昨今のデジタルマーケターの「転職」や「独立」から考える日本企業の人材育成

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※このコラムは、宣伝会議Advertimesに寄稿したものの転載です。

日本はマーケターの社内評価と社外評価が乖離している?

前回のコラムでは、日本の広告主と広告代理店がイノベーションのジレンマにはまらないために重要なポイントの一つは、広告の効果測定を施策ごとではなく俯瞰的に全体を見ることではないか、という話を紹介させてもらいました。

もう一つ、最近この広告業界のイノベーションのジレンマに関連して話題に上がることが多いのが、デジタルマーケティングが分かる人材の社内における位置付けについてです。ここではあえて「デジタルマーケター」と呼ぶことにしましょう。

昨年は、日本のデジタルマーケティング業界を代表するデジタルマーケターといえる花王の本間充氏と、良品計画の奥谷孝司氏が相次いで転職したことが非常に話題になりました。私自身もお二人にはデジタルマーケティングの取り組みや考え方など様々なことを教えてもらった経験があり、転職のニュースにはビックリしたものです。

こうした転身のニュースが話題になる中で、一つ気になる仮説を日本マーケティング協会の勉強会で耳にしました。それは、日米におけるデジタルマーケティングへの対応に対する姿勢の違いです。

米国においてはCMOがトップダウンで従来の典型的なマスマーケティングからデジタルマーケティングへのシフトを進める一方、日本においてはボトムアップでデジタルマーケティングが分かる人材が周囲の部署を巻き込んで対応しようとする、これはよく聞く話です。ただ、その結果、日本においてはデジタルマーケターの社内評価と社外評価が乖離してしまい、最終的にはデジタルマーケターの転職につながっているのではないか、という問題提起を含んだ仮説でした。

歴史を振り返ると、日本コカ・コーラや日本マイクロソフトでマーケティング部門を指揮した江端浩人氏のIMJへの転身や、ドクターシーラボのネット販売事業を統括してきた西井敏恭氏の独立、ad:techのキーノートスピーカーを勤めたこともあるアディダスジャパンの津毛一仁氏のGoogleへの転職など、業界を代表するデジタルマーケターがいわゆる広告主側の大企業からネット企業に転職したり、独立したりするというケースが増えてきている印象があります。

参考:IMJのCMOに江端浩人氏が就任へ | AdverTimes(アドタイ)

今年に入って、デジタル時代の新しいミュージックフェスティバルとして話題になったTHE BIG PARADEの仕掛け人でもありユニバーサルミュージックでイノベーション担当だった鈴木貴歩氏が独立するというニュースもありました。

そういう意味では、知名度の高いデジタルマーケターの転職や独立は、日本企業に限った話では無く、外資系企業も含んだトレンドということも言えるでしょう。

参考になるのはキリンの取り組み

実際問題、スマホやソーシャルメディアの普及、ビッグデータの浸透など、マーケティングにおけるデジタル技術の重要度は増す一方で、その変化のスピードに比べるといわゆるデジタルマーケターの人数の増加ペースというのはかなり限定的な印象です。

そもそも、多くの企業でマーケティングに従事する人数がそれほど多くなく、デジタルマーケティングの専任のスタッフを増やすのも難しいという話をよく聞きます。既存の仕事をこなしながらデジタルも学ばなければいけなくなっているというケースも多いでしょう。

また、前回のコラムで紹介した日本コカ・コーラのデジタル側の担当者である豊浦さんが悩んでいたように、日本においてはテレビCMのようなマス広告の影響が非常に大きいため、デジタル施策はマス広告の成果の中に埋もれ、効果が見えにくいということになりがち。当然、担当者としてもリスクの高いデジタル施策よりも、確実に成果の出る従来通りのマス広告の施策をやっている方が評価され、出世もしやすいと考える。そうなると、デジタルを学ぶインセンティブが低いという傾向が出てくるのは当然のようにも感じます。

ただ、やはりここで問題となるのは、このままでは日本企業は世界的なデジタルマーケティングへのシフトの波に乗り遅れてしまうのではないか、という点です。こうした傾向に対する組織的な対応として一つ注目すべき事例といえるのがキリンにおけるデジタルマーケティングチームの立ち上げの取り組みです。

キリンでは、デジタルマーケティング部門を立ち上げるにあたり、社内から人材を移動するだけでなく外部からも積極的に人材を採用し、短期間で層の厚い組織転換を行うことに挑戦しました。

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キリン取締役 CMO 橋下誠一氏(写真提供:JAA)。

この挑戦の中心人物であるキリン取締役CMOの橋下誠一氏は、Web広告研究会が実施している第3回Webグランプリ贈賞式において「Web人大賞」を受賞されています。このWeb人大賞には、私自身も審査員として携わっていますが、審査の場でも話題になったのが、キリンの日本企業らしからぬ大胆な組織立ち上げの動きでした。

参考:「Web人大賞」にキリン取締役CMO・橋本誠一氏、ブランド基軸の経営に評価

授賞式で橋本氏は、デジタルマーケティングを「てこ」にして、キリングループのマーケティングをキリン主語からお客様主語に変えていきたいという思いがあったと話をされています。橋本氏によると、デジタルマーケティングへの取り組みのゴールはあくまで、顧客にとっての「ブランド価値を最大化すること」。デジタルマーケティングの部署は、最新技術についていくための部署ではなく、お客様主語のマーケティング実現を模索するための部署である、ということが言えるのかもしれません。

当然、この組織の立ち上げによる成果が出てくるかどうかは、これからの活動次第とも言えますが、日本企業においても経営陣の覚悟次第で短期間のデジタルマーケティングの組織立ち上げが可能であることを証明している良い事例だと思います。

一般的に、日本企業においては「デジタルマーケティング」とは、あくまでデジタル領域のマーケティングの話であると認識されることが多く、組織の中でごく一部の人間がデジタル専任になることが多いようです。ただ、実際には顧客がスマホやソーシャルメディアの普及によりデジタル化し、それにより企業側のマーケティングも過去のアナログからデジタルに変わらなければならない、というのが広い意味でのデジタルマーケティングへのシフトと言えます。

そういう意味で、デジタルマーケターの育成や評価に悩んでいる日本企業にとって、社外の人材と社内の人材を組み合わせて、チームでマーケティングのデジタルシフトに対応しようとしているキリンの取り組みは一つのヒントになるのではないかと思います。

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amnblog • 2016年8月12日


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