監修者が語る、書籍「アンバサダー・マーケティング」（第18回） 推奨の金銭的価値②メディア価値

アンバサダーがもたらす推奨の価値。今回はそのメディアとしての価値に着目して、本書からの抜粋をご紹介します。

■メディア価値

推奨の重要性を否定するマーケッターはいないでしょう。アンバサダーがショッピングサイトやソーシャルメディア、ブログなどに好意的なレビューや感動的な体験談、熱烈なコメントを投稿し、シェアしてくれれば、新たに商品やサービスを購入する人が増え、ブランドイメージがあがります。では推奨価値はどのように測ればいいのでしょうか。

本書によれば以下の理由から、それはかなり厄介な作業だと述べられています。

（1）評価の定まったメトリクスが存在しない
推奨の価値は誰もが認めるものだと思いますが、推奨を評価する方法として世間で広く認められるような方法はまだ考案されていない。

（2）信頼性のあるメトリクスが存在しない
これは致命的な事実ですね。もちろん自社のウェブサイトやブログに掲載したアンバサダーの推奨を閲覧した人の数、あるいは推奨を掲載したページを訪れた人が何分間滞在したか、などは把握できます。しかし、推奨のメディア価値の大部分は、自社のウェブサイトではなく、ショッピングサイトなど外部のウェブサイトで発生するからです。

日本でも多くの人が利用しているアマゾン・ドット・コムを始めとするクチコミサイトやツイッター、フェイスブックなどのソーシャルメディアやメールでアンバサダーが情報をシェアし、それを多くの人が読んだとしても、それを正確に把握する方法はありません。またそれらのウェブサイトやソーシャルメディアは信頼できる閲覧数のデータを提供していますが、それらは推計値に過ぎず、具体的なクチコミ数やクチコミによる紹介客ではありません。

（3）一貫性のあるメトリクスが存在しない
推奨の価値は商品カテゴリー、購入パターン、誰がおススメしているか、などによって大きな違いが生まれますが、現在のところ業界の標準となるような指標はまだ確立していない状況です。

■ピア・インフルエンス分析モデル

ピア・インフルエンス（peer influence）とは、「仲間による影響」のこと。推奨のメディア価値を把握する最初の一歩となりえるのは、アンバサダーのおススメの到達範囲を評価することです。
そこで本書の著者であるロブ・フュジェッタ氏のズーベランス社では、市場調査のピア・インフルエンス分析を利用して企業のアンバサダーの到達範囲を評価しているそうです。そのデータが本書に記載されていますので、ここでご紹介させて頂きます。

ズーベランス社の調査によると「誰かがソーシャルメディアに何らかのコンテンツを投稿すると（平均で）150人に届く」そうです。従って、ズーベランス社では、自社が関与したプロモーションでは、アンバサダーがブランドや商品をソーシャルメディアで一回おススメするたびに、150人にメッセージが届くと推計しているそうです。そして、これは「ソーシャルメディアでは情報が拡散し続けることを考慮すると、控えめな評価である」と補足されています。

つまり、ひとりのアンバサダーが１年間に4回ブランドをおススメすると仮定すると、その期間のひとり当たりの到達範囲は600人となる、という計算です。
これは１０万人のアンバサダーを活性化すれば、6000万人に情報が到達する、という計算です。

こうしたインプレッション（情報の表示）はすべてアンバサダーという信頼性の高い情報源から発生しており、従ってペイドメディアから発生したインプレッションよりも価値があることには注意が必要です。ズーベランス社では従来のたんなる数値を超えた価値があるということで“信頼性インプレッション”と呼んでいるそうです。

■信頼性インプレッションのメディア価値

ではアンバサダーのおススメが6000万人に届くとしたら、その価値はいくらになるのでしょうか。最も単純な方法は、一インプレッションに金額を１ドルと仮定することです。その場合、メディア価値は6000万ドルになります。本書ではジェットブルーが顧客にプロモーションを話題にしてもらった結果、3000万ドルのメディア価値を発生させた事例も紹介されています。

当然、推奨のメディア価値は、誰がアンバサダーなのか、商品やサービスの価格がいくらか、といった推奨以外の要素によって大きく変わってきます。例えば自動車やコンピューターの推奨のメディア価値は、栄養ドリンクの推奨価値よりは、はるかに高額になると思われます。

ここで参考になるのは、伝統的なメディアでメッセージを発信するために、現在どれだけの広告費を払っているかです。
この価格は、メッセージの価値を反映していると考えられますが、クチコミの信頼性はペイドメディアの3〜5倍であることを考えると、推奨のメディア価値は現在あなたがペイドメディアに払っている広告費の3〜5倍とみるのが妥当でしょう。

イラスト：藤元秀征（ヨコハマデザイン株式会社）　http://yokohamadesign.com/