慣習を破ってフィットネスクラブを元気にしたアンバサダーの事例〜書籍『アンバサダー・マーケティング』より 第22回

Pocket

レストラン病院の次はフィットネスクラブのお話です。今回も前回同様にたくさんのヒントがあると思いますので、他業界の方もぜひお読みいただきたいと思います。

本書によれば「もはや消費者のネット評価を免れる業界はない」とのこと。確かにその通りだと思います。ではいったいどうしたらいいのでしょうか。そのひとつの答えが、いかにアンバサダーとリレーションをとっていくか、ということだと思います。

アンバサダーマーケティング藤崎実22

■IT業界と無縁の業界でも、ネットでの評価を免れられない

アメリカのフィットネスクラブ会社「クラブワン」のCOOビル・マクブリッジは、2010年、業界に先駆けて、いち早くソーシャル・メディアで武装したアンバサダーをマーケティング戦力に変えたことで大きな成果をあげました。

と、このように成果を最初に聞くと、何の疑問も持たずにすんなりと聞こえてしまいますが、でも少しお待ちください。そもそもフィットネスクラブ業界とアドテクやイノベーションは全く縁のない関係だと思いませんか?

そうなんです。IT業界やガジェット商品であれば、ネットやソーシャル・メディアとの連携はすぐに思いつくでしょう。しかし業界によっては昔からの慣習が一般化し、アンバサダーの活用は無縁だと感じる人も多いと思います。しかし本書で語られているように、今や消費者はあらゆる分野においてネットで情報交換しているのが現状です。まさに「もはや消費者のネット評価を免れる業界はない」という事実を早く認識することが、重要なのではないでしょうか。

いわゆる保守的でコモディティ化が進んだフィットネスクラブ業界でも状況は同じで、当時は全米でもソーシャル・メディアの活用を考える人はいない状況だったのでしょう。

しかしマクブリッジは誰よりも早く新たなマーケティング手法や技術を取り入れることを決断しました。そしてフィットネスクラブの運営とネット、ソーシャル、モバイルなどとの融合を次々と実践していったそうです。

すぐに手応えを感じたとマクブリッジは言っています。「通常フィットネスクラブでは、売り上げの半分がクチコミによるものだ。紹介は新規メンバーを獲得する最も有効な手段だ。僕がアンバサダー・マーケティングはフィットネ業界にとって完璧なマーケティング手段だと感じているのはこのためだ」業界に先駆けて全米で初めてアンバサダーの活用に乗り出した成果はてきめんだったそうです。

マクブリッジは続けます。「クラブワン、そしてフィットネス業界にとって、アンバサダーにはどれほどの可能性があるかは、すぐにわかった」そしてわずか1年で、熱心なメンバーおよそ1万人から成るアンバサダー部隊をつくりあげたそうです。

その1万人のうち70%が、クラブの提供するツールを活用して同社を周囲におススメしてくれているそうです。またクラブワンのアンバサダーは自らソーシャル・メディアを活用することで、プロモーション情報やシェイプアップに成功した体験談などをシェアし、クラブワンの魅力を広く伝えてくれているそうです。

そして驚くべきことに、クラブワンのアンバサダーの50%が、無料トライアル特典をメールやフェイスブック、ツイッターを通じて友人や同僚とシェアしてくれるそうです。そのようなアンバサダーの活動がクラブワンにクチコミによる紹介客やクリック、新メンバーを呼び込んでくれていそうです。

マクブリッジはフィットネス業界で25年のキャリアを持つベテランで主要業界団体の会長も務める人物です。ここまで地位もキャリアもあれば、通常は自分の成功体験に基づく行動をとりがちです。しかし業界の古き慣習にとらわれずに、新しい挑戦を初めたことがマクブリッジの成功要因でしょう。

今やマクブリッジは、アンバサダー・マーケティングのアンバサダーとして、自身がトップを務める業界団体や業界のイベントなどで、仲間はもちろん、ライバル会社にまで、おススメしているそうです。

■ネットでの厳しいレビューは堪え難い。しかしそれが現実。

フィットネスクラブ産業は常にクチコミによる評価にさらされているそうです。多くのクラブの悩みの種は、ネット上の否定的なクチコミだそうです。メンバーの中にはいろいろな不満や不評を書き込む人がいますので、自社に対する否定的なクチコミが怖いというのが本音でしょう。

しかし、あるフィットネスクラブの支配人は、次のように語ったそうです。「レビューには本当にひどいものがある。まったく事実無限で偏った内容も多い。だが消費者がチカラを持つようになった今では、これが現実なのだ」まさにこの言葉に現在置かれているすべての企業にあてはまるのではないでしょうか。こうした現状がこれからも変わらないのであれば、勇気を持って、新しい一歩を踏み出すべきではないでしょうか。

■企業に賛同してくれる熱き顧客が助けてくれる

満足度が特に高いメンバーを探し出し、リレーションをとり、マーケティング戦力に変えていけば、フィットネスクラブは次のような大きなメリットを手にすることができるそうです。

○何千というクチコミによる紹介客やクリックをサイトに誘導してくれる。
○イェルプなどのウェブサイトでの評価を高められる。
○否定的なレビューや悪意あるコメントに対抗できる
○新規メンバー獲得のほか、パーソナルトレーニング、スパサービス、テニスレッスンなどの付加価値サービスをプロモーションすることができ、会費以外の収入を増やせる。

これらは、フィットネスクラブのビジネスだけでなく、どの業界でも言えることだと思いますが、いかがでしょうか。

Author Profile

藤崎 実
藤崎 実
藤崎実 アジャイルメディア・ネットワーク株式会社 クリエイティブディレクター
(プロフィール) 博報堂、大広インテレクト、読売広告社、TBWA HAKUHODOでの仕事を経て、アシャイルメディア・ネットワーク勤務。AMN コミュニケーションラボ主宰。多摩美術大学、日大商学部 非常勤講師 ◎日本広告学会クリエーティブ委員、産業界 評議員 ◎日本マーケティング学会/日本広報学会会員 ◎WOMマーケティング協議会 理事/事例共有委員会委員◎東京コピーライターズクラブ会員 ◎青山学院大学、学習院大学 非常勤講師【受賞歴】カンヌライオンズ、OneShow、クリオ賞、NYフェスティバル、reddotデザイン賞、iFコミュニケーションデザイン賞、クリエイターオブザイヤー、Webクリエーション・アウォード、東京インタラクティフブアドアワード、ACC賞、電通賞など多数。
Pocket

2014年11月6日


Previous Post

Next Post