対面販売で培った関係づくりを、ネット通販に生かしたい(KOSE 米肌)

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【前回の記事】「通販限定の化粧品だからこそ、人の温度感が必要だった(KOSE 米肌)」はこちら

コーセー「米肌」は、「ライスパワーNo.11」というエキスをベースにした通販限定の化粧品シリーズです。今までネットでのプロモーション展開を充実させてきましたが、4周年を迎えた2016年にアンバサダープログラムを始めました。ネット通販とアンバサダーの組み合わせには、どんな狙いと効果があるのでしょうか。「米肌」の担当者である佐々木渉さんに話を聞くインタビューの後編です

今回のゲスト

佐々木渉 氏
コーセープロビジョン 事業推進部
2006年 コーセーに入社。入社後、関西に配属となり百貨店チャネルの営業を担当。その後愛知にて、化粧品専門店チャネルの営業を担当。現場経験を経て2015年よりコーセープロビジョンへ。現在、同事業推進部にて米肌ブランドに従事。米肌アンバサダープログラムを始め、オフラインメディアを主に担当している。
2.1

顔が見えない通販だから、顔を合わせることが大切

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佐々木:顔が見えない通販だからこそ私は「顔が見えるクチコミが大事だ」と思っています。そして同時に、私たちメーカーの通販担当者も「お客様と直接お会いすることが大事だ」と思っています。

藤崎:詳しく教えてください。

佐々木:私たちにとっても、イベントでアンバサダーのみなさんとお会いするのはとても有意義だということです。私たちはネット通販のため、普段の仕事だけでは直接お客様とお会いする機会がないのです。そのため、アンバサダーのみなさんからいただく声はとても貴重で、どんなお客様がどんな思いで商品を使っていらっしゃるのかを直接知ることは、私たち自身のモチベーションになります。

ものすごく単純な話、イベントで特別なお手入れの実演を行いましたが、その場で「気持ちが良い」とか「家に帰ったらやってみよう!」というリアルな声が聴けたのは、純粋に嬉しかったのです。その声は、今後の参考にもなりますし、ファンとの交流の場はブランドにとって大切だと思います。

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藤崎:確かに通常のネット通販では、お客様と直接会う機会がありませんね。

佐々木:アンバサダープログラムはクチコミという目的以外にも、お客様の声を聴くことや商品への思いなどのフィードバックを得る、コーセーへの温度感を知るためなどにも役立つと実感しています。

藤崎:お客様の声を社内で還元されても有意義かも知れませんね。

佐々木:今後は、そういうことも必要ですね。米肌のイベントは私たちの部署や関係者が総出で作りあげているイベントです。私たちも自分たちの顔をアンバサダーの方たちに見せることができて、とても良かったと思っています。米肌は「顔が見えない通販」なので、私たちの顔を見せることは、商品を身近に感じてもらうためにも必要だと思っています。

コーセーの歴史はお客様との対面販売の積み重ね

藤崎:私は今まで企業の担当者にお会いしてきて、みなさんに不思議と共通点があると感じています。それは過去の体験をもとにアンバサダープログラムを始める方が多いということです。というわけで、佐々木さんの今までの経歴にとても興味があるのですが。

佐々木:私はもともと営業担当として店舗を回る仕事をしていました。

藤崎:驚きました。ネット関連のご部署ではなかったんですね。コーセーはもともと店舗での対面販売で伸びてきた会社ですよね。

佐々木:その通りです。コーセーの歴史はお客様との対面販売の積み重ねです。営業はその対面販売をサポートする立場です。私は営業として、美容スタッフやご販売店様に対して商品を自分の言葉で伝えていく活動を日々行ってきました。

藤崎:佐々木さんの体験を詳しく教えてください。

2.4
(佐々木渉 氏)

佐々木:実際はとても地道な活動です。ご販売店様も様々で、百貨店やGMSなどもありますが、当社の商売の原点は化粧品専門店といわれる地域に根付いた化粧品屋さんからです。当たり前ですが、ご販売店様の奥さまや従業員の方々、お店で居合わせたお客様など、あらゆる立場の方々が、みなさんお客様です。まずは、そうしたお客様ひとりひとりと直接触れ合って、人間関係を深め、信頼関係をつくり、商品を詳しく知ってもらうことが大切です。

藤崎:なるほど。対面販売・営業と一言で言いますが、その中身は簡単ではありませんね。

メーカーとお客様の関係づくりを、今度はネットで

佐々木:営業としての活動は、商品のことだけでなく、他愛もない会話を通じて関係を深めていくことも大切です。そうした関係づくりの重要性を、身をもって体験してきました。お店の人にファンになってもらい、商品を使ってもらうという、一つひとつの積み重ねがコーセーの愛用者を育てることにつながっていきます。

その結果、何年、何十年と買い続けてくれるお客様もいらっしゃいます。長年のファンはご自身が使うだけでなく、人にすすめてくださる場合も多いです。その姿はリアルもネットも関係なく、いわばアンバサダーですよね。

藤崎:アンバサダープログラムの採用は、ご自身の営業経験に基づくものだったのですね。

2.4

佐々木:はい、私はそういうメーカーとお客様の関係を現場で見てきたので、リアルな世界でコーセーが長年大切にしてきた「メーカーとお客様の関係づくり」を、今度はネットユーザーとアンバサダーの間で築けないかと考えたわけです。

