り組むべきか

そうなってくると問われるのが、はたして広告主はどのように効果測定をしていくべきなのかという点です。一つ忘れてはいけないのは、やはり広告主である企業側が目指しているのは細かい効果測定の数値を達成することではなく、最終的なビジネス成果をあげることだという点でしょう。

そういう意味でまず一つの王道と考えられるのが、日産自動車のいわゆるマス側の担当者である工藤さんが紹介されていたアプローチでしょう。

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日産自動車では、テレビCMなどのコミュニケーション活動を通じて、自社に対する潜在顧客のイメージがどのように推移しているかを四半期毎の調査で補足しているそうです。

こちらのグラフにあるように、日産自動車は「電気自動車と言えば」という質問に対して選ばれる自動車メーカーとして安定してトップを守っていることが分かりますし、日産自動車の直近のコミュニケーション施策により「自動運転と言えば」という質問に対する回答として日産自動車を選ぶ人が劇的に増えていることが分かります。

at01140042こうしたキーワードのトラッキングは中長期でやるからこそ見えてくるものであり、バナーのクリックスルーレートやコンバージョン数などの細かい指標だけを追いかけていると忘れがちなものであると言えます。

当然、日産自動車としては、テレビCMによって販売店に来店を増やし、売上アップに貢献することも重要だそうですが、自動車は思いついた瞬間に買うという商品ではありませんから、長い目で見た認知向上も重要となります。これはやはり大量の視聴者にテレビCMという形で企業側のメッセージを届けることができるマス側の担当者だからこそできるアプローチだと言うこともできるかもしれません。

一方で、テレビCMが非常に強い日本におけるデジタル担当者のアプローチとして参考になるのが、日本コカ・コーラのデジタル側の担当者である豊浦さんが紹介されていたアプローチです。

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日本コカ・コーラが扱うような飲料は、テレビCMのようなマス広告の影響が非常に大きい商材です。そのため通常のアンケートを活用した効果測定を行うと、デジタル施策はマス広告の成果の中に埋もれがちで、効果が見えにくいという結果になりがちです。

そこで、豊浦さんが挑戦されたのが、あえてテレビCMが大々的に展開される新商品発売よりも前に、新商品の味をクイズにしたキャンペーンや事前サンプリング募集などのデジタル施策を組み合わせることで、事前の盛り上がりを最大化する取り組みでした。

at01140044飲料のような商材において、新商品発売前に大々的にマス広告を展開することはコスト的にも機会損失が大きいためなかなか実施できませんが、デジタルであれば比較的柔軟に挑戦が可能です。これにより実際に「い・ろ・は・す もも」はこれまでの他のフレーバーに比べても好調なスタートダッシュを切ることができたそうです。

さらにコカ・コーラでは、Awareness Impact Modelというモデルによって、広告効果のメディア投資効果の算出を行っており、テレビCMに次いで、「ソーシャルボイス」つまりソーシャルメディア上の話題が想起率の向上に貢献し始めていることを確認できつつあるそうです。

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魔法のように課題を解決する効果測定はない

いずれの事例や取り組みにおいても言えるのは、効果測定を自分の担当の範囲だけでなく俯瞰的に実施されている点。そして、それぞれの担当者の方々がいわゆる「効果測定」の議論で求められがちな一つの効果指標だけを意識してプランニングをされているのではなく、それぞれの立場からビジネス成果に貢献するために何をすればよいかと言うことを複数の指標を組み合わせて仮説を立て、新しい施策に挑戦し、そこから学んだことを元にまた挑戦を繰り返すという姿勢を持っているという点だと感じます。

デジタル施策における効果測定をどのようにすれば良いのかという議論は、ソーシャルメディアの黎明期から延々と繰り返されている出口のない議論ですが、実は一つの魔法のような効果測定指標というものはそもそもマーケティングにおいてはありえないということをまず結論とするべきではないかと感じています。

リーチを指標にするにしてもそのリーチの質が問われるはずですし、売上やコンバージョンを指標にするにしても、そのコンバージョンした人が満足しているかどうかが問われるはずで、本来はマーケティングの効果測定というのは一つのシンプルな指標だけで済むものではないはずです。

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実際、ワールドマーケティングサミットのドン・シュルツ教授のセッションでも、広告の効果測定を過去の実績を元にキャンペーンベースで測定していてはダメだという明確な問題提起がされました。シュルツ教授が強調されていたのは、顧客はキャンペーンの時だけ、その製品やサービスについて考えているのではないのだから、年間を通じてプランの投資対効果を考えなければならないという趣旨の問題提起です。

そこで顧客の企業にとっての財務的価値を求め、それを元にマーケティング投資の効果測定をIRRを元に予測すべきと言うファイナンシャルプランニングモデルの必要性を強調されていました。

参考記事:広告大量投下だけでは勝てない時代に重要な3つのテーマを、ドン・シュルツ教授の講義から考える

もちろん、この議論はCMOが売上にコミットしているアメリカならではの議論であるとも言えます。日本においては製品開発部や宣伝部など組織が縦割りになっていることも多いですし、役割やKPIも分かれていることが多々あります。

また、当然マスやデジタルそれぞれの現場担当者からすると、総論としては売上のコミットという議論はあっても、当然自分が担当している部分の活動がどれぐらい売上に貢献しているのか手応えを得るためにも、シュルツ教授が行っているよりももっと細分化した効果測定というのは必須でしょう。

ただ、だからといってマスやデジタルの担当者が、自分の担当範囲で測定可能な狭い効果測定指標だけを見て活動をしていると、実はマーケティングコミュニケーション活動全体では効率が非常に悪くなっていたり、ネガティブな結果を招いていたりというのが実は良くある話です。

前回のコラムで書いたように、リーチだけを重視すれば当然従来通りのマス施策の継続が論理的に正しい選択肢になり、そのことがイノベーションのジレンマにはまるリスクを増すことになります。そういう意味で、是非、皆さんに今年チャレンジして頂きたいのは、効果測定の仕方を見直してみることです。

当然、効果測定の方法は業種や施策によって様々だとは思います。ただ、少なくとも一つの施策毎で分割して管理しすぎるのでは無く、部署横断で俯瞰的な視点から見ることに挑戦してみて頂ければ、新しく今年チャレンジすべきテーマが見えてくるのではないかと思います。

※このコラムは、宣伝会議Advertimesに寄稿したものの転載です。

Author Profile

徳力 基彦
アジャイルメディア・ネットワーク株式会社  取締役 CMO ブロガー

NTTやIT系コンサルティングファーム等を経て、2006年にアジャイルメディア・ネットワーク設立時からブロガーの一人として運営に参画。「アンバサダーを重視するアプローチ」をキーワードに、ソーシャルメディアの企業活用についての啓蒙活動を担当。2009年2月に代表取締役社長に就任し、2014年3月より現職。書籍「アンバサダーマーケティング」においては解説を担当した。
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2016年8月12日


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