広告が難しい分野、例えば病院経営にも効くアンバサダーの事例〜書籍『アンバサダー・マーケティング』より 第21回

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前回のレストラン事例に続いて、今回は広告や宣伝が難しい、病院などの医療関係の業態にもクチコミ・マーケティングは期待が持てるというお話です。

アンバサダーマーケティング藤崎実21

 ■アンバサダーは病院が抱える悩みにも効くのでしょうか?

ここでいう病院の悩みとは、病院経営にも直結する「集客」の悩みです。 あまりピンとこない方は、ちょっと考えてみてください。あなたの身の廻りには実はたくさんの病院がありませんか?例えば内科だって、いつも行く病院以外にも、あなたの街にはたくさんの病院があるはずです。では、その病院が選ばれている理由は何でしょうか……。あなたが、今行っている病院は、いわゆる行きつけだからかも知れません。では、あなたが違う街に引っ越ししたら、何を頼りに病院を選ぶのでしょうか?

アンバサダーは病院が抱える悩みにも効くのでしょうか?という問いに、「もちろん」と言い切るのは、テキサス州中西部で5カ所の病院を経営するセント・デビット・ヘルスケアのソーシャル・メディア担当のリード・スミス氏です。スミス氏は続けます。「医療ほどパーソナルな領域はない。病状や治療、医者や設備についてアドバイスを求める人は信頼できる情報源を探す。医療分野においてアンバサダーは、ブランドの真の姿を伝える重要な手法になりつつある」と。

本書によれば、もはや消費者のネット評価を免れる業界はないようです。それは今まで「聖域」とされていた医療分野であっても例外ではないようです。

最近日本にも上陸したアメリカのクチコミ情報サイト、イェルプではレストランやホテルと同様に病院のカスタマレビューを掲載しています。実際のユーザーによるこのレビューには絶大な影響力があるそうです。(日本版のサイトでも病院のレビューがありますが、このブログでの事例はアメリカでのお話となります。日本でも病院のレビュー文化が根付くかどうかは、とても興味があるところです。http://www.yelp.co.jp/ )

さて、セント・デビット・ヘルスケアも、自分たちのフェイスブック・ページで「究極の質問」を投げかけ、アンバサダーを発掘しているそうです。そしてアンバサダーには、セント・デビット・ヘルスケアを訪れた時の体験談を書いてもらったり、アンバサダーが簡単に体験談を自分のフェイスブックやツイッターで公開したり、メールでシェアしたりできるような工夫を凝らしているそうです。つまりファンを発掘して、リレーションをとっていくという方法は、病院であっても他の一般的な企業と同じだということがわかります。

■アンバサダー・プログラムの成果

本書には、セント・デビット・ヘルスケアの素晴らしい成果が紹介されています。

◎患者の74%が、自らをセント・デビットのアンバサダーと認めている。
◎アンバサダーは執筆した体験談を平均2つのチャネル(フェイスブック、ツイッター、メールなど)で、シェアしている

参考までにデータを追記すると、アンバサダーが体験談をシェアした場合、セント・デビットのウェブサイトへのインバウンドのレスポンス率は78%に達するそうです。これらの好評価と実績を得て、セント・デビットでは、今後、アンバサダーの推薦の言葉をウェブサイトや各病院に掲示するなどして活用していく計画があるそうです。

セント・デビットのリード・スミス氏の言葉は力強く結ばれています。「サービスの提供者として、我々の姿をキチンと伝えてくれる利用者を発掘する方法を確立したい。第三者による、特定の治療や信頼性に関するはっきりとした意見は、患者が自分にとって何が最適か理解するのにとても役立つ。アンバサダーが意見を表明できるようにするのは、彼らに他の患者を助ける機会を与えることに他ならない。また患者が病院で過ごす時間をより良いものにするためにも、アンバサダーの声を役立てている」

いかがでしょうか。病院もマーケティングに力を入れる時代がやってきたということで、大変注目すべき取り組みだと思います。そしてこの流れは、今後日本でも一般的になっていくことが予想されます。

ところでリード・スミス氏の肩書きに気づかれたでしょうか。「ソーシャル・メディア担当」という役職がちゃんとあるんですね。日本の医療関係でも、こうした役職が登場するかもしれませんね。

Author Profile

藤崎 実
藤崎 実
藤崎実 アジャイルメディア・ネットワーク株式会社 クリエイティブディレクター
(プロフィール) 博報堂、大広インテレクト、読売広告社、TBWA HAKUHODOでの仕事を経て、アシャイルメディア・ネットワーク勤務。AMN コミュニケーションラボ主宰。多摩美術大学、日大商学部 非常勤講師 ◎日本広告学会クリエーティブ委員、産業界 評議員 ◎日本マーケティング学会/日本広報学会会員 ◎WOMマーケティング協議会 理事/事例共有委員会委員◎東京コピーライターズクラブ会員 ◎青山学院大学、学習院大学 非常勤講師【受賞歴】カンヌライオンズ、OneShow、クリオ賞、NYフェスティバル、reddotデザイン賞、iFコミュニケーションデザイン賞、クリエイターオブザイヤー、Webクリエーション・アウォード、東京インタラクティフブアドアワード、ACC賞、電通賞など多数。
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2014年10月28日


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