【ソーシャルメディア活用(20)本田技研工業】「運用を始めたら、海外から多くの問い合わせが寄せられました」

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今回は本田技研工業 広報部の石井浩樹さんと染谷糸子さんに、ホンダの取り組むソーシャルメディアについて伺いました。

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Webサイト運用機能を宣伝から広報に戻す

――ソーシャルメディアに取り組み始めたきっかけを教えて下さい。

石井 これまで広報部の業務は、お客さまに直接情報を届けるのではなく、マスメディアへ情報を提供することで記事や番組として露出する、というのが一般的な流れでした。しかし、ここ最近では新聞や雑誌の販売部数が落ちはじめていて、テレビもCMが飛ばされたり、そもそもテレビを見る人が減っているなど、媒体としての接触時間が減少しています。

その一方でインターネットやソーシャルメディアの利用者は確実に伸びており、右肩上がりで接触時間も増えています。また、知人から聞いた口コミはマスメディアの情報よりも信頼されやすい、という傾向もあり、ソーシャルメディアを活用することで今までの情報伝達ルートに加えて、新たなルートとしてお客さまに情報をお届けできるのではないかと考えました。

自社で情報発信することで、より正確でスピーディーな情報伝達が実現できますし、直接お客さまと良好なコミュニケーションを築くことができます。また、新聞や雑誌などでホンダが取り上げられた際に、それを読んだお客さまがどういう反応をしたのかを可視化するツールとしての効果も期待できます。

ソーシャルメディアはコンビニエンスストアや消費財のメーカーなどさまざまな企業が活用していますが、我々の製品は毎日買うようなものではなく、1つの製品が売れるのに10年くらいのスパンがある耐久消費財です。その10年の間ずっとお客さまとの絆をつないでおいてまたホンダの車を買ってもらいたいですし、他社の車を使われているお客さまも含めて、買い換え時期が来たときにホンダを思い出してもらいたい。そのためにもソーシャルメディアでお客さまとつながっていることは重要だと考えました。

――運用は広報部で行われているのですね。

石井 もともとホンダのWebサイトも広報が情報発信に立ち上げたものでした。その後は時代の流れに合わせて営業視点が強くなり、運用は四輪車の宣伝部門で担当していたのですが、2012年4月からはソーシャルメディアを含めてWebサイト運用も広報が担当することになりました。

というのも、営業部門で運用する場合、どうしても「売る」ことを強く意識してしまうからです。ソーシャルメディア上で販促キャンペーンの話など、あまり宣伝や販売情報ばかりが発信されると、受け手であるお客さまには好まれない場合もあります。また、販売という面での主力は4輪車ですが、ホンダでは4輪車だけでなく2輪車もありますし、汎用と呼んでいるエンジンだったり、芝刈り機と幅広い製品があります。こうした情報をニュートラルに発信していくには広報部が担当すべきという結論になりました。

――ソーシャルメディアを始める際の社内の反応はいかがでしたか。

石井 同じ自動車業界ではすでに日産さんがツイッターなどを使われて大変に盛り上がっていたので、それを見て「何かやらなければ」という話はありました。もちろん、「炎上したらどうするのか」「クレームが来たらどうするのか」という心配の声も当然ありましたが、怖がっていても仕方ない、何かあっても誠意を持って対応すれば大丈夫だと社内を説得しました。

一方、そうしたお客さまからの問い合わせがあることも想定し、事前にお客さまセンターや法務部などとも連携を取り、「これからソーシャルメディアを始めるので、お客さまから問い合わせがあるかもしれない。その場合は、専門家であるそれぞれの部門に協力をお願いしたい」という調整も行っていました。

ソーシャルメディアの「傾聴」が製品開発に実を結ぶ

――公式アカウントをリリースされたのが東日本大震災の当日でしたが、その反響はいかがでしたか。

石井 当日は「アカウントを開設しました」という投稿に続けて、外部のライターさんにお願いしていた原稿をもとに製品情報などを投稿していく準備をしていたのですが、とてもそんな状況ではなくなり、震災関連の発信に移っていきました。そんな中、インターナビ推進室から、被災地のみなさんに役立つ情報として、弊社の製品である「インターナビ」の情報を一般公開したいという相談があり、ソーシャルメディアで発信することにしました。

インターナビには、お客さまの車がどの道を通ったのかという情報をサーバーで収集し、どの道がすいていてどの道が渋滞しているのかという情報をナビゲーションへ戻すシステムがあり、震災の際は車が通れなくなった道なども多かったことから、実際に車が通った道の履歴を収集し、実際に通れる可能性のあるルート情報として震災の翌日にインターネット上に公開し、そのことをソーシャルメディアで告知しました。

その当時、ツイッターのフォロワー数はまだ1000人程度だったのですが、ツイッター経由でのアクセスは約2万9000のクリックがありました。おそらくRTされた数はそれ以上でしょう。思わぬ結果ではありましたが、ソーシャルメディアはタイミングと話題が合致すると、とても大きな力を発揮すると言うことを体験できまたし、幸か不幸か、社内へソーシャルメディアのポテンシャルや可能性を訴求する結果となりました。

――実際にソーシャルメディアを運用して感じたことはありますか。

染谷 開始した時点では想定していなかったのですが、実際に運用してみると海外からも多くの問い合わせが寄せられました。東南アジアや南米など、事業展開しているものの規模が小さくてサポートしきれていない地域で、「車が故障した」「サポートが対応してくれない」という要望が現地の言葉だったり、翻訳サービスを使った日本語だったりで寄せられるのです。今は海外営業やカスタマーサービス部門などと連携し、現地法人と連絡を取ったり、現地と連絡が取れない場合は窓口を紹介するなどの対応を行っていますが、ソーシャルメディアがグローバルであることを実感させられました。

