ユーザー目線で考えよう、ここが変だよ「ネット広告業界」

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ペイパーポスト、覚えていますか?

ネット広告業界には、ユーザー視点で考えれば当然に思えることが、見えなくなってしまう人が意外に多い気がするのは何故なんだろう。そんなことを感じるようになったのは、私がアジャイルメディア・ネットワークの立ち上げを手伝うようになる前のこと。2006年の頃の話です。

特に当時、問題意識を持っていたのが「ペイパーポスト」と呼ばれるブログの広告手法。ペイパークリックがクリック単位でお金を支払うのに対し、ポスト(記事)単位でお金を支払うことからペイパーポストと総称されていたものです。

要は、ブログを持っている人に100~300円で記事を書かせることができる、というサービスで、100万円ぐらい予算があると簡単に数千記事ブログを書いてもらうことができるという分かりやすさから大流行し、数十のさまざまな事業者が乱立しました。

何しろ2007年にはあのヤフーまで、「ヤフーBR+」という名前のサービスで参入してますからね。ペイパーポスト市場の盛り上がりぶりが分かるというものでしょう。まぁ、ちょっと前のバイラルメディアブームに似ているかもしれません。で、当時このペイパーポストが、「クチコミマーケティング」の代表サービスのように言われていたりしたわけです。

でも、これっておかしくないですか?
100円もらって記事書いてるのに、それって「クチコミ」じゃないですよね?クチコミって、お金もらったから義務でするものじゃ無くって、もっと自然な形で発生するものですよね?

実際、当時のペイパーポストは基本的に誰でも1記事書けばお金がもらえるケースが多く、酷いケースでは一人で家族の人数分ブログを開設し、同じ記事を5個投稿しても、1回で5記事分お金がもらえると自慢している人がいたぐらい。

まぁ、結局企業側から送付されるプレスリリースの焼き直しみたいな中身の無い記事が大量にネット上に投下される結果になっていたわけで、お金をもらってるかどうか以前のレベルでクチコミとは呼べない記事が多かったりもしたようです。

おまけに、当時のペイパーポストのさらに問題だったのは、ブログの記事にお金をもらっていることが一切明示されていないケースが多かったこと。読者からするとその記事が広告として書かれていることは一切分からず、要は明らかに「やらせ」や「ステマ」になっていたわけです。

こういったステマペイパーポスト手法については、2012年頭の食べログステマ騒動に端を発し、2012年末のペニーオークション詐欺事件など、さまざまな騒動を通じて広告業界でも問題の深刻さが共有され、最近では流石に広告の表舞台からは姿を消したようです。ただ、2006年当時はこの問題意識を分かってくれない人に遭遇することが多く、理解に苦しんだ記憶があります。

あるイベントである企業のネット広告担当の人と名刺交換をした際に、私がブログを書いてることを話したら、「ブロガーって数百円払ったらヨイショ記事書いてくれるんですよね」と面と向かって言われたこともありました。

そんなわけないですよね?

普通、友達に一人100円払ってやるから、うちの製品の宣伝を他の人にしてくれよ、とかってマーケティングは誰もやらないですよね?でも、当時ブログって言うサービスはそういう広告枠なんだ、と思ってしまった人にはそういうサービスにしか見えなくなってしまっていたケースがあったりするわけです。

実際、NTT時代の同期に久しぶりに会ってブログを書いてることを話したら、「ブログってあのやらせ記事ばっかり書かれてるサイトのことだろ?」と批判されたこともありました。彼は何かの製品について検索したら、似たようなプレスリリースのコピペみたいな製品の礼賛ブログ記事が大量に出てきて、うんざりした経験があったそうです。

まぁ、そりゃそうですよね。

製品について検索してみて、同じような心のこもってない見るからにやらせのブログ記事が大量に出てきたら、普通どんな人だってドン引くわけです。良い「クチコミ」を広めたくてペイパーポストサービスを使った企業からすると、逆にその製品の悪い評判を立てる結果になってしまっていたわけです。

でも、これってペイパーポストサービスを使った後に、自分で製品の検索をしてみれば分かりそうなもんじゃないですか?

ファン目線で考えれば、簡単な話

何でこんな当たり前のことがネット広告のプロであるはずのネット広告業界の人が分からないんだろう?それからしばらく、このテーマは私の中で大きな謎でした。

で、自分で辿り着いた結論は、そういう手法に手を染めてしまう人は、「アクセス解析の数値しか見ていない」、ということです。100万円投下した結果、何人がサイトに来て、何人が買ってくれるのか。

バナー広告経由だろうが、ブログの記事経由だろうが、検索広告経由だろうが。アクセス解析の数値があまりに分かりやすく、目立ってしまうので、数値しかみなくなりがちなわけです。

もちろん、本当のアクセス解析のプロであれば、アクセス解析の数値の向こうにいるお客さんの顔を思い浮かべながら、エクセルに出てこない数値の分析まで深掘りされていると思いますが、表面的なエクセルのコンバージョンの数値しか見ていないケースが、実はまだまだ多いようです。

実際それだけしかみてないのであれば、大袈裟に書かれたブログ記事経由で勘違いして商品を買って、二度とその商品を買わないと心に決めるどころか、その経験をブログで周りに広める人がいるのに気がつかないのも当然ですし、自分達のファンが自分が好きなブランドがやらせ記事に手を染めているのをみて、どんなにガッカリしているのか、分からないのも当然ですよね。

ファン目線で考えたら、そんな手法使っても短期的には成果が出ても、長期的にはデメリットの方が大きいとわかるはず。ただ、ステマペイパーポスト問題が無くなるまでは、2006年から、ステマ騒動の2012年まで実に5年以上もかかっているわけです。

あれからもう10年近くが過ぎようとしていますが、ネット広告業界には毎年のように新しい広告手法やテクノロジーが入ってくるため、同じような混乱や勘違いがたびたび発生しているのをまだまだ良く目にします。でも、ネット広告だからと思うから間違うだけであって、ユーザー目線、ファン目線で考えれば、実は簡単な話なんですよね。

ステマペイパーポストみたいな手法は、自分がお客様の立場になって考えてみたら、普通の人が選択するわけないんです。でも、新しい技術だから、ネットの世界だから、と思い込んでしまうから騙されてしまう。

そこで、このコラムでは、そんなネット広告業界やデジタルマーケティング業界で誤解されている事例や手法を、企業にとって一番の応援団であるアンバサダーの視点から見直してみるやり方をご紹介していきたいと思います。

※このコラムは、宣伝会議Advertimesに寄稿したものの転載です。

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2016年7月28日


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