認知率90%からのマーケティング戦略にはクチコミが不可欠(ロボット掃除機ルンバ)

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【前回の記事】「新市場は、消費者とメーカーの「二人三脚」がなければ生まれない(ロボット掃除機ルンバ)」はこちら

セールス・オンデマンドは、米国アイロボット社の「ルンバ」の日本における販売代理店として2004年に設立されました。今や「ロボット掃除機」の代名詞として知られるルンバですが、市場の開拓とその普及には、常に消費者のクチコミと上手につきあってきた戦略がありました。その貴重なマーケティングストーリーを、同社 取締役の徳丸順一氏に聞きました。

今回のゲスト

徳丸 順一(とくまる じゅんいち)
セールス・オンデマンド株式会社 取締役 第一事業本部 マーケティング部 部長
広告会社を経て、2006年4月にアイロボット日本総代理店 セールス・オンデマンドに参画。家庭用掃除ロボットのパイオニアである、アイロボットルンバのマーケティング活動を展開し、ロボット掃除機カテゴリー創出を行う。2010年1月、スウェーデンの高性能空気清浄機ブルーエアを日本市場に導入し、掃除機以外のカテゴリーへ進出。2013年4月より経営企画本部を担務。2015年4月より再びアイロボット事業のマーケティング全般を担務している。
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KPIに対して200%達成

藤崎:ルンバにとってクチコミは市場を広げてくれる存在であり、継続的にクチコミが生まれる仕組化のために「アイロボット ファンプログラム」を始めたことがわかりました。現時点での成果について教えてください。

徳丸:目標設定は大きな問題です。我々は定量面と定性面の両方を重視して、それぞれにKPIを設定して施策を行っています。具体的な数字は出せませんが、定量面は「プログラムに参加するファン数」です。定性面はクチコミの数とパワーに着目して「クチコミがどこまで広がっていくか」というものです。

藤崎:やはり定量と定性の両方が大事なのですね。

徳丸:直近では、KPIを大幅に超えた2倍という非常にいい結果がでました。
2.4

藤崎:定量・定性ともにKPIの200%達成はすごいですね。「アイロボット ファンプログラム」に手応えを感じているということですね。

徳丸:プログラムを始めてまだ1年しか経っていませんから、全体的な手応えはこれからです。今は、長期的な展開を考える上での基礎を作っている段階だと思っています。直近の成果もKPIの2倍を出せたので、さらに良いものにしていくためにはどうしたらいいのかを、常に考えています。

藤崎:やはり長期的な視野が大切なんですね。

2.4

徳丸:一方、デジタルの場に関してはSEO効果などには実感を伴う手応えがあります。特にファンイベントで紹介したり、消費者にモニターしてもらったりしているタイプのルンバは、SEOの効果が非常に高いです。ファンイベントにお越しくださった方のブログや、モニターの使用後の感想を書いたブログが表示されるのは我々にとってだけではなく、ルンバについての情報が欲しくて検索している人のニーズに合っていると思います。やってみて本当に良かったと、非常にポジティブな評価を持っています。

ファンとコミュニケーションできるプラットフォーム

藤崎:今後の課題や可能性を教えてください

徳丸:我々は創業以来、クチコミを重視し、今までいろいろな方法で向かいあってきました。しかし、なかなか「クチコミの仕組化」まではできませんでした。

その意味では、「アイロボット ファンプログラム」という、アクティビティを発信する確固たるプラットフォームができたことは大きな価値があると捉えています。今後はいろいろな部署も絡めてこのプラットフォームの有意義な活用方法を探していこうと考えています。いわば「クチコミの底上げ」も目指したいところです。

藤崎:なるほど。ファンの組織化は、言い換えると「ファンとコミュニケーションできるプラットフォーム」というわけですね。

徳丸:今の時代は、どうしても広告だけでは埋められない領域がありますので、コミュニケーションできるプログラムは非常に大事です。次に課題ですが、これもいくつかあります。例えば、アイロボット社製品のファンはたくさんいるのですが、どうしても「モニター」や「ファンイベント」に接触できない人がたくさんいます。これは物理的に仕方ないことですが、そういう方々にどうやって情報を伝えて行くのかは継続した課題です。

認知率90%越えからの戦略にはクチコミが不可欠

徳丸:2009年あたりから広告に力を入れた結果、数年も前から認知率は90%を越えています。しかし、実際の普及率はまだまだ大幅に伸ばせる余地があると思っています。その推進役はやはりクチコミだと思っています。

藤崎:市場を伸ばす上での具体的な障壁を教えて頂けませんか。

徳丸:日本は特に、”掃除は自分でやるべき”という意識がまだ根強く残っています。掃除の自動化はともすれば”手抜き”や”サボり”と思われがちです。掃除に対するそもそものマインドを変えていくことが重要だと思っています

藤崎:米国アイロボット社の理念である「これからの時代、ロボットに任せられるものは、任せて、人はその分の時間を有効に使おう」という発想が大事ということですね。

よく考えれば、昔は洗濯も洗濯板を使って手で洗っていましたが、今は洗濯機に全てを任せていますよね。だから掃除機が部屋を自走するというのは正当な進化だと思います。つまり、「ルンバ」のビジネスは、「本当に掃除ができるのか」という消費者の懐疑心を解くと同時に、「ロボットにできるものは任せよう」という掃除そのものに対する意識変革も関係してくるというわけですね。