ネットでコミュニケーションできる範囲はリアルな場よりも広いので、ちょっと大げさなようですが、世の中の女性全員に一歩近づける通販ブランドになり得るのではないかという可能性を感じています。

藤崎:営業の経験から、広告や商品の力だけはない、人間の関係性やコミュニケーションの力を実感し、アンバサダープログラムの可能性に着目されたというのはとても興味深いです。佐々木さんが大事にしている「人の温度感」や「熱量が人を動かす」という考え方に実感が伴っていたのは、そういう背景があったからなのですね。

佐々木:ファンづくりは地道な活動ですが、コツコツ続けていくことで成果を生む姿を店頭で見てきました。そこで、私がアンバサダーの方々と接する時もいつも一人ひとりの方を大事にするように心がけています。人間味というか、最終的な部分での「温度感」は、かなり大事だと思っています。

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藤崎:コーセーが対面販売で伸びてきたという歴史を考えれば、今度はアンバサダープログラムでファンと一緒に活動していくことは純粋な進化だと思いました。

佐々木:通販の新しいカタチになれればと思っています。

藤崎:アンバサダープログラムが象徴しているのは顧客中心・顧客志向の取り組みで、今までのマスマーケティングとは違う考え方です。そこで、アンバサダープログラムの担当者の方々は、既存の取り組みから一歩踏み出すイノベーションの担い手だと私は思っています。その意味で、佐々木さんが活動に取り組む背景がわかり感銘を受けました。

クチコミ施策は将来に活きてくる資産

藤崎:現時点での成果を教えてください。

佐々木:アンバサダーの方々の総登録者数は毎月順調に増加しています。比較的影響力の高い方が多いのが特徴です。細かい数字は出せませんが、クチコミのKPIに関しては、半年の目標を結局3カ月くらいで達成できました。

藤崎:それは良かったです。

2.4
(藤崎 実 氏)

佐々木:売上実績は、昨年度と比較して好調に推移していますので、アンバサダーの効果もあると考えられます。ただ正直なところ、実際の売り上げとの相関関係はまだ取れていない状況です。

藤崎:売り上げとの相関関係はなかなか難しいですね。アンバサダープログラムの特徴は長期的に効果を発揮する点だとは言えますが。

佐々木:中身の濃いクチコミはたくさん発生しています。検索によって、今だけではなく、将来にわたってアンバサダーの方の感想やクチコミに触れることができるというのは「米肌」にとっては良いことだと思っています。そうした全体的な資産を作っていると解釈しています。

藤崎:今後の課題や可能性を教えてください。

佐々木:今はアンバサダーボイスのような形で、主にブログからの記事内容を自社のサイトやメルマガ、クリエイティブに活かし始めているところです。

藤崎:アンバサダーの声を上手に利用するのは、今後の活用の一つですよね。例えば、獲得系アドのクリエイティブにアンバサダーの声を入れてどれだけ効果が伸びるのかなど、証明しやすいところからチャレンジしていくのが良いと思います。

佐々木:直近では「アンバサダーの紹介で、どれだけ購入に繋がったかというアンケート」を行うつもりです。数値的な効果を把握してみたいと思っています。

また、今後は「アンバサダーの中のアンバサダー」という関係づくりをしていけたらと個人的に思っています。それは、ごく限られた小さな枠になると思いますが、より深い関係づくりをしていけたらと思っています。

藤崎:いいですね。米肌の「アンバサダーの中のアンバサダー」、ゴールドアンバサダーといった人ですね。

佐々木:そうです。キャンペーンとは関係なく、米肌が好きなアンバサダーが自ら情報を発信してくれたり、何もない時に情報を発信してくれたり、そういう濃い関係ができたらいいなと思っています。

藤崎:女性は、常に自分に合う化粧品を探しています。そこで、「私が待っていた化粧品はこれだ」と実感しているゴールドアンバサダーの組織化は現実的な試みではないでしょうか。お客様とよい関係をつくっていきたい、という佐々木さんの話に共感しました。今日は、ありがとうございました。

今回のポイント

・顔が見えない通販だから、顔を合わせることが大切
・コーセーの歴史はお客様との対面販売の積み重ね
・メーカーとお客様の関係づくりを、今度はネットで
・クチコミ施策は将来に活きてくる資産
・今後はアンバサダーとの濃い関係づくりをしていきたい

今回のまとめ

佐々木さんがアンバサダープログラムを推進させているベースには、営業経験がありました。KOSEの原点である「対面販売」には、良い点がたくさんあります。そもそも1対1の関係なので、これほど丁寧な顧客志向はないと言えます。もともと企業とお客様の関係は、顔の見える関係が基本です。だからネットであっても、顔が見える関係を大切にしたいと語る佐々木さんにメーカーとしての誠実さを感じました。

佐々木さんは、「人の温度感を忘れてはいけない」「メーカーとお客様との関係づくりを大切にしていきたい」と繰り返し語っていました。米肌にファンが多いのも、佐々木さんの想いや熱意が、施策全体に浸透しているからではないかと思いました。事業をパワフルに前進させていくために大切なことは、他社には真似できない自社の強みである自分たちの「原点」を大切にすることかも知れません。

※このコラムは、宣伝会議Advertimesに寄稿したものの転載です。

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2016年11月1日


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