【ソーシャルメディア活用(21)東急ハンズ】「ゆるいコミュニケーションが成功という風潮には危機感を覚えています」(後編)

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前回に続き、東急ハンズ ITコマース部 EC企画課の緒方恵さんにお聞きしたツイッター運用の秘訣や今後のビジョンなどのお話を紹介します。

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(東急ハンズ 緒方さん)

顧客とのコミュニケーションならフェイスブックよりツイッター

――ツイッターに続いてフェイスブックの運用も開始されました。

緒方 企業アカウントが開設できない時期から個人的に使っていて、ツイッターも楽しかったけれどフェイスブックも楽しいと感じていたので、企業アカウントの開設が認められたタイミングで運用を開始しました。

当初はツイッターと同じ感覚で運用していたのですが、フェイスブックはそのシステム上ホストとゲストという仕組みになっているのでツイッターのような「接客」要素は薄いです。

ツイッターでの情報拡散のひとつ、非公式リツイートなどは発信した企業も巻き込まれていくのですが、フェイスブックではシェアされても企業が置き去りになってコミュニケーションに入れません。つまり、拡散された先で盛り上がりをホストが促進できない。

また、コメントの質問に返信しようとしても、他のコメントが入ってしまったりして続けにくい。仮にこちらが返信したとしても、またコメントが返ってくるというのが仕組み的にも難しい。そういう意味では「キチンとQ&Aを1回で解決する」という意識はツイッターよりも重要かもしれません。基本的にフェイスブックは直接コミュニケーションするというよりも、みなさまの、友達同士でのコミュニケーションの材料、ネタとなるような情報を発信するためのものとなるよう心がけています。

――ツイッターのほうが東急ハンズには相性がいい、といことでしょうか。

緒方 東急ハンズがソーシャルメディアを活用していくとして本質を捉えやすいのは抜群にツイッターだと感じてます。

例えばフェイスブックは実名主義ですが、匿名だから言える話というのもありますし、それがそのまま先ほど申し上げた「小さい来店喚起のすくい上げ」にもつながります。

ツイッターでの小さい声の可視化については基本的にはポジティブな声の方が圧倒的に多いですが、例えば店員の接客がよくなかったとか、お店の陳列が間違っていたとか、そうしたことはよっぽどでない限りはお客さまからわざわざ電話やメールで伝える話ではありませんし、コメント式、実名制のフェイスブックで企業に向かって話すことでもない。

けれどツイッターならそうしたお客さまの小さな声が入ってきて、それに応えていくことで来店喚起を大きくできる。

大きな訴求はもちろんマスメディアが向いてますし、ソーシャルメディアですべてを担えるわけではありませんが、信頼関係を積み上げながら訴求も行うことができるものとして、お客さまのさまざまな小さな声が入ってくるツイッターが東急ハンズには向いていると思っています。したことはありませんが、1日に1000商品紹介とかも、できますし。

フェイスブックはツイッターに比べると「東急ハンズ新聞」を作るようなイメージですね。1日に何回も届くものではないという意味でも。

同じソーシャルメディアの中でもよりコミュニケーション・接客要素が強いのがツイッター、ソーシャルでのメディア担当がフェイスブックやmixiページという両輪で構成されている、という位置づけです。

お詫びの文章はコピペしない

――運用されていて困ったことはありますか。

緒方 お客さまからお叱りを受けるということはもちろんあるのですが、それは店舗でも同じことです。お客さまのお叱りというのは日々店頭でもいただくことですのでソーシャルだから特別に扱うということもはなく、店舗の接客と同じ対応をすれば、ソーシャルだから特別に起きる問題というのもありません。店頭でもソーシャルでも、同じように真摯に対応させていただくということに尽きます。

1つ気をつけているのは「お詫びの文章はコピペしない」ということです。

ソーシャルメディアでのコミュニケーションの行間は、想像するよりも遙かに、雄弁です。コピペや定型文は、すぐバレますし、無意味です。例えば何かお叱りをいただいた時にただ「申し訳ございません」「担当部署に伝えます」と答えても、お客さまが本当に伝えたかったことをこちらが理解した、ということが相手に伝わらなければ意味がありません。

