広告主が「広告」主ではなくなる日

Pocket

advertimes_tokuriki_ogp
※このコラムは、宣伝会議Advertimesに寄稿したものの転載です。

パナソニックが広告事業を開始

前回のコラムでは、縦割り組織が現在のデジタル時代、ソーシャルメディア時代においてはデメリットの方が大きくなりつつあるという話を紹介しました。

今回は、ちょうどその関連で先日話題になっていた象徴的なニュースを取り上げたいと思います。それは、パナソニックの会員サイトである「CLUB Panasonic」が、広告事業を開始するという話題です。同サイト内のポイントモールで、広告主のコンテンツや店舗への送客を始めるようです。

CLUB Panasonic は2007年11月にサービスを開始した会員サイト。ユーザーが楽しめるゲームなどのコンテンツのほか、提携先企業とポイント交換ができるサービス、商品体験イベントなども行っている。月間2.2億PV、会員数800万人

CLUB Panasonic は2007年11月にサービスを開始した会員サイト。ユーザーが楽しめるゲームなどのコンテンツのほか、提携先企業とポイント交換ができるサービス、商品体験イベントなども行っている。月間2.2億PV、会員数800万人

通常、パナソニックのようなメーカーは広告業界では「広告主」と定義されるのが普通でしょう。広告主とは、アドタイ読者の皆さんには説明するまでもありませんが、広告の依頼主側のこと、それに対して広告主に依頼される側が「広告会社」であり、広告が実際に掲載される場所が「広告媒体」ということになります。

では、この「CLUB Panasonic」の広告事業を開始するパナソニックは広告主でしょうか?広告会社でしょうか?広告媒体でしょうか?

「CLUB Panasonic」の広告事業をスタートするからと言って、パナソニックが自社製品の広告を止めるわけではありませんから、当然、今まで通り広告主でもあります。ただ、「CLUB Panasonic」の広告を他の広告主に販売するという意味では広告会社ということもできますし、広告事業が実施される「CLUB Panasonic」を広告媒体であると言うこともできるでしょう。

ある意味、広告主であったはずのパナソニックが、広告会社や広告媒体のライバルになってしまったと見ることもできるわけです。

今回、発表された広告事業は、実際には10月から販売が開始されるもので詳細はまだ公開されていません。もちろん、どれぐらい成功するかは現在のところは全くの未知数。この事例一つをとりあげて時代の変化を語るのは大袈裟だと思う方も多いかもしれません。

ただ、広告主による広告事業というのは今回のパナソニックに始まった話ではありません。例えば、2010年には日本コカ・コーラが運営する会員システムである「コカ・コーラパーク」が広告枠の販売を開始して話題になったことがあります。

この取り組みは、当時コカ・コーラのデジタルマーケティングを統括されていた江端浩人さんが著者『コカ・コーラパークが挑戦する エコシステム・マーケティング』でも提案していた自社メディアを持った企業同士のコラボの延長にある取り組みだったと言えると思います。

参考:エコシステム・マーケティングの威力:自社メディア連合がもたらす地殻変動

エコシステム・マーケティングにおいては、当時先行してオンライン上の会員システムを構築していたコカ・コーラと日産自動車が共同で実施したキャンペーンが紹介されています。同様の取り組みは、企業の公式ツイッターアカウントや公式Facebookページ、LINEアカウントなどの普及により、既に珍しくなくなっていると言うこともできるでしょう。
 
例えば、サントリーとソフトバンクがテレビCMでコラボを行った際には、Facebookページ上でも両社が告知コラボをしたことが話題になりました。

サントリーコーヒー「BOSS」×「ソフトバンクモバイル」 コラボプロモーション

企業のオウンドメディアが、いわゆるマスメディア企業のメディアと同じような価値を持ち始めるのであれば、コラボ企画でバーターとして告知するだけではなく、単純に広告費を支払うことでメディアとして利用させてもらうというのは何もおかしな話では無いわけです。

365日「広告主」である必要はない

「CLUB Panasonic」には800万人を超える会員がおり、Webサイトの月間PVは2億を超えるそうですから、一般のメディアと比べてもかなり力のあるメディアと言うことができます。さらにはパナソニックの家電を購入する属性のユーザーが多いということを考えると、ある程度単価の高い商品を購入する購買意欲の高いユーザーを抱えているメディアと見ることもできるわけで、魅力的な媒体でしょう。

実際、すでにパナソニックでは昨年『CLUB Panasonicファン・フェスタ』という会員向けのイベントを開催し、ロイヤルティーの高いファンを集客できることを証明しているのです。

参考:記者の眼 — Web会員組織が大化け、パナソニック「上得意客限定」イベントで見せた底力:ITpro

ライバル企業の広告をどこまで許容するのか、広告事業によってユーザーの離反を招かないのかという議論は出てくると思います。ただ今回は、広告事業の最大化を目指すというよりはあくまで会員活性化のための広告事業という位置付けのようですから、広告収入に依存しているメディア企業よりもハードルの高い広告出稿基準を作ることで、会員にメリットのある広告事業を確立できる可能性も十分あるわけです。

そもそも、いわゆるマスメディア企業であるテレビ局が看板やポスターなどの広告を広告主として活用することは珍しくありませんし、ヤフーやスマートニュースのようなネットメディアを運営する企業が広告主としてテレビCMを活用することも珍しくない時代となっています。

ソーシャルメディアアカウントの普及もあり、今や自社のメディアを全く持っていない企業の方が実は少ないはずです。ペイドメディアである「広告」に頼らなくても、オウンドメディアやアーンドメディアで十分話題を喚起ができるケースも増えていますから、実は純粋に「365日広告主」であり続ける企業は少なくなっているはずです。

言葉遊びのような議論かもしれませんが、そういう意味では、自分たちは「広告主」だと定義してしまうと、実は手元に活用できる媒体があるという事実を見逃してしまっているかもしれません。

Author Profile

徳力 基彦
アジャイルメディア・ネットワーク株式会社  取締役 CMO ブロガー

NTTやIT系コンサルティングファーム等を経て、2006年にアジャイルメディア・ネットワーク設立時からブロガーの一人として運営に参画。「アンバサダーを重視するアプローチ」をキーワードに、ソーシャルメディアの企業活用についての啓蒙活動を担当。2009年2月に代表取締役社長に就任し、2014年3月より現職。書籍「アンバサダーマーケティング」においては解説を担当した。
Pocket

徳力 基彦 • 2016年8月17日


Previous Post

Next Post