徳丸:その通りです。それらを解決するのは企業からの発言だけでは難しく、ファンや消費者と二人三脚していく必要があり、この取り組みには終わりはないと思っています。

藤崎:例えば、地方に住む人の家は広いですから、本当はルンバが大活躍するはずですよね。

徳丸:「狭いから」「畳だから」「モノが多いから」などの理由で、我が家では使えないという誤解が多いです。実際、ルンバで掃除できますし、うまく活用している方もたくさんいらっしゃいます。我々としては、不安や疑問に対し、リアルな消費者の声で代弁することが理解を促す一番のきっかけになると思っています。

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購入検討者の不安を企業は払拭できない

藤崎:機能的な心配や心理的な壁と同時に、実際に購入を検討する時には「価格」も関係してきますよね。

徳丸:そうですね。いわゆる少額商品でしたら、試しに買ってみようということもありますが、「ルンバ」はある程度高額な耐久消費財です。ですので、検討してから購入することになりますが、その段階で十分な理解を得られるような情報が必要です。それには企業からの謳い文句だけでは不十分です。「本当かな?」という懐疑的な気持ちを払拭するためには、消費者のリアルな声が非常に大きな説得力を持っていると感じています。

藤崎:認知率90%を超えた立場として、すでにお使い頂いている方のリアルなクチコミを重視して次のステージに向かおうというわけですね。

徳丸:広告でこれ以上認知をあげても、今の壁を乗り越えないと、なかなか次には行けないということです。

消費者のパワーを実感。消費者からのネーミング

藤崎:消費者から生まれた言葉があるそうですね。

徳丸:ルンバに適した住まいのことを社内では「ルンバフレンドリー」という言葉で呼んでいました。「ルンバフレンドリーな家」とか、「ルンバフレンドリーなソファ」という風に。

しかし、ある時、自然発生的にTwitter上で「ルンバブル」という造語が生まれていました。これには我々が驚きました。「ルンバブル= Roomba+Able=ルンバが使える」という意味ですが、コピーライターも顔負けのネーミングですよね。
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藤崎:それはおもしろいですね。

徳丸:最近は「ルンバライズ」という言葉が自然発生的に生まれているようです。これは「ルンバ」が充分に働けるように、部屋を片づけるという意味だそうです。「ルンバブル」から一歩進めた言葉なで、人間が自主的にとる行動をさしています。

藤崎:消費者が新しい言葉をどんどん作ってくれるってすごいですね。

徳丸:ロボット掃除機は新しいカテゴリーの商品ですし我々は先駆者なので、この分野の第1人者になることは重要です。その意味で、消費者が「ルンバ」をロボット掃除機の代名詞として認めてくれて、次々と言葉を作ってくれるのは嬉しいことです。

藤崎:商品名なのに代名詞になっている名前ってありますよね。例えば「セロテープ」とか、昔では「ウォークマン」とか。そう言えば、ロボット掃除機を総称して「ルンバ」って呼ばれるケースも多いですよね。
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クチコミの無限ループを作り市場を拡大させる

徳丸:我々はクチコミのなかで商品がどのように語られているかを把握し、消費者の疑問に答えることが第一歩だと思っています。

不安が安心や満足に変わればさらなるクチコミを誘発し、新しい誰かに伝播していきます。クチコミの中から、我々が気付かされることもたくさんあり、今度はそれに応えるための方法を考えます。コミュニケーションの輪が拡張すればするほど、情報の量も質も高まっていくと考えています

藤崎:それがループとしてグルグル回って、商品への理解や興味が深まったり、購入検討者を増やすことになったり、結果的に市場を広げていくというわけですね。

徳丸:消費者は今まで知らなかった情報を知りたがっています。だから、我々企業はファクトベースのコンテンツを作りさらに、使っていただいた方々のリアルな生な声を伝えていきたいと思っているのです。

藤崎:貴重なお話ありがとうございました。

今回のポイント

・直近の成果は目標KPIに対して200%達成
・ファンとコミュニケーションできるプラットフォーム
・認知率90%越えからの戦略にはクチコミが不可欠
・購入検討者の不安を企業は払拭できない
・消費者のパワーを実感。消費者からのネーミング
・クチコミの無限ループを作り市場を拡大させる

今回のまとめ

「アンバサダープログラム」はファンとのリレーションのための取り組みですが、見方を変えると、企業がファンとコミュニケーションできるプラットフォームでもあるんですね。しかも、そのプラットフォームは、クチコミが永続的に作られていく「クチコミの仕組化」のための場です。企業とファン・既存顧客との関係から、さまざまな可能性が拡がっていきますね。

認知率90%越えからの次の一手にはクチコミが不可欠というお話もなるほどと思いましたが、圧巻はインタビュー後半の知見です。消費者の疑問に答えるコンテンツづくりと、そのコンテンツが誘発するクチコミをループさせて市場を拡大させていく。経験に裏打ちされた言葉の説得力もあり、市場拡大にクチコミが貢献している現実を改めて感じました。

※このコラムは、宣伝会議Advertimesに寄稿したものの転載です。

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2016年5月26日


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