店員の態度が悪かったのか、商品に問題があったのか、そういう本音の文脈をきちんとお聞きし、抽出した上でお応えすることが大事です。

ツイッターは140文字しか投稿できないのでお客さまの本音がますます割愛されやすいのでより注意が必要ですね。こちらが伝えたいことを伝えるのではなく、あくまで、相手が言いたい本音を導き出すように聞くという姿勢が大事です。もちろん、必要に応じて、ですが。

――実際の運用はどのように行われていますか。

緒方 東急ハンズのツイッターアカウントは「モノ」「コト」「ヒト」という3要素でそれぞれ「@HandsNet」「@HintMarket」「@TokyuHands」の3アカウントを分けて運用していて、それぞれのアカウントを1人ずつ通常業務と兼任しています。

ただ、「コト」アカウントの「@HintMarket」については広報が運用しているのですが、広報は業務の性質上全員で訓練して慣れておこう、ということで、管理職を入れて5人のチームで運用しています。

Webとリアルの緊密な連携が鍵

――今後取り組んでみたい施策はありますか。

緒方 Web事業に関して言えば、いかにリアルと連携していくかが1つの鍵ですね。最近は「O2O」という言葉も登場し、あちこちで目にしますが、もともとリアル店舗を持っている企業からすると、Webの活動とリアル店舗をつなぎあわせていくためにすることを考えるというのは当然のことですし、それを助けるTechがあれば「お客さまの役に立つ」という本質を見極めながら組み込んでいくだけです。リアルでできることをWebで、Webでできることをリアルで行えるようにするということです。弊社で言えば、最近ネットストア上でリアル店舗の在庫状況が確認できる仕組みをリリースしたりしましたが、それも、その一環です。

今はソーシャルという、Webの活動を拡散する仕組みがたまたまあるので、それを活用してどれだけリアルとWebを緊密につなぎあわせられるか。店頭で誰が見ても面白い施策は、今までであればそこで完結していたのですが、これからはそこにWebコミュニケーションのエッセンスを取り込んでいくことが重要だと考えています。

――ソーシャルメディアの効果測定はどのようにお考えですか。

緒方 企業アカウントである以上売り上げにつなげたいという意識はありますので、ソーシャルで紹介した商品の全店での売上推移や売上数はもちろん、ECサイトへのアクセス数やCV率やその他もろもろ測定していますが、「いいね!」やフォロワー数といったソーシャル独自の数値はあまり考えないようにしています。というのもその指標がどんな意味を持つのか、社内で説明しないといけないんですね。それではあまり意味がないなと。社内の人間もわかる、もともとある指標としての、アクセス数やコンバージョンというもので考える、判断するということを大事にしています。

とはいえ、くどいようですが、一番重要なのは数字では測定がしにくい部分=お客さまとの信頼関係です。おかげさまで東急ハンズのアカウントはお客さまから仲間という意識を持ってもらえていると感じておりますし、私どもも、そう感じております。

こういったことは実際の接客ではもちろん多々あるのですが、今までのマーケティングやツールではあまりしっかりと実感できるものではありませんでした。

お客さまから信頼と思い入れを持ってもらえれば、何か買い物をする時に東急ハンズを第一に想起してもらえる確率も高まりますし、同じ商品を買うなら信頼しているお店で、と選んでもらえる。親近感を伸ばした先にある信頼感、それが積み重なった結果としてついてくるものが売り上げだと考えています。

――インタビュー雑感
お客さまの顔をきちんと見ることを企業理念として持ち、ソーシャルメディアでのコミュニケーションを「接客」として実践している東急ハンズさん。日々のコミュニケーションを大切にすることが、お客さまの親近感や信頼醸成につながるということをあらためて認識させていただきました。(アジャイルメディア・ネットワーク)

インタビュー担当 AMN 甲斐祐樹

※連載「ソーシャルメディア活用 先進企業に聞く」は今回で終了です。ご愛読ありがとうございました。

※このコラムは、宣伝会議Advertimesに寄稿したものの転載です。

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2013年1月21日


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