石井 震災直後にはホンダのヒューマノイドロボット「ASIMO」を原発に派遣して欲しい、という声が多く寄せられ、「現時点では、そこまでの技術に至っていない」ということへのご理解をお願いする回答をしたところ、「わざわざまじめに返すなんておもしろい」といった声も含めて大変な反響がありました。一方でこういった世の中の要望は、ASIMOの開発チームにもフィードバックしており、そのような声も後押しとなってASIMOの技術を応用した作業アームロボットを開発、2011年12月には試作機として発表しました。これは傾聴結果が製品開発につながった例といえるかもしれません。

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(Honda | お客様相談センター | (ASIMOに原発事故処理をしてもらえませんか。Hondaについて)

CM「負けるもんか」はYouTubeで100万回以上再生

――ソーシャルメディアによってユーザーに違いは感じられますか。

石井 1つ1つのツールに関してはまだセオリーのようなものが決まっておらず、どう使い分けていくのかを試行錯誤していますが、フェイスブックとツイッターでは情報の広がり方に差があると感じています。ツイッターはホンダに興味が無い人にも拡散されていきますが、フェイスブックの場合は「いいね!」をつけてくれたファンの間で情報が広がる、というイメージですね。このあたりはツールごとの特性を見極めながら運用していきたいと思います。

YouTubeも興味深いツールですね。テレビCMの「負けるもんか」は地上波で10回も放送していないのですが、YouTubeにアップロードしたところこれまでに100万回以上も再生されました。その再生回数のうち60%近くがYouTubeのサイト上でなく、他のサイトに埋め込まれた動画が再生されています。

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(Honda CM「負けるもんか(プロダクト)編」)

今までも自社サイトで動画やCM映像などは掲載していたのですが、そうした映像はサイトに来てもらえないと見てもらうことができません。YouTubeは他のサイトにも埋め込めることで広がっていくところに強みを感じます。動画は海外にも広がっていて、NSXのイメージ映像はロシアの車情報サイトに掲載されて多く再生されました。動画は国境を越えてボーダーレスに広がっていくポテンシャルを持っていますね。

――mixiページも運用されていますが反応はいかがですか。

染谷 mixiページは若い女性が多いので、絵文字を使ったり、女性を意識した投稿にしてみたりと工夫してみたのですが、今のところフェイスブックのファンとあまり層が変わらない印象です。本来であればmixiの属性に合ったテーマで投稿をしたほうがいいのかな、と思いつつ、お客さまからの反応を見るとそういうことが求められていないようで、この点は課題ですね。

――Ustreamも運用されていますね。

石井 広報はメディア向けの発表会も開催していますが、メディアの露出を待っているだけでなく、自らもダイレクトにお客さまに発信していったほうが良いのではないかと感じていました。それまで新車の発表会などは報道関係者のみしか参加できない聖域だったのですが、それももうオープンにしていったほうがいい、というのがきっかけです。

視聴数は多いときで2500くらいありますが、通常は300~400程度ですね。人気があるのはモータースポーツの会見で、国内外のライダーやドライバーも来るため、ファンの方々も含めて視聴者数が増えます。また、東京のショールーム、ウエルカムプラザ青山では毎週のようにイベントを開催していますが、地方の方は参加するのも難しいので、そうしたイベントのライブ配信も行っています。

ユーザーの書き込みに一喜一憂しない

――運用面で苦労されたことはありますか。

染谷 アカウントは、私を含めて3人で運用していますが、これまで大変な事態になったということはあまりありません。クレームやご批判をいただくこともありますが、都度担当者同士で相談して対応していますし、1つ1つのコメントで一喜一憂することはしないようにしています。

石井 お客さまは勢いで「いいね!」をつけていたり、直感的にコメントされている場合もあるので、一憂はもちろんのこと一喜もしないように、冷静に判断することを心がけています。「いいね!」の数はもちろん重要ですが、「いいね!」が多ければいいというような単純な測定は行わず、他の投稿との数値比較などを踏まえて分析するようにしています。

――今後利用してみたいソーシャルメディアはありますか。

石井 運用は2人で兼任していることもあって、ツールはこれ以上増やせない、というのが正直なところですね。写真系サービスなども気にはなりますが、これ以上やっても手に余る、というのが本音です。むしろお店を広げるよりもより密度を高め、クオリティを上げていく方向で考えています。広告でファンを獲得するという方法もありますが、予算も限られているので、今はクチコミでじわじわとファンを獲得していきたいと考えています。

――ソーシャルメディアでの効果測定はどのように行われているのでしょうか。

石井 今のところ正解はないですね。まずは同業他社とのベンチマークで測定していこうと考えていましたが、他社さんは広告を使って積極的にファンを獲得されているので、ファン数だけで見ると大きな差が開いています。我々はファン数だけでなく、実際に「いいね!」したりコメントを投稿したりしていくれている反応数も指標にしています。広報としてニュートラルに情報を発信しつつ、社内にもソーシャルの価値を理解してもらえるような啓蒙活動を行っていきたいと思います。

――インタビュー雑感
限られた予算の中でも、じわじわと口コミでファンを広げて、目に見える成果を上げているホンダさんはとてもすごいと思います。少人数のチームながら、しっかりとユーザーと向き合い、それでいて複雑な目標設定をしたりユーザーの反応に一喜一憂したりしない、という非常にバランスの良い姿勢が、成功のカギとなっているのかもしれません。(アジャイルメディア・ネットワーク)

インタビュー担当 AMN 甲斐祐樹

次回(1月15日)は東急ハンズ(前編)です。

※このコラムは、宣伝会議Advertimesに寄稿したものの転載です。

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2012年12月27